第5話 第三王女誘拐事件勃発

 シヴァが王都に来てハンターになってから一ヶ月ほど経った。

 モンスター退治や賞金首などをこなし、評価が良く、強さも申し分ないことから、王都ギルドでは異例ではあるものの、最速でB級に昇格するかもしれなと囁かれていた。

 そんな噂をされているシヴァは、王都の市場を歩いていた。

 市場には新鮮や果実や肉。掘り出し物である魔法具や武器などが売られている。

 1人で見て回っていた所に、「カレンデュラ」の面々と遭遇した事で゜一緒に見て回っていた。


「なんか窶れてない?」

「金は水滴ほども出さないのに、文句だけ言ってくる人がいるからだよ」

「シヴァってもうパトロンがいるんだ」


 ハンターの中には、パトロンを得て活動する者も少なからずいる。

 通常のハンターと比べて安定的に稼げる反面。お抱えのハンターとなるので、依頼の受注や行動の自由度はかなり制限される。

 そのため自由度を制限される事を嫌い、パトロンになるという誘いを断る者もいる。

 「カレンデュラ」も誘われたことはあるものの、そう言った理由から断っていた。

 因みにパトロンがいるのは、中級から上級のハンターが多い。

 最上級のSランクとなると、実力はかなりあるものの、性格面がアレな者も多いため、パトロンが寄りつかないということもある。


「パトロンなんていいものじゃない。アレは私がこの世界で一番嫌いなタイプ」

「そんなにイヤなら、辞めたらいいのに」

「頼まれた案件が片づいたら解放されるから、それまでの辛抱で頑張るよ」

「その案件は片づきそう?」

「――もう少しで」


 口元だけ空いたフルフェイスの為、表情自体は分からないが、遠い目をしている事は「カレンデュラ」の面々は感じた。


「市場には、その案件で来たの?」

「ストレス解消の食べ歩きと買い物……。少し前までは、盗賊退治とかモンスター討伐で解消できてたけど、もう、最近は無理」

「た、大変だね」

「うん。凄く大変――」


 黒いオーラを放ちながらシヴァは言った。

 そんな雑談をしながら、シヴァと「カレンデュラ」の面々は市場を周り、買い食いやマジックアイテムを購入していた。

 再会した当初は、ストレスでやつれていたシヴァも、市場を回っている内に、少しは回復したようだった。


「それじゃあね。大変だろうけど頑張って」

「人数がいるようなら、声かけてくれていいからね」

「シヴァの強さには興味がある」

「ちょっとデメリットあるけど、疲労回復する魔法薬もあるから、欲しいなら声をかけて」

「ハハ、ありがとう。みんな」


 苦笑しながらシヴァは「カレンデュラ」のメンバーに対して答えた。

 分かれようとしたその時。

 物が壊れる大きな音が鳴り響いた。

 シヴァと「カレンデュラ」の面々は、顔を見合わせて頷くと駆けた。


「音がしたのは2ブロック先だと思う」


 アイシャの言葉に頷き、2ブロック先へと急いで駆ける。

 到着すると、高級馬車が建物に追突していた

 しかも王家の紋章が入っている特注車である。

 ただ通常は、王家の馬車といえば、護衛が多数つくのだが、転倒している馬車には、護衛騎士の姿が2人ほどしか見られない。

 その護衛騎士2人も、なにかしらの攻撃を受けたのか、地面に伏されていた。

 更に不思議な事に、馬車を引くはずの馬が建物の三階の窓にまるで磁力で引っ付いたかのようになっている。

 建物に追突した馬車の扉が勢いよく飛ばされる。

 そこから現れたの2人の女性。

 1人は少女。金髪のロングヘアーに学園服を着ていて、学生服から覘く肌は病的なまでに白い。

 そんな少女を抱えるのは、娼婦のように露出度が高い服を着た美女。

 姿を見た直後に、シヴァは剣を抜き、美女の方に斬りかかった。


「Ⅲィィィィィ!!」


 叫びながら一瞬で距離をつめようとしたシヴァだったが、引っ張られるかのように反対側にある建造物にぶつかった


「――誰かと思ったら、その声はシヴァ・マハーカーラ? わざわざこの大陸まで追ってくるなんて暇人ね」

「うるさい! 私たちにあんな事をしておいて! 絶対にお前は許さないッ」

「ふーん。態々、狗のように追いかけてきた貴方の相手をしてあげても良いのだけど、今は王女様を連れて行かないといけないの」

「王女、さま? Ⅲ。何を企んでいるッ」

「貴方に話す義理はないわ」


 Ⅲは豊満な胸から一枚のカードを取り出すと、カードは淡く輝く。

 カードは緑色の鱗を持つ飛竜へと姿を変えると、Ⅲは竜の背中へと乗る。


「――シヴァ。この大陸まで追って来たご褒美をあげる。ここから南東に行ったところにある廃城グメラスに明日までいる予定よ。もし戦う気があるなら来なさい」

「待て!」


 Ⅲはシヴァの言葉には応えず、クスクスと笑いながら飛竜に乗り南東へと飛んで行く。

 すると壁に引っ張られる磁力の影響が無くなり、シヴァは壁から離れる事が出来た。

 自由になったシヴァは、Ⅲが飛んでいった方を見ている。

 表情は分からないが、睨んでいる事は想像堅くない。


「ひ、め、様――」


 半壊した馬車の中から、ボロボロの姿をしたメイドがふらつきながら出てきた。

 「カレンデュラ」の面々は、慌てて駆け寄る。

 ローザは杖を掲げると、杖に埋め込まれているボール並に大きな魔石が光り出す。

 メイドの傷が少しずつ癒えていく。


「大丈夫? 攫われたのは誰?」

「第三、王女。フェイト、ヴァニラ・ヴォルガルド、様、です」


 第三王女、フェイト・ヴァニラ・ヴォルガルド。

 人前に出ることはなく、王城離宮に引き籠もっているとされる少女である。

 その理由は保有魔力がゼロだからである。

 この世界、この大陸には生ある者は、魔力を少なからず保有していた。

 魔力の量は、この大陸において一種のステータスであった。

 特に王族と言えば、その傾向が極端に高い。

 その中において魔力ゼロというのは、存在意義が問われる事である、

 だからか。護衛の騎士が2人という少なさも、そういう事が理由でもあった。


「シヴァ。どこにいくつもりなの!」

「決まっている。アイツが指定した場所に行く」

「待ちなさい。事は王女様の誘拐。国の一大事なのよ!」

「アレの能力の前に、雑兵は邪魔にしかならないよ。Ⅲのベクトル操作は、人の感情の方向性すらも操る。下手すると同士討ちが起こりかねない」

「……罠の可能性が高いのよ」

「そんな事は100も承知だよ。罠を恐れていたら、Ⅲと戦う事なんて出来ないッ」


 シヴァは語彙に明らかに怒気が含まれていた。

 その姿に危うさを感じたシルヴァーナは、「ああ、もう!」と言うと、自身のパーティーメンバーに指示を出す。


「ローザ。使い魔を使ってギルドに報告して。その方が王城に伝われやすいでしょう」

「ええ。了解したわ」

「私はシヴァを追うわ。――あの様子だと放っておけない。アイシャ、リーナ。貴女たちは……」

「ボクもついていくからね」

「リーダーが行くなら行く。私もちょっとはシヴァの事が心配」

「――Ⅲがいるって事は「九頭竜」がいるってことよ。今までにないぐらいの激戦になるかもしれない。それでも良いの?」

「格下より格上を相手にしないと実力はあがないよ」

「爺さまは言っていた。「武士道とは死ぬことと見つけたり」。まぁ死ぬ気はないんだけど」

「? リーナのおじいちゃんって死んでたっけ?」

「……氣を使って老化を抑えているとかで、現役バリバリ。男としてもバリバリ」

「うん。それ以上は聞きたくないなぁ」


 そのやりとりに笑みを浮かべる面々。


「それじゃあ行くわよ」

「シル。私はちょっと遅れてから行くわ。色々な場所に連絡をしておいて方がいいでしょう。移動しながらよりは落ち着いてした方が効率がいいの」

「分かったわ。お願いねローザ」

「ええ」


 シルヴァーナ、アイシャ、リーナはシヴァの後を急ぎ追う。

 残ったローザは、メイドや辺りの負傷者を治療しつつ、魔方陣から鴉の使い魔を数羽呼び出すと、言づてを言い聞かせ、外へ飛ばすのであった。


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