魔力ゼロの無能王女。実は最強クラスの超能力者です。
華洛
第1話 黒騎士 シヴァ・マハーカーラ
ヴァルガルド王国。
それなりに大きな国土を持ち、自然豊かで、百年近くは周辺国との戦争も起こっていない平和な国。
そんなヴァルガルド王国が重視しているのが魔力である。
この大陸に生まれてくるものには、少なからず魔力が宿っていて、生まれたばかりの赤ん坊でも魔力は「1」は持っている。
いつから魔力重視になったかは定かではないが、一説には建国をした大魔法使い、ヴォルガルドが大陸最高クラスの魔力保有者であったからと言われている。
閑話休題。
ヴォルガルド王国は戦争は起きていないが、どうしても盗賊などといった悪人は存在している。
他国と繋ぐ交易の街道となっている所は、盗賊達の格好の餌場であった。
今も行商人を襲うべく、茂みに身を潜めて待ち伏せる盗賊団がいた。
盗賊団オルデス。
街道をシマとする盗賊団であり、ヴォルガルド王国でも指名手配ランクAに該当する凶悪な存在であった。
頭目であるオリヴァーは、かなりの魔力を保有していて、その実力は王国騎士団の少将レベルの上に、更に頭が良く回り狡がしいため、中々捕まらずにいた。
盗賊団オルデスの前に、3台ほどの馬車が通る。
通常の馬車より一回り大きく、護衛で雇っているであろうハンター達も重装備だ。
護衛のハンターの中でも特に全身黒色のフルアーマーの存在が気になった。
他に数人のハンターは、魔力からして、どうにか出来るとオリヴァーは確信していたが、黒騎士からは魔力が一切感じられなかった。
魔力を抑える道具はない事はない。
幼い頃に幸不幸か兎も角として大量の魔力を保有していて制禦するために魔力を押さえ込んだり、犯罪者を拘束したりなど、色々な用途で使用されていた。
ただどんなに押さえ込んでも、全くのゼロということはないし、現状でできる道具は存在しない。
だから、黒騎士の魔力を全く感じない事に、酷く違和感をオリヴァーは感じた。
少し考え、オリヴァーは決断を下す。
――襲え
オリヴァーは部下に先行して襲うように指示を出した。
指示に従い十数名の盗賊達が、火、水、雷などの属性のボールや矢を放つ。
馬は驚き進みを止めると、盗賊達は一斉に茂みから姿を現した。
盗賊達の手には剣や槍が握られている。
「盗賊ッ。リーナとアイシャは馬車を護って、ローザと私は盗賊を相手を」
「必要ない」
「――黒騎士ッ。確か、シヴァだっけ。必要ないってどういう意味」
「もう……終わっているから」
黒騎士はシルヴァーナの言葉に淡々と答える。
直後。盗賊の頸から血が流れ始めるし、頸がズレて、落ちた。
姿を現した盗賊達の頸を悉く落としたのである。
シルヴァーナ達、ハンターは呆気にとられて言葉も出ない。
シルヴァーナ達はBランクのハンターパーティー「カレンデュラ」。
女性メンバーだけで構成された4人パーティー。
実力はそれなりに高い。
Bランクのハンターパーティーの中でも上位に位置して、近いうちにAランクに上昇間違いなしと言われていた。
そんな彼女達でも、黒騎士がどうやって盗賊達の頸を落としたのか皆目見当もつかないでいた。
一切の動作も無く、全く魔力を感じなかった為だ。
「シルヴァーナさん、だっけ」
「な、なに?」
「ちょっと頭を討伐してくる。直ぐに戻ってくるから、その間の護衛は任せた」
「ちょっと待ちな、」
シルヴァーナの制止を聞くこと無く、黒騎士は姿を消した。
オリヴァーは逃げていた。
万が一に備えて逃走経路は確保済みだ。
魔力で脚部を最大限に強化する事で、競走馬よりも早い速度で走っていた。
あの黒騎士がどうやって盗賊達の頸を斬り落としたのか、オリヴァーにも皆目見当がつかなかった。
経験上、そういう相手と敵対するのはヤヴァイと分かっていた。
両膝が激痛が走る。
「あ、がぁっ」
オリヴァーは両膝が切断され、身体が地面数メートル引きずる。
呻き声を上げながら、俯せの状態から身体を反対向けて後ろを睨む。
ゆっくりと歩いてくる黒騎士。
手には黒い刀身の剣が握られている。
その姿は、まるで悪魔のようであった。
「なんだ。なんなんだよ、お前はっ!!!」
「……私の名前はシヴァ・マハーカーラ。貴方を殺す者の名前だ」
「オレを、簡単に殺せると思うな!」
オリヴァーは魔力を高め、極大魔法を放とうとする。
「対処を間違ったね。極大魔法なんて発動に時間のかかるのじゃなくて、時間の短い魔法にすべきだった。まぁ後の祭りだけど」
オリヴァーの心臓に黒の剣が突き刺さる。
濃厚な魔力は霧散した。
胸元に刺さった剣を抜き、掌サイズの小箱を取り出して蓋を開ける。
箱は強烈に吸い込みを始め、大きさが違うオリヴァーの遺体を、縮小して取り込むと、蓋を閉じた。
「オリヴァー・カストロ。生死問わずの指名手配ランクA。ハンターギルドに持って行けば、多少は私の名が売れるはず。ううん、売れて貰わないと困る。計画に支障が出る。時間はあまりない」
少し焦ったような声を出しながら、小箱を懐にしまうと、護衛する馬車の元に黒騎士は戻っていった。
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