第16話 閑話 国王 ギルバート・シャセス・ヴォルガルド[Ⅱ]

「戻りました」


 部屋に入ってきたのは、フェイトに魔法学院への入学案内などが入った封筒を渡したメイドだった。

 フェイトに、ギルバートとの肉体関係を指摘されて、顔面蒼白していたが、まるでその様子は見受けられない。


「エイシャ。間近でフェイト様を見た感想はどうだった?」

「恐い。凄く恐かった。よくクローディアは、あの子をあんな風に思えると思った」


 溜息を吐いて答えるエイシャ。


「……お前のフェイトに関する感想はどうでもいい。それよりも、どうだった?」

「はっ。フェイト様は、私とギルバート様が、肉体関係にあると、言い切ってました」

「どの時点で態度に出た」

「封筒を渡すときに、少し手が触れました――。それから態度が変わって」

「接触……接触か」


 エイシャ・マルドーナ。

 ギルバート直属の隠密部隊「三頭狗」の1人。

 今回、フェイト対してストレスを与える事のついでに、ギルバートはもう1つ実験を同時並行して行っていた。

 それはフェイトが、どんな能力を持っているかである。

 その為、「三頭狗」の1人を動かしてフェイトに接触させた。


「オレとお前が、肉体関係にあるとしか、アイツは言及しなかったんだな」

「はい」

「つまりお前が「三頭狗」の一匹だとは、見抜けなかった訳か」


 本来、ギルバートは「三頭狗」と肉体関係は持たない。

 正直に言って国王という重責と大量の仕事がある中で、性交渉をするほど余力は今はあまりない。

 今回取っている一日全休も、前回から60日以上経っていた。

 そんな多忙の中で、「三頭狗」の1人であるエイシャを抱いたのは、性的欲求ではなく、フェイトに接触させて、能力を測るためであった。

 何もせず、そのままフェイトに接触させれば、エイシャが「三頭狗」という事がバレる事は予想がついていた。

 だからギルバートは、今までの事から、フェイトが何かしらの力を使用して読み取っていると想定しており、大凡で一ヶ月ほどエイシャとは専従メイドとして側に置いた。

 その間も、ある程度は暗号などを使って指示などは出したが、基本、エイシャはメイドとして仕事に専念させていた。

 結果、フェイトがサイコメトリーで読み取ったのは、一瞬の接触だけだった事もあり、「メイドが父親と肉体関係を持っている」という事だけだった。

 例え握手などで接触して読み取ったとしても、父親がセックスをしている映像を見た時点で、特殊能力を切るので、得られる情報はにれほど差がないのだが。


(軽く触った程度で表層意識が認識している出来事だけを読み取ったのか。…………)

「ところで、なぜ歓楽街にいるのです。てっきり王城にいるのかと。ソフィアナの報告を受けに来たのですか?」

「ん。ああ、違う。王城だと、たまに視線を感じる事があるからだ。内緒話なら、此処でした方が安全なんだ」


 フェイトの能力に対して考察していたギルバートは、エイシャに問われて、直ぐに答えた。


「王城は魔法結界によって他者が覗き見る事は不可能なハズですが……」

「数十日に一度程度のこと気にするな」

「いや、しますからね? もし暗殺者とかなら、一大事ですよ」

「オレが何年国王をしていると思ってるんだ――。暗殺者の視線や、欲望に塗れた視線は、直ぐに判別できる」

「その言い方だと、もう視線の正体は分かってるのですね」

「ああ。だから、気にするな」


 ギルバートは投げやりに答える。

 王城は国内で随一の魔法結界が展開されていて、その効果の1つに魔法による覗き見や聞き耳を無効化がある。

 ただし、これは魔法に限った話であり、特殊能力には意味がない……。

 故にギルバートは、消去法と視線の感じからして、フェイトだろうと予想を立てていた。

 王城の結界を誰にも気づかれずに、魔法を行使して覗き見る事は不可能に近い。

 例えそれが可能な魔法使いが居たとして、数十日に一度だけ10分にも満たない時間だけを5年以上続ける意味が無い。

 覗き見が始まった時期と、フェイトが引き籠もりを始めた時期がちょうど合致する事と、視線の感じが似ている事で、ギルバートは当たりをつけていた。


 実際、フェイトはたまに父親の動向を確認している。

 父親を心配しての事だ。

 もし何かあれば、今の気楽で平和な引き籠もり生活が終わるかも知れないという、純度100%の自分ファーストの考えに基づいてだが。

 ギルバートが歓楽街の娼館に出入りした際は、フェイトは敢えて見ないようにしていた。

 娼館に入ってする事は1つ。

 好き好んで父親の性行為を見たがる娘はいない。

 ある意味でフェイトにとって死角にもなっているので、こんな風に娼館で秘密裏に話されると把握できない事態に陥るのである。


「それよりも、ルシャルナ。人身売買の組織はどうなっている」

「申し訳ありません。中々尻尾を掴めずにいます」

「――お前でもか」


 ルシャルナ・サーシャスは、申し訳なさそうに頭を下げる。

 最近、王国では誘拐事件からなる人身売買が横行していた。

 特に貴族の子息子女まで被害に遭いだした以上、今まで以上に本腰を入れて調査する必要性が出てきたため、「三頭狗」の1人であるルシャルナを、歓楽街に潜入させて、情報収集に当たらせていた。

 ただ結果は思わしくなく、先ほどギルバートに言ったように、思いのほか情報が集まらず手詰まり感があった。


(『三頭狗』筆頭のルシャルナでも、掴めないか……。かなり根が深そうだ)


 ルシャルナは、『三頭狗』の中でも諜報力・戦闘力とトップ。

 それなのに、何も掴むことが出来ないと言うのは、組織の機密性と根の深さが高いことが窺えた。


「――フェイトを使ってみるか」


 ギルバートはポツリと漏らす。


「フェイト様を、ですか」

「アレが、何か超常の力を持っていることは間違いない。なら、意外と簡単に解決できるかも知れんだろ」

「――大人しく言うことを訊くでしょうか。ただでさえ、魔法学院の入学などで、ギルバート様にストレスを抱いてると思われますが」

「拒否するようなら、クローディアに王命で、二日に一回出している高級おやつを、十日に一度にするように命じる」

「――ギルバート様。フェイト様に恨まれますよ」

「ハッハハ。無関心で居られるよりは、恨まれでもした方がマシだ。――アレに限った話だがな」


 なんだかんだで、フェイトに構って欲しいギルバートであった。


「エイシャ。命令書を今から書く。それを封筒に入れてフェイトに届けろ」

「また私ですか……」

「ああ。普通に抱けるのは、お前だけだ」

「――他に方法は」

「ない。今のところ、フェイトはオレがセックスしている所を見ないようにしている事を逆手に取るしか無い」

「分かりました。――特別給与下さいね」

「……国王に抱かれる事に対して金を請求するのはお前ぐらいだ」

「恋愛感情とかで抱くよりは気楽でしょう、ギルバート様」

「そうだな」


 ギルバートは深く、それは深く頷いた。


「では、私は失礼します。お二人の行為を邪魔する訳にはいきませんので」

「……人身売買の件で、分かったことがあれば、直ぐに報告しろ」

「畏まりました」


 ルシャルナは立ち上がると、お辞儀をして部屋を後にした。


「それでギルバート様。前回みたいに、フェイト様に物を届ける事と交換条件に抱かれることを望む腹黒メイドって設定でいいですね」

「ああ。――直ぐに終わらすぞ」

「ギルバート様。こういう場合は、女性に合わせる努力をするものです」

「オレは疲れてるんだ。さっさとして寝たい」

「ハァ。分かりました。メイド服、汚さないで下さい。着てフェイト様の元に行くことになるので」

「脱がないのか?」

「そういうシチュエーションの方が萌えるかと」

「……そういうのが流行ってるのか」

「一部界隈では」


 メイドは貴族が主に雇っているため、一般庶民がメイドと接する機会は少ない。

 その為、メイド服を着た女性とする事が、歓楽街にある一部の施設で流行っていたりする。

 ギルバートは溜息を吐き、椅子から立ち上がるとエイシャの元に行き押し倒すのだった。


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魔力ゼロの無能王女。実は最強クラスの超能力者です。 華洛 @karaku_f

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