第14話 エゴ
――煩わしい――
ミスリル・ドラゴンは苛立っていた。
地中深くに引き籠もっていて寝ていた所を起こされ、勝手に騒いでいる。
痛みはほとんど無いが、身体に無作為に攻撃され、五月蠅く騒がれては引き籠もる事が出来ない。
「分かる。その気持ち。凄く分かる」
ミスリル・ドラゴンの目の前に現れたのは、外だというのに白の薄いキャミソール一枚に精霊のような羽を生やした少女。
フェイト・ヴァニラ・ヴォルガルド。
共感するように首を縦に振っている。
しかし、ミスリル・ドラゴンは呻く。呻くことしか出来なかった。
細胞が逃げろと強く指示を出している。
そしてフェイトが出現した時点で、今まで五月蠅かったのが嘘のように静まりかえっていた。
ミスリル・ドラゴンが周辺を確認すると、まるで時間が止まっているかのようだった。
「時間が止まって訳じゃない。ただ、今は刹那の時間を通常の時間に認識させているだけ」
――貴様、何者だ――
「私は、見ての通りの美少女さ!」
――……――
「……言いたいことがあるなら言えば?」
――我は竜だ。人間の美醜など分かるか――
「む。それは確かに。なら言い直そう。お前をこれから殺す者だ」
フェイトは殺気を放ち、笑みを浮かべる。
「まぁ、お前に恨みとかはないんだけどね。私は今。父親の所為で、凄くストレスが溜まっちゃてるんだ。それを思いっきり殴って発散しようと思うんです」
――貴様は我を殴って殺すつもりか――
「そうだけど? 出来ないと思う」
出来るだろうな。と、ミスリル・ドラゴンは感じた。
目の前の人間は、数百年前に引き籠もる原因となった人間に感じが似ていた。
その人間は、「ミスリル・ドラゴンね。私の能力が通じるか勝負だ」と、勝手に勝負を挑んできて、瀕死の重体を負わせると飽きたのか、去って行った。
ミスリル・ドラゴンは、あの人間に二度と会わないように、鉱山深くに引き籠もる事になった経緯がある。
「それともう1つ。この場にいるハンター達を殺されたら、私が凄く困るから」
――……――
「ハンターは我が国の大切な税の収入源なんですよ。この人数を殺されると、税収が下がって、一番真っ先に受けるのは引き籠もりの私になるのは間違いない。あの父親なら平気でしてくるっ。だから、その原因のお前を殺す。私のエゴの為に死ね」
――……――
「だから、お前も全力で私を殺せる攻撃をすればいい。勝って生き残った方が、好き勝手にする。win-winでしょう。私が仕掛けてきたんだから、先行は譲るよ」
――ハッハハハッハハハ。いいだろう。我に先に攻撃させた事を後悔するのよ、人間――
ミスリル・ドラゴンは呻く。
ミスリルで出来た全身の鱗が、バチバチと激しい音を立てる。
数百年。引き籠もり眠っていた事で、溜めに溜め込んだ魔力を全て出し尽くす。
顎を下げ、口を大きく開けると、魔力が口に魔力が収縮されていく。
フェイトは時間操作の特殊能力を解き、自身の攻撃に集中する。
「ミスリル・ドラゴンの鱗が発光してるぞ」「広範囲攻撃か」「いや、ブレスだ」「しかも、特大のヤツだぞ」「逃げろ。逃げろォォォォ」
時が動き出したことで、周りのハンター達は騒ぎ始める。
「精霊……妖精か」「ドラゴンの前に、精霊のような羽を生やした少女がいる」「いつの間に現れたんだ」「まさか、ドラゴンと闘うつもりなの」「まさか。あれは金色妖精――?」「金色妖精って、高レベルモンスターが出現したときに顕れ、モンスターを斃すっていう幻の」「髪は金髪で、顔は凄く綺麗で、身体は幼女の精霊だから、金色妖精、だっけ」
ミスリル・ドラゴンは白銀のブレスを放った。
大地は地震のように揺れ、空間が振動する。
フェイトは拳を構えた。
現在に生きる人々からは、神世と呼ばれている時代。
魔力持ちはおらず、特殊能力者達だけが居た時代。
その特殊能力者達の中でも、最高レベルの能力者が「神」と呼ばれていた時代。
破壊神とまで呼ばれた特殊能力者が持っていた「万物必壊」。ありとあらゆるものを破壊する事が出来る能力であった。
フェイトはそれを発動させると、ボクサーのように右手を構え、左足を一歩前へ出し、右手を最大限に前へと放った。
白銀のブレスは弾け飛び、
――ハッハハ、やはり敵わぬか。見事だ人間――
思念をフェイトに送ると同時に、ミスリル・ドラゴンは毀壊され、勝負は付いた。
王城。フェイトの私邸の私室。
ミスリル・ドラゴンを斃したと同時に瞬間移動をして戻ってきた。
「あー、スッキリした。引き籠もりとしては、外に出てスッキリするとかあるまじき行為だけど、うん、たまには良いかな。あの一瞬だけは、本当に楽し――――……」
ガクッと身体の力が抜ける。
フェイトの瞳から光が消えて虚ろな眼となる。
それはまるで、人格が変わったような変化であった。
「ダメだ駄目だダメだだめだだめだだめだだめだ。外で楽しいなんて思ったらダメだ。忘れないと忘れないと忘れないと。記憶を消さないと。消さないと――いけない」
人差し指と中指を重ね合わせて銃を模す。
頭に当てると、シャボン玉が割れるような音がした。
ふらつきながらベッドに倒れるのだった。
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