第2話 ハンターギルド
盗賊の襲撃から3日ほど経った。
それから盗賊達と遭遇することも、モンスター達も街道ということで遭遇すること無く、王都へと到着した。
王都へ到着すると護衛対象の商人から依頼達成の証文を貰うと、「カレンデュラ」と共に黒騎士はハンターギルドへと向かった。
流石に王都のハンターギルドは、王国内でハンター達の本部というだけあり、5階立ての大きな建物である。
一階はハンター達が飲食をする事ができる飲食店になっていて、二階から上がハンター業務の場となっている。
夕方という事もあり、一階の飲食の場は大勢のハンター達がいた。
勿論、一般人の利用も出来るが、ハンターの中には荒くれ者も多いため、危険回避のため一般人の利用は極僅かであった。
「私は受付に任務達成の報告をしてくるから、皆は先にご飯を食べてて。……シヴァはどうする?」
「換金する者がいるから一緒に行く」
「そう。なら、二階に行きましょう」
黒騎士は頷くと、シルヴァーナの後に続いていく。
「久しぶりだな! シルヴァーナ!」
「――オルクス」
途中。シルヴァーナは、巨漢に声をかけられると、イヤそうな顔をした。
オルクス・ラッセル。Bランクのソロハンター。
ソロでBランクに上がっている事から分かるように、実力はかなり高い。
「カレンデュラ」の面々にしても、一対一で戦えばシルヴァーナ以外は勝つことは難しいレベルである。
ただし酒癖がかなり悪い。
今も片手に酒瓶を持ち、顔を赤らめてシルヴァーナに絡んで来た。
「へへへ。相変わらずの美人だな。オレの妻に相応しい!」
「寝言は寝てから言いなさい。誰が貴方なんかの妻になるもんですか」
「相変わらずの言い方だなっ。長い付き合いなんだ、酒の酌ぐらいしやがれ」
オルクスが左手で無理矢理シルヴァーナを掴もうとした時、黒騎士が間に入り、手を叩いた。
「――なんだぁ、てめぇは」
「シルヴァーナさんの彼女です」
「なん、だと!!」
その発言に、鮭を飲んだり、飯を食べているハンター達は騒ぎ始めた。
――彼女ってことは、あの黒騎士、女か――シルヴァーナは、やっぱり、そっちだったか――男の気配は全くなかったもんな――その代わり女の気配は割と多かった――黒騎士の中身はどうなってるんだ。あのシルヴァーナを墜としたんだ、美形かかわいい系か――やっぱりシルヴァーナさんはそっちだったんだ。愛人でもいいのでおいてくれるかな――
「カレンデュラ」のパーティメンバーは、言葉は発しないが呆気にとられていた。
因みに愛人発言をしたのは、ウェイターの少女である。念のため。
「シルヴァーナにちょっかいかけたいなら、私を斃してからにして」
「良い度胸じゃねぇか。名を聞いてやる」
「シヴァ・マハーカーラ。大陸外から来たから、まだハンターじゃない。」
「それじゃあなんだ? ハンターになりたくて来たのかよ」
「目的の1つではある,」
「は、おもしれぇ。魔力ゼロのお前が、ハンターとしてやっていけるか、試してやるよ!!」
右手の掌にありったけの魔力を溜めたオルクスは、シヴァに向けて拳を繰り出した。
オルクスの得意技である。
魔力を溜めて殴る。単純であるが、威力は高く、数々のモンスターを屠ってきた技であった。
酒に酔っている所為もあり、手加減なしの全力の一撃。
それをシヴァは避けようともせず、拳を正面から受けた。
骨が複雑骨折する鈍い音がした。
「がっ、ぁぁああああっ」
左手で右手を抑えながら蹌踉めくオルクス。
拳の指は、あり得ない方向に曲がっていて、見るからに重症だと分かる。
シヴァは無言で歩くと、右手のパーの状態にしてオルクスの胸元に置く。
次の瞬間。破壊音が響き渡った。
オルクスの後ろ側の床には亀裂が奔り、壁は大穴が空いていた。
白目をむいたオルクスは、口元から血を流しながら、床へと膝をつき倒れ込む。
「殺した、の」
「まさか。ちょっと振動させて気絶させただけ。ハンターになる必要があるのに、殺して指名手配されるなんて本末転倒でしょう。それよりも、「時は金なり」。早く二階に」
「なんの騒ぎだ!!」
シヴァがシルヴァーナに二階に行こうと促そうとする。
すると二階から怒鳴り声が響き、ハンター達が一斉に二階を見る。
そこに居たのは、50歳ほどの初老の男性。
髭を蓄えた厳つい顔で、一階を睨み付けている。
舌打ちをして階段を降りてきて、シヴァとシルヴァーナの前に立つ。
「ハンターギルド内でハンター同士のバトルは禁止だと規則がある事を知っているか!」
「私、まだハンターじゃありません」
「ワイゼル、ギルドマスター。彼女は「外」からの人で、まだハンター登録されていません。港町でたまたま会い王都まで一緒にやってきました」
「それに正当防衛です。向こうが殴りかかってきたので、一撃に対して一撃を返しただけです」
「……」
ギルドマスター。ワイゼル・バニューラ。
元Aランクハンター。現役を引退した今でも、ある程度の強さは保っているじいさん。
厳しいことで有名であるが、できるだけハンターの死亡率を下げる事を目標に掲げていて、実際に彼がギルドマスターに就任して以来、ハンターの死亡率が30%ほど低下した。
そのため厳しく恐れられているが、同時に尊敬もされている人物である。
ワイゼルは溜息を吐いて頭を抱える。
「もういい。おい、誰かこの小僧を医務室に運べ。治療費は吹っ掛けておけよ! 床と壁とかの修繕費も、忘れずに請求しろ。それと、……お前は」
「シヴァ・マハーカーラ」
「シヴァか。正当防衛というなら、修繕費の半額は払って貰うぞ。こういうのは喧嘩両成敗が相場なんだ」
「――分かりました」
頷いたものの、そう言われて困ったのはシヴァだ。
とある理由からシヴァは、一文無しに近い状態である。
「カレンデュラ」と王都に来るまでの間は、モンスターを調理したり、野生の果物やモンスターを採ったりして基本野宿生活をしていたため、お金はそれほど必要で無かった。
少し考えて思い出した。
ちょうど手元に生死問わず死体があった事を思い出した。
懐にしまい込んでいた小箱を出し、蓋を開けた。
小箱から風が吹き出し、収縮した遺体が無造作に地面に落ちた。
「こいつは。まさか、オリヴァー・カストロか!」
「換金。お願いします。修繕費差し引いても、余ると思います」
シヴァは有名になりそうなAランク以上の指名手配犯は、ほとんど覚えていた。
ただし賞金首にかけらけている賞金までは把握していなかった。
修繕費はどれくらいいるか分からない以上、もしかしたら不足する可能性がある。
その場合は、指名手配犯かモンスターでも狩ろうかとシヴァは思案する。
「コイツは王国国内で、十二分に悪さしたヤツだ。修繕費払ったとしても、それなりにお釣りが出るだろうよ」
「――良かった」
「「カレンデュラ」。お前達も一緒に倒したのか?」
「い、いいえ。襲われはしましたが、盗賊団は全てシヴァが倒して、私達は見ることしか出来ませんでした」
「ほう」
シヴァを値踏みするような視線をシヴァに送る。
「「外」から来たと言ったな。態々、この大陸、この王国に何をしに来た」
「幾つか理由はあります。1つはハンターになるため。1つはハンターをしながら、ある犯罪組織の情報を探すためです」
「犯罪組織の情報だと? なんて名前の組織だ」
「……――「九頭竜」。私の故郷を滅ぼした組織です。この大陸に奴等の本拠地があると知ったから来ました。「九頭竜」の2頭は始、」
「ちょっと来い!! シルヴァーナ。こいつを連れてきたんだ。一緒に来いッ。職員はオリヴァーの遺体を鑑定して、報奨金を用意しておけ」
シヴァとシルヴァーナは、ワイゼルにギルドマスターの部屋まで連行されたのだった。
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