第15話 閑話 国王 ギルバート・シャセス・ヴォルガルド[Ⅰ]

 王都の一角にある巨大歓楽街。

 娼館や賭博場と言った大人の遊びが密集している一角である。

 その中でも最高級と噂される娼館の10階の窓辺に椅子を置いて、歓楽街の人の流れを見下ろす人物がいた。

 風呂上がりなのか、金色の髪は濡れ、バスタオル一枚の状態だ。

 誰が見てもイケメンであり、フェイトと似た輪郭。

 この国の王。ギルバート・シャセス・ヴォルガルド。その人である。

 部屋の中には、娼婦が1人、半裸の状態で、楽器を弾き音楽を奏でていた。

 机の上に置いてある通信用魔石が輝く。

 魔石には、宰相の名が表示されていた。

 ギルバードは目を向けること無く、指を鳴らす。


「――ネテル。オレの貴重な休みに連絡を入れてくると言うことは、重大案件なんだろうな」

『ええ。重要案件ですよ。ガルヴァトス鉱山のミスリル・ドラゴンが討伐されました』

「噂の『金色妖精』が討伐したか」

『……ご存じでしたか?』

「そうなる可能性はあったという程度だ。討伐後の後始末は予め出しておいたので十二分だろ。久しぶりの全休なんだ。戦争か、天変地異か、内紛か、それレベルが発生しなければ、もう掛けてくるな。報告は明日受ける」

『承知しました』


 通信用魔石から宰相の名が消えると光も消える。


「……来たか」


 ギルバートが呟いた。

 窓辺に薄く青白く輝く鳥が止まる。

 首には首輪が付けられており、正面には魔石が付けられていた。

 魔石の前に指先を置き魔力で図を書いて、手を引っ込める。

 すると鳥の前に腕が余裕で入るほどの穴が、空間が捻れて開いた。

 ギルバートは警戒すること無く、腕を突っ込み入れて封筒を取り出した。

 青い鳥は一度啼き、王城の方へと向けて飛び立っていった。


「狗からの手紙ですか」

「ああ」


 魔蝋によって封をされた封筒の、魔蝋部分に指を当てると赤く輝き、霧散した。

 封筒から手紙を取り出しギルバートと目を通す。


「オレの見立て通り、フェイトは魔法学院への入学と新入生代表を引き受けるそうだ。――ただ、オレの元に怒鳴り込んでは来ずに、部屋に引き籠もったみたいだが」

「……それだけの内容の割には、手紙の枚数が多いですね」

「アレはフェイトの事が好き過ぎる。本来ならオレ直属の隠密部隊「三頭狗」の1頭なのに、四六時中、フェイトの面倒を第一にしている。内容は、まぁ、見ろ」

「失礼します」


 女性は受け取ると手紙に目を通し、溜息を吐いた。


「……あの子には強く注意しておきます」


 手紙の内容は、1枚目の三行程度に、ギルバートの言った内容が記されていて、残り四行目から手紙四枚分は、主であるギルバートに対してフェイトの扱いに対する文句と、どれぐらいフェイトが可愛いくて愛らしいかの羅列であった。

 正直。三行だけ読んで、後は廃棄しても問題無い内容となっている。


「別に構わん。フェイトの近くに居たいという、物好きは、アレぐらいだろうよ」


 魔力ゼロであるフェイトの専属メイドを決める時はかなり難航することが予想されていた。

 この国で魔力ゼロと言うのは、将来性ゼロのようなもの。

 それでは従おうとするメイド達も中々居ない。

 そんな時に、自らが進んで手を上げたのが、ギルバート直属の隠密部隊「三頭狗」の頭の1人、クローディア・シェメルだった。

 ちょうどフェイトを見張るための人材を探していた事もあり、クローディアをフェイトの専属メイドとして配置させた経緯がある。


「今回の件は、ちょっとした実験だった。後でクローディアを宥めておいてくれ」

「畏まりました。――では、実験とは? 一応、クローディアを納得させるだけの理由を聞かせて下さい」

「……『金色妖精』だ」

「確か、ハンター達の間で噂になっている存在ですよね」

「そうだ。少し気になって調べていると、フェイトがストレスを極度に感じた時期と、『金色妖精』の出現時期が丁度重なっていた」


 フェイトが極度にストレスを感じた時期は、クローディアレポートで推測出来た。

 クローディアレポートは、フェイトに関して事細か書かれている。

 身長や体重は元より、何を食べたか、何をしたか、髪がどれぐらい伸びたか、そしてどれぐらい切ったか、スリーサイズの成長の記録、生理周期まで。

 もしも「三頭狗」で無ければ、フェイトの貞操の危機を感じて、強制解雇を視野にいれなければいけないほどの、事細かすぎる報告書。それがクローディアレポートである。

 そんな少し……少しだけ重い変態性を、特殊能力者であるフェイトから完璧に隠しているのだから、能力の高さが窺える。


 そんなクローディアレポートで、フェイトが極度にストレスを抱えた時期と、『金色妖精』が顕れた時期が、ちょうど同じであった。

 一度や二度であれば、偶然とも言える。

 それが十回以上となると、とても偶然として見過ごせるほどギルバートは無能ではなかった。

 だから、実験をする事にしたのである。

 本当にフェイトにストレスを与えたら『金色妖精』が顕れるかを。


 極度の引き籠もり体質であるフェイトが、ストレスを感じるとすれば、引き籠もりを辞めさせられることと、かなり目立つ行為。

 そこでギルバートは、王権を使い、フェイトをアリキリマス魔法学院への入学を整え、更にストレスを与えるために、新入生代表の答辞まで整えた。

 無能王女、そして魔力ゼロという、王族貴族の中でも最下層であるフェイトは、断ることはしないと、ギルバートは判断した。

 そしてギルバートの睨んだとおり、『金色妖精』は顕れた。

 今までの傾向からして、厄介なモンスターの所に顕れている事から、ガルヴァトス鉱山のミスリル・ドラゴンを始末するだろうと考えていた。


(魔力ゼロという事は、氣でもないな。言葉は違えど、大本は同じ性質の物だ。では、どんな力を持っているか。ああ――エクサ。お前の娘は、実に興味深いぞ)


 クックク、と、笑みを浮かべるギルバートは実に楽しそうであった。


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