第3話 九頭竜(ナイン・ヘッド・ドラゴン)
九頭竜
今から100年ほど前から存在する犯罪組織である。
組織名で分かるように、9人の幹部がいて、それぞれ身体の何処かに竜とⅠからⅨのどれかの数字が刻まれていた。
幹部1人1人の実力は高く、一騎当千の実力と言われ、上位メンバーのⅢからⅠに限って言えば1人で1個師団あるいは1個軍隊を相手取れるとされた。
数々のありとあらゆる犯罪を犯してきて国からも幾つも滅ぼした彼奴だが、その存在は物語や噂話のような存在で、一般人や普通のハンターには、耳馴染みのない組織であった。
ただ存在はしている。
秘密主義で組織の目的も何一つとして分からず、分かっているのは幹部が9人と、その幹部には竜と数字のタトゥーが刻まれているということだけ。
それでも、情報はほぼないに斉しいが、やってきた犯罪の危険度から、犯罪ランクはS+とされていた。
「で、お前は「九頭竜」の内の、ⅤとⅦをの2頭を倒したんだな」
「はい。そして倒すときに自白させました。「九頭竜」は、この大陸のどこかに本拠地をおいていると。ハンターをしながら情報を集めていくつもりです」
「……そうか。何か証拠となるものはあるか」
シヴァは首を横に振った。
「ありません。ⅤとⅦを斃した時に、Ⅲが邪魔に入り、遺体を回収されて証拠を採ることが出来ませんでした」
「Ⅲ。上位メンバーと遭ったのか」
「はい。蠱惑的で、まるで娼婦のような格好をしてました。フードを被っていたので顔は分からなかったですが、胸元に「Ⅲ」とその数字に巻き付くように竜が書かれたタトゥーがあったので、間違いないと思います」
取り逃がした事が悔しいのか、シヴァは拳を振るわせる。
「お前さんが闘った、Ⅲはどれぐらいの強さだった」
「……ⅤとⅦの連戦の後だったので取り逃がしましたが、もし万全な状態なら五分五分といったところでしょう」
「ふん。シルヴァーナ、こいつと一緒にここまで来たんだ。五分五分と仮定した場合、お前ならⅢに勝てそうか」
「無理です。私はシヴァよりも数ランク弱いです。もしシヴァが互角というのなら、私には万が一に勝ち目は有りません」
「――そうか」
ワイゼルは頷いた。
「カレンデュラ」はパーティーとしてはBランクであるが、シルヴァーナ単身でいえばAランクの者と同等程度の実力はある。
そのシルヴァーナが、勝てないと断言するならば、Ⅲの実力は最低でもSランク以上の実力を持っているということだ。
すると対抗できるハンターは、極僅かということになる。
ワイゼルはどう対処するべきか考えていると、シヴァが話しかけてきた。
「あの、ハンター登録したいんですが、可能です?」
「ん。ああ。本来なら、ちょっとした実技試験を受けて貰うところだが、シルヴァーナが実力を認めてるんだ。オレの判断で、特別にハンター証を発行してやるよ」
「ありがとうございます!」
「いいんですか?」
「実力はあり、礼儀もそれなりに弁えて、常識もそこそこある。問題はないだろ。それにだ。「九頭竜」とぶつかるのなら、戦える戦力は1人でもいた方がいい」
「確かに、そうですね」
「シヴァ。もしも「九頭竜」が、何か仕掛けてきたら、戦って貰うぞ」
「勿論。彼奴らは必ず私が斃します」
静かな闘気を放ちながらシヴァは頷いた。
「ところでだ。兜をとって顔ぐらいは見せてくれないか?」
「……ごめんなさい」
「ギルドマスター。シヴァの漆黒のフルアーマーは、最硬レベルの防御力を誇る反面。装備した時に願ったことを達成するまでは、人前では脱げない詛いがかかっていると、旅で言ってました」
「む、そうなのか。確かに高レベルの装備品には、何かしら条件や詛いがあると言うのは、よく聞く話だ」
「――私が、このフルアーマーを脱げる時は、「九頭竜」を滅ぼせた時です」
しばらくワイゼルと雑談をするシヴァとシルヴァーナ。
その間に、ギルド本部を破壊した事による修繕費を差し引かれた報奨金と、ハンター・ライセンスを受け取った。
「――Cランク?」
「実力は折り紙付きだから特例だ。本来ならEランクから始める所だが、高い戦闘能力を持つハンターを下位ランクのままにしておくほど愚かじゃねえよ」
「ありがとうございます」
「Bランクに上がるには、依頼回数と評価が一定だとあがれる。どんなに依頼回数が多くても、依頼人からの評価が悪かったら、Bランクにはあがれないぞ」
「オルクスって人は、Bランクでしたよね」
「……酒さえ飲まなければ、まあ、許容範囲なんだよ。アイツは」
「酒だけじゃなくて、私が絡むと、いつも荒れますけどね」
シルヴァーナは面倒くさそうに溜息を吐いた。
もう何十回というほど絡まれて、いい加減にうんざりしているのだが、相手であるオルクスは挫ける事無くアプローチしていた。
「しばらくは絡まれる事は無いだろ。彼女であるシヴァに向くだろうからな」
「あれはっ。シヴァの冗談です!」
「反応が予想外だったなぁ。みんな、冗談だと思うと思ったのに、割とガチ目で信じてましたね。日頃の行いが物をいうので、悪いのは、私じゃなくてシルヴァーナさんだと思います」
「……」
ギロリッとシルヴァーナはシヴァを睨み付けた。
兜で顔の表情は見えないが、苦笑いをしているのは感じ取れた。
因みにシルヴァーナは、同性愛者ではなくて、普通に男性が好きである。
ただし本人の意思に反して、モテるのは残念なことに男性では無く、女性の方が圧倒的に多かったりする。
「そろそろ結婚適齢期だからって、無理はするなよ。お前に近い年齢は、結婚してハンターを引退するヤツが多いんだ」
「うるさい、ギルドマスター。セクシャルハラスメントですよ、それ」
「お前レベルの女性ハンターに引退されたら、王都ハンターギルドにとって大損なんだ!」
「ご心配なく! 残念なことに相手がいませんよ!! そう、相手、が――」
自分でハッキリと言って落ち込むシルヴァーナ。
「だ、大丈夫ですよ。きっと運命の人がみつかります」
「すまなかったな。ハンター同士の合コンもあるんだ。参加ぐらいしてみたらどうだ」
シヴァとワイゼルは慌ててシルヴァーナを慰める。
「おっと、そう言えば用事があるんだった」
そう言いつつワイゼルは、部屋を出て行った。
逃げたな。とシヴァは感じたが、敢えて呼び止めなかった。
下手に居られたら、余計な事を言う可能性の方が高い。
シヴァは溜息を吐きつつ、シルヴァーナに言った。
「シルヴァーナさん。依頼も無事終了したことだし、賞金首の報奨金があるので、パーと飲み明かしましょう」
「――うん。飲む。飲んでやる!」
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