第4話 打ち上げ

 ハンターギルドの一階は、大衆食堂のような飲み屋になっているが、奥の方には少人数から大人数まで人数に応じて使用できる個室がある。

 パーティー同士の秘密の会話や、依頼人との特殊な話をする時に良く使用されていた。

 個室、一部屋、一部屋には、ハンターギルドの魔導師が張った盗聴・盗視を妨害する魔法が複数張り巡らされており、それを解除するのは並大抵の者では不可能だ。

 奥にある個室の一部屋に、「カレンデュラ」のパーティーメンバーとシヴァが揃い、任務無事達成したことによる打ち上げを行っていた。


「無事に誰1人大怪我する事無く任務達成できた事を記念して」

「リーダーに彼女が出来た事を記念、」


 シルヴァーナの拳がアイシャの頭に降る。


「いたぁ」

「冗談でも、次言ったら許さないからね」

「はぁい」

「こほん。改めて、無事に任務達成できた事を記念して」


「「「「「かんぱーい」」」」」


 グラスを当てると、それぞれがアルコールを飲む。


「ぅぅ、頭痛い」

「自業自得。余計なこと言わなければいいのに」


 余計な事を言って頭を殴られたのは、アイシャ・ハルト。

 ジョブは格闘家。魔力を組み合わせた古武術を扱い、素手でありながら、ミスリルゴーレムを粉砕できる実力を持つ。

 青い髪に黒い瞳で、格闘家としてスピードを上げるため、軽装をしていて見るからに活発である事がうかがえた。


 頭を抱えるアイシャにツッコミを入れたのは、リーナ・スメラギ。

 ジョブはサムライ。祖父は海を向こう側、東にある国から武者修行でこの大陸にやって来た人物。

 カタナと呼ばれる片刃の剣を使い、神速の抜刀術が得意技。

 祖父の影響か、この国では珍しい黒髪で、瞳は赤い色をしている。

 アイシャとはパーティーにおいて突撃する事が多いので、特に仲が良かった。


「私は意外でもなく、ようやくって感じたけど?」

「ローザも殴られたい?」

「暴力反対。私は魔導師のなので、物理攻撃反対ー」

「いや、ローザは物理無効の魔法障壁張り巡らせているから、ダメージ受けないでしょう」

「それはそれ。これはこれよ」


 肩を竦めて言うのは、魔導師、或いは魔女。ローザ・ヴァンディス。

 尖り帽子に漆黒のローブを着込んだ、見るからに魔女と言った格好をしている。

 金色の髪は、腰まで伸ばしていた。

 パーティーでは味方のバフ、敵へのデバフ、攻撃魔法に防御魔法。「カレンデュラ」においては魔法関連を一手に引き受けていた。

 またパーティーにおいて一番潜在魔力の量が高い。


 その3人を纏めるのは、「カレンデュラ」のリーダー、シルヴァーナ・グラディウス。

 ジョブは重騎士かつパラディン。

 防御こそ最大の攻撃と言っても過言ではないほどの防御力を誇る。

 それ故に身持ちが堅いと、言われたり、言われなかったり。

 銀色の髪をポニーテールにしていて、顔は凜々しい。女性にモテるタイプである。


「シヴァはこれからどうするのー」

「当分の間は、王都を拠点に生活費を稼ぎつつ、「九頭竜」を探すつもりです」

「シヴァと五分五分ってだけで化物。さすが伝説の犯罪組織」

(あれ? 遠回しに私も化物って言われてるような?)


 リーナの言葉に疑問を感じたものの流すシヴァ。


「その「九頭竜」とは戦ったことがあるの」

「ⅤとⅦは戦い斃しました。Ⅲも戦いましたが……負けて逃がしました」


 舌打ちをして忌々しそうにシヴァは言う。


「そうなの。Ⅲってどんな戦い方だったのか聞いて良い? ハンター続けていたら、いつか遭遇するかもしれないでしょう」


 ローザは興味深そうに聞いてきた。

 隠すことでもないので、シヴァはⅢとの戦闘について語る。


「Ⅲは私と戦ったときは、磁力とベクトル操作を操ってました」


 『九頭竜』の上位幹部Ⅲ。

 能力の磁力が兎にも角にも厄介だったとシヴァは言う。

 Ⅲは自身をN極。シヴァもN極にする事で、近距離戦闘を出来ないようにした。

 更に周りに落ちている物を、S極にしてヘクトル操作して、あらゆる物がシヴァに向かって飛んでくるようになった。

 無作為に飛んでくる物を処理しつつ、Ⅲには磁界の影響で近づく事が出来ないため、中・遠距離での戦闘になった。


「あ、ボクは絶対にⅢの人とは戦いたくない。基本、ボクは接近戦タイプだもん」

「私も。持っているカタナに同極の実力を加えられたら武器使えなくて戦えない」


 アイシャとリーナは、苦虫を噛むような表情をした。

 一方でローザは、手を顎に置き考えていた。


「……もしかしてⅢは、伝説の特殊能力者かもしれないわ」

「特殊、能力者?」

「まだ神々がいた神代。そして特殊能力者しかいなかった時代。ある能力者が神と取引したそうよ。「過去・現在・未来。この世界にある特殊能力を全て自分だけの物としたい。特殊能力の代わりに魔力・氣を与えよ」と」

「……」

「傲慢すぎるでしょう。その能力者」

「でも、神は、それを承諾したそうよ。そしてこの世界からは、特殊能力が消えて、私たちが使っている魔力や、リーナのおじいさんみたいに氣を操る人たちのみとなったみたい」

「……」


 ローザは昔書物に書かれていた事を、うろ覚えながらも語った。


「シヴァは魔力じゃなくて、氣を使うんだっけ?」

「オルクスにした技。おじいちゃんが氣でやってた術に似てた。貫通させる技だったと思う」

「え。ああ、うん。私は氣が使えるから、魔力がゼロになんだ」


 ローザの話を聞いて沈黙していたシヴァは、慌てて答えた。


「どうかした?」

「い、いえ、その特殊能力者は、きっとろくでなしの引き籠もりニートで全て人任せのダメ人間だと感じただけです」

「なんかやけに具体的ね。なんだか動く怨みが籠もってるような――?」

「は、ハハ。もう特殊能力者とか、Ⅲの話はやめて、料理ほ食べましょう。せっかくの料理も冷めたら勿体ないです」


 あからさまに話題をかえるシヴァに少し疑問に感じた物の、確かに冷めた料理よりは、熱々の料理の方が美味しい。

 王都に連れてきて貰ったお礼と言うことで、シヴァが奢るという事で話は付いていた。

 それから「カレンデュラ」のパーティーメンバーと、シヴァはハンター関連の話は一切すること無く、賑やかに打ち上げを愉しむのだった。



「……ぅ。あの盗賊団の報奨金。修繕費差し引いた金額の半分以上が無くなった。現役ハンターの食欲、舐めてた」


 会計後に財布を覗いたシヴァは、溜息を吐き嘆くのであった。



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