第6話 戦闘開始


 王都から南東に馬車で5時間ほどかかる場所に廃城グメラスはある。

 かつては隣接するユガルデ山に住まう盗賊や魔物討伐をするために使用されていたが、十年以上前に予算カットの影響で、廃城となった経緯がある。

 また城を維持するとなると膨大な金がかかるため、どこの貴族も購入はしなかった。

 ただ魔物や盗賊と対峙する為に造られた城だけあり、廃城となってからもある程度は防御力を保持していた事から、ならず者が住み着くようになってしまった。

 とはいえ、盗賊が本格的に住めば、周辺の治安は下がる。

 そのため年に数回は王国から依頼を受けたハンターギルドが居着いているならず者を討伐していた。


 シヴァが廃城グメラスに到着した時には、もう日が暮れて、空には月が出ていた。

 長い間、きちんと整備されていない所為か、門はなく城壁の至る所は崩れて穴が空いている。

 王都で借りた馬から降りて廃城グメラスへと入る。馬は近くに放置しておいた。


「ちょっとシヴァ。落ち着きなさいよ」

「――追って来たんだ」

「貴女が心配だからよ」

「ありがとう」


 シヴァはシルヴァーナはお礼を口にした。


「本当に来た。ちょっとした冗談のつもりだったのに」

「――Ⅲ!」


 声がした方向へシヴァは、怒鳴り声をあげる。

 ボロボロの元は2階立ての建物の屋根にⅢはいた。


「王女様はどこにいるの!」

「ああ、あの貧乳過ぎて心まで貧しくなっている姫様なら、あの城の地下牢にいるわよ」

「誘拐した割には、やけにあっさりというのね」

「欲しい物は別にあったもの。それを手に入れた以上、あの姫が姦されようと、売られようとどうでもいいわ」


 シルヴァーナの問いかけに、嘲笑しながら答えるⅢ。


「シルヴァーナさん。貴女たちは、王女様の救出してあげて。私はⅢと決着をつける」

「……大丈夫?」

「大丈夫。絶対に勝ってみせる」

「……分かったわ。アイシャ、リーナ、行くわよ」

「シヴァ。頑張ってね」

「応援してる」


 シルヴァーナ、アイシャ、リーナは城の方へ向かって走っていった。


「あら、お友達の手助けはいらないのかしら?」

「私は――。もう、お前の能力によって身近な人を殺したりしたくない」

「――ふふ一対一で戦うのは、私と戦う上で最適解だけど、それはそれに似合う実力があってのこと。あれからどれぐらい成長したか、お姉さんが確かめてあげる」


 シヴァとⅢの戦いの火蓋が切って落とされた。








 地震のように地面が揺れ、激しい音が鳴り響いた。

 シヴァとⅢが、かなり激しく戦っている事が窺える。

 揺れと音に反応してか、城からは厳つい顔の男達が出て来た。


「なんだてめぇら」

「寝てなよ!」


 アイシャは高速で拳に前に向けて放つ。

 拳はバチバチと紫電を纏い、拳を当てられた相手は感電して意識を失い地面に倒れた。

 かなり高電圧を受けたためか、白目を向き、髪の毛は焦げているものの、なんとか生きている状態である。

 ――雷迅拳――

 魔力を雷に変換して拳に纏わり付かせ殴る。単純な魔法拳。

 ただし、単純なだけあり、威力は高く、対人戦では効果は大いにあった。


「もう! 数だけは多いんだからッ、イヤになるよね!!」


 両手に魔力を溜める。

 バチバチと、今までに比較にならないぐらいの音が鳴る。

 アイシャは両拳を重ね合わせ前方に出すと、一気に魔力を放った。

 ――雷竜翔波――

 魔力の雷は竜の形を取り、前方にいる敵を襲っていく。

 十数名の男達は、雷竜の攻撃に当たり、雷迅拳と似たような状態となり地面へと倒れた。

 アイシャは少しだけ息が荒くなる。

 範囲技である分、魔力の消費が高く、一発放っただけでアイシャの魔力は半分程度になってしまった。


「相手は疲れているぞ! 数で圧せ! かならず生きて捕らえろ。たっぷり礼をしないと気がすまねぇ!!」

「はぁ、っ、はぁ……。最っ低、な、男達だね。ただ、ボクが簡単に負けるなんて思わないことだね」

「生意気な小娘だっ。てめぇを生きて捕らえて、オレが直々に

 相手をして、え、なんで、オレの身体が、身の前に、」

「首を刎ねた。1つ言っておく。アイシャは確かに身体の凹凸はなくて単純で考えなしに行動する猪突猛進を地でいく女だけど、お前程度が相手にしていい女じゃない」

「リーナ。リーナ。喧嘩売ってる。売ってるなら買うよ!」

「……手助けしてあげたのに」

「それはありがとう! でも、助けてくれた後の言葉はいらなかったよねっ」

「アイシャ。今は戦闘の真っ最中。構って欲しいのは分かるけど、戦闘に集中」

「人をかまってちゃんみたいに言うのはやめてくれるかなぁ!」


 アイシャは殴りながら、リーナは斬りながら、そんな事を互いに言い合う。

 普通に話している感じだが、コンビネーションに隙はなく、次々と男達が屠られていく。

 因みにであるが。リーナは技は今のところもっていない。

 師匠であるリーナの祖父曰く『カタナや剣は振り回しておけば相手は死ぬ。技? 必要ないだろ。必要なら勝手に作れ』とのこと。

 実際、リーナの祖父がいう「カタナを振り回して」という事は自身の体験から来ており、ただ振り回しているだけで、べらぼうに強い。ただ、ただ強い。そんな人である。


「……」

「どうかした?」

「雑魚しかいない。相手が「九頭竜」なら、もっと手強い相手がいるハズ。なのに出てこない」


 さっきリーナが首を斬った男はそこそこの強さはあった。

 それだけ。城から出てきて向かってくる男達は、雑魚としかいいようがないほどに弱い。

 リーナが斬った男がCランクとするなら、向かってくる男達はE或いはFと言った所だ。


「シルが王女様を助けるまでの囮役だけど、もしかしてシルの方に行った?」

「可能性はある」

「なら、早く全員斃してシルの元に向かおう」

「賛成」


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