第11話 入学案内

 大きく溜息を吐いた。

 自動的に発動系特殊能力のON・OFFは、意識的に止めないと勝手に効果が発動してしまう。

 その為、今回みたいに見たくない物を見てしまう事がある。

 フェイトも国王が一夫多妻なのは理解している。

 ただ、それはそれとして、実親の性行為を見せられるのは、話が変わってくる。


「ああ、イヤな物を見た。口――じゃなくて思考の直しに、姉妹の百合を見よう」

「姫様。先ほど、メイドが慌てて出て行きましたが、何かありました?」

「何もないわ。ただ、お父様から重要な封筒を持ってきただけよ」


 出て行ったメイドと入れ替わりにやって来たのは、フェイトの専属メイドであり、この私邸を仕切っている女性、クローディア・シェメル。

 メイドとしての実力はかなり高く、フェイトが私邸でのんびりと引き籠もれているのは、クローディアの能力による所が大きい。

 その為、フェイトはクローディアには頭が上がらない数少ない人物だ。


「――国王陛下からですか? 重要な封筒という事は、お見合いですかね」

「私を部屋に閉じ込めて、籠もらせてくれるくれる人なら、私は誰でもいいわ」

「そんな事を言ってたらダメですよ。誰でも良いなんて言ったら、60を超えたお爺さんの元に嫁ぐことになるかもしれません」

「別にいいわよ。逆に、残り僅かの人生なんだから、生きている間は相手をして、後は悠々自適に引き籠もれるなんて、最高じゃないかしら」

「姫様! そういう事を言うと、周りから不要な誤解を受けますよ」

「別に困らないけど? それに「無能王女」の嫁ぎ先なんて、それこそ限られるでしょう」


 自虐的な笑みをフェイトは見せた。

 実際、貴族の婚姻は政略結婚にしろ、魔力が高ければ選択肢の自由度があり、魔力が低ければ選択肢は限られている。

 魔力ゼロのフェイトの婚姻先は、ほぼ限られていると言っても過言ではない。

 どんな相手か気になったフェイトは、封筒を開けようとしたが開かない。

 封の所には、赤い蝋が押されていて、封印されている。


(これは魔蝋? 確か特定の相手でないと封印が解けないようになっているとか。魔力ゼロの私に魔蝋を使用するなんて嫌がらせですかね、お父様)


 フェイトは憚ること無く舌打ちをした。


「姫様、どうかなさいましたか?」

「この封筒、魔蝋で封印されるわ。たぶんお父様じゃないと開封できない仕組みね」

「あ、なら、国王陛下の元に参りましょう。きっと国王陛下も、姫様にお目にかかりたいので、このような手間のかかる事をされたのですよ」

「……(お父様の性行為を見たばかりで会うなんて絶対に)イヤ」

「姫様。――なら、どうやって封筒の中身を見るつもりですか」

「それは、こうするのよ」


 フェイトの目が少し輝く。

 特殊能力の1つ「透視」を使い、中身を盗み見る。

 中身は10枚の紙だった。

 封筒の中身を把握したフェイトは、特殊能力の1つ「空間転移」を使用することで、封筒の中身を外に出すことに成功する。

 きっと魔法に対して色々とセキュリティーを施しているだろうが、特殊能力に対しては皆無なので、特に苦労すること無く出すことが出来た。

 魔蝋で封印されたままの封筒を投げ捨て、中身の書類に目を通すフェイト。


「……は?」

「姫様。封筒の中身は、やはりお見合いでしたか?」

「違うわ。ねぇ、クローディア。アリキリマス魔法学院って、確か……」

「はい。王国内でも上位の魔力を持つ者が通うことができる名門です」

「そこの入学案内だったわ」

「え」


 クローディアは驚いたように声をあげ、フェイトは溜息を吐いた。

 アリキリマス魔法学院は、王国内でも魔力の高い者が貴族・平民問わずに入学できる学院である。

 その関係上、貴族は7割、平民は3割ほどだ。。

 入学には魔力測定と基礎学力試験があり、その課程で落ちる者も少なからずいた。


「何かのお間違えでは?」

「私の名前がハッキリと複数の書類に書かれているのだから、間違いようがないわ」


 この魔法学院は、通常試験の例外として、国王の推薦枠が存在する。

 試験無しで例え魔力・学力が低くても、国王の推薦があれば、特別に入学が出来た。

 とはいえ、この枠を使用する者はあまりいない。

 名門であるだけあり、割と学院内は厳しく、下手に推薦枠で入学して、下手な成績を出せば、推薦した国王の顔に泥を塗ってしまうからだ。

 今まで推薦という形で、試験がパスになったのは、王族子息子女、或いは国王の側近……宰相レベルである。


(魔力ゼロの私を入学させるなんて何を考えて……。いや、何も考えてなさそう)

「姫様。どうなさいますか」

「――お父様。国王陛下の命令よ。謹んで受けて、入学するわ」

「本当ですか! 王宮どころか中庭に出るのさえ嫌がる姫様が、自ら学院に入学されるなんて――。ついに引き籠もり生活から脱却されるのですね!!」


 顔に手を当て涙を流すクローディア。


(あ、なんか、ごめんなさい。そんなに追い詰めてた?)


 クローディアの泣く姿を見て、フェイトは罪悪感を少しだけ覚えた。

 勿論、フエイトは入学はする。入学はするが、授業に出席するとは言っていない。

 保健室という引き籠もり御用達の場所がある事を、フェイトは知識として識っていた。

 ……間違った知識である。

 引き籠もり場所が、王宮にある私邸から、学院の保健室に変わるだけ。

 フェイトにしてみれば、大した変化はなかった。


(それに引き籠もりの私が、入学した所で、誰も私が「第三王女」なんて分からないでしょう)


 自慢することではないが、フェイトはもう5年以上引き籠もり生活を送っている。

 王族の行事や、夜会などを悉く欠席している為、フェイトの姿を見た者は極僅か。

 「第三王女」が入学するという噂は、流れる事は予想できる。

 その「第三王女」が、誰か分からなければ、無問題であった。

 更にフェイトの持つ特殊能力「存在希釈」を使えば、美少女(フェイト本人は顔に対する自意識はかなり高い)という事で目立つ事を避けて、影が薄いヤツ程度まで下げる事が出来た。

 更に複数の特殊能力を使えば、問題無いな、と、フェイトは考えていると、書類を見た瞬間に膝から崩れ落ちた。


(ふ、巫山戯るなぁぁぁぁ。魔力のゼロの私が、新入生代表で答辞!?)


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