第13話 ミスリル・ドラゴン
ヴォルガルド王国にとってガルヴァトス鉱山は重要地の1つである。
理由は、この大陸でも稀少金属であるミスリルが採掘が出来るからだ。
巨大な大陸においてもミスリルが採掘出来る鉱山は、5つにも満たない。
ミスリルは、魔力の浸透が最高レベルの銀系鉱物だ。
魔力が物をいうこの大陸において、魔力と親和性が最高レベルであるミスリルという鉱物の価値は、言うまでもなくかなり高い。
戦士達はミスリル製の剣を持つ事を夢見て、魔法使いはミスリル製の杖を使うことに憧れる。
王族や貴族たちにしてもミスリルで造られた物を所持している事は、一種のステータスであった。
因みに、銅系鉱物最高なのはオリハルコンである。
ミスリルが採掘出来るガルヴァトス鉱山は、戦場と化していた。
相手は盗人でも他国の兵士でもなく、鉱山の地中深くに眠っていたアース・ドラゴンの変異体、ミスリル・ドラゴン。
全長150メートル。翼はなく四本の手足で地上を歩くトカゲ型のドラゴン。
最大の特徴は鱗が全て銀色に輝き、1つ1つがミスリルである点だ。
ミスリルによって覆われているため、魔法に対してはかなりの耐性を持つ難敵。
目覚めた当所は、王国の騎士団で対処していたが、ミスリルとドラゴン属性の耐性が合わさったミスリル・ドラゴンは最硬であった為、手も足もでなかった。
王国としても、採掘場にミスリル・ドラゴンを放置することは出来なかった為、ハンターギルドに依頼を出し、百人近いハンター達が集められ、レイドバトルが繰り広げられていた。
レイドバトルに参加している百人近いハンターの中には、「カレンデュラ」の面々の姿もあった。
「硬い。とっても硬いんだけど! 通常攻撃どころか内功も通らないしッ」
「私の抜刀術でも、傷1つ付けられない――。いやになるぐらい硬い」
「ミスリル・ドラゴンは、アースドラゴンの変異体だからね。たださえ硬いドラゴンの鱗がミスリルに変化してるんだから、硬くて当たり前でしょう」
アイシャは拳を叩き付けながら、リーナは納刀と抜刀を繰り返しながら文句を言う。
それに対してローザは、冷静に突っ込みを入れる。
そもそも簡単に傷が付くようなら、王国騎士団がハンターへ依頼する訳が無かった。
「ローザもちゃんと仕事しなよ」
「私達だけが働いてるのはズルイ」
「――魔法攻撃しろっていいたいの?」
アイシャとリーナは勢いよく首を縦に振る。
それを見たローザは溜息を吐くと、杖を構えた。
杖に埋め込まれている魔石が輝くと、炎と雷と闇と光の四色が高速回転している直径10メートルほど大きさの球体が現れる。
空中から勢いよくミスリル・ドラゴンへと当てた。
するとミスリルで出来た鱗が反応して、ローザが放った魔球を全て吸い取った。
鱗が輝くと、先ほど吸収した魔球と同じ色をした閃光が、アイシャ、リーナ、ローザがいる方が向けて幾つも放射線状に放たれた。
もう一度、深く溜息を吐いたローザは、再び杖を振るう。
空間が歪み、ミスリル・ドラゴンが放った幾重の閃光1つ1つが、ローザが作りだした空間に飲まれた。
そして少し離れた場所から、轟音がしたと同時に地面が揺れる。
「ね。魔法攻撃すると、こうなるの。分かった?」
「分かってるなら、攻撃する前にどうなるか言いなよッ」
「直撃したら危なかった!」
「ちゃんとしないように、護ってあげたでしょう。それに貴女達のことだから、実際に体験してみないと文句を言い続けるのが目に見えてるわ。何年一緒のパーティーを組んでると思ってるの」
「「……うぐ」」
文句を言ってみたものの、反論させて言葉に詰まらせる二人。
「ミスリル・ドラゴンの攻撃の仕方は、私よりも貴女達が適性が高いの。シルを見てみなさい」
ローザはシルヴァーナへ指を向けた。
シルヴァーナは盾を地面に刺した状態で置き、バルディツシュを両手持つをして神経を集中させている。
地面を勢いよく踏み飛び上がった。
バルディッシュを振り上げ、全ての力を凝縮させ振り下ろした。
ミスリル・ドラゴンの鱗は魔力を吸収する為、淡く光り輝くものの、シルヴァーナの攻撃の方が僅かに上回った。
鱗は砕け散り、バルディッシュがミスリル・ドラゴンの皮膚を抉り、血が少し飛び散る。
「ッ」
シルヴァーナは、ミスリル・ドラゴンの上から跳ぶと地面に落着した。
渾身の一撃で破壊された鱗は元より、傷すらもあっという間に回復されてしまう。
「さすが竜種ね。圧倒的な魔力からくる回復力は、最早復元に近いレベルと見て良いわ」
ミスリル・ドラゴンの回復力を見て、関心するローザ。
「ローザ! 貴女の事だから、奥の手の1つや2つあるでしょう!」
「あるには、あるけど。奥の手と言うのは、人前では曝さないものよ。こんな百人近くいる場所では、とてもとても無理ね」
ローザは飄々とした感じて言う。
ミスリル・ドラゴンは対魔法防御は、この世界でも最高レベルだ。
攻略法は魔法を直接的に叩き込まず身体強化に回し物理で殴る――先ほどシルヴァーナがしたようなやり方か、或いはそれ以外、つまり特殊能力を使用すること。
「九頭竜」のメンバーであるローザは、特殊能力を1つだけ授かっている。
本来であれば、特殊能力者が魔法を使えないように、魔力を持つ者は特殊能力を使えない。ただ抜け道はあった。
特殊能力の代理行使。
「九頭竜」のナンバー持ちの身体の何処かにある数字の紋章は、特殊能力を代理行使する事が出来る証でもある。
(Ⅰから授かった特殊能力なら、ミスリル・ドラゴン程度は瞬殺できるんだけど、目立ち過ぎるのよね。シル達だけなら、問題無いのだけど)
少し悩んでいると、ミスリル・ドラゴンの鱗が淡く輝き始めた。
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