第10話 プロローグ

 王都中心部にある王城。

 豪華絢爛と言ってもいいほどの王城で、まるで隔離されたように端の方にあるこぢんまりとした1階立ての建物。

 この国の第三王女、フェイト・ヴァニラ・ヴォルガルドの私邸である。

 フェイトは魔力を一切持たない少女だ。

 この大陸では、生きとし生けるものは大小はあれど、魔力を身に宿し、それが一種のステータスとなっている。

 特に貴族や王族は余計にその傾向が強かった。

 その中で、魔力ゼロという存在は、見下され、軽視され、軽蔑される存在だ。

 故に「無能王女」と、フェイトは呼ばれていた。

 その為か、王城にある私邸に引き籠もり生活を送るフェイトの姿を見る者は極僅かであり、私邸の清掃や料理をしているメイド数名であった。


 私邸にあるフェイトの私室。

 カーテンは完全に閉め切られていて、部屋の中は薄暗い。

 丸い大きなベッドの中心部で、薄い白のキャミソール姿で寝っ転がっている姿は、一部の特殊性癖者(ロリコン)には垂涎する格好であった。

 そんなフェイトの上には青い半透明の薄いモニターが浮かんでいる。

 特殊能力の1つ「ワールド・ヴィジョン」

 世界のありとあらゆる所を見ることが出来る能力であり、魔法対策は万全にしていても、特殊能力に対する対策をしている所はないため、何処でも覗き放題であった。

 そんな覗き放題の能力を使って何を見ているかというと……。

 映像はどこかの入浴所のようだ。

 貴族宅のようで立派に造られていて、広さもかなりある。

 そんな入浴所には、2人の姿があった。

 銀色の髪をした公爵家長女、レミリア・ジア・アーカリア

 白色の髪をした公爵家次女、ノア・デア・アーカリア。

 背丈と髪型さえ除けば、双子のように似た顔立ちをしていた。


『お姉様の肌、やっぱり綺麗――。羨ましいな』

『ノアも綺麗よ』

『ううん。そんなことない。肌も綺麗だし、胸も大きくて、柔らかい――』

『ノ、ア』

『お姉様。いいよね。部屋ですると、ベッドのシーツが汚れちゃう』

(キター。やっちゃえ、やっちゃえ。リアル姉妹百合の濃厚シーン)


 人様の前では、絶対にできない変顔で興奮するフェイト。

 望む展開がもう少しで見られる。

 そんな時に、部屋の扉が叩かれた。


『姫様。起きてますか』

「寝てます。起こさないで下さい」

『起きてますね。入りますね』

(寝てるって答えたじゃん! 入ってこないでよ。今、ちょうど良いシーンなのにっ)


 舌打ちをして「ワールド・ヴィジョン」を消す。

 そして起き上がり胡座をかき、入室してくるメイドを待つことにした。

 入ってきたのは、フェイトにとって見知らぬメイド。

 あまり人の顔を覚える事をしない(「完全記憶」という特殊能力は持ちながら)フェイトでも、私邸で働くメイドの顔と名前ぐらいは把握していた。


「――なんですか、その格好は。仮にも王族の姫君ともあろう者が」

「うるさいなぁ。私がどんな格好をしていようと関係ないでしょ。で、何のようかしら」


 大事な所で邪魔をされたことで苛立ち気味にフェイトは言った。


「国王陛下より、封筒を1つ預かってきました」

「そう。ゴミ箱はそこにあるわ。そのゴミ箱は、入れた物を風魔法で切断する作りになっているから、それがどんなに重要書類でも大丈夫」

「かならず見せるようにとの事です」

(それは珍しいなぁ)


 父親で国王より、引き籠もってからも色々な書類や贈答品は色々と貰っていた。

 でも、必ず見るようにと言った物は無かったとフェイトは記憶している。

 ベッドから立ち上がり、入ってきたメイドの元まで歩いた。

 書類が入っているであろう封筒を受け取る時に、フェイトの手とメイドの手が触れる。

 瞬間。フェイトの持つ特殊能力の1つ「サイコメトリー」が発動した。

 一瞬でメイドが過去が、フェイトの中に入って来て……吐きそうになった。


「……なにか?」

「さっさと出て行って。封筒は必ず見る。だから、出て行きなさい」

「国王陛下から、きちんと見るのを確認するように言われています」

「ハッ。それで、お父様にまた抱いて貰う気かしら? ――私をダシにしないと、抱いて貰えないなら、愛人にもなれそうにないわね」

「なん、のことを」

「お父様。私の所にコレを届けるのを良いことに、貴女を抱いたでしょう。私は色々と知ってるの」

「――――ッ」

「私は言い触らすような真似をするつもりはないわ。ただ、取引をしましょう。貴女は直ぐに私の私邸から出て行き、お父様に「コレ」を見たと報告する。で、私は貴女とお父様のした行為は誰にも言わない。ね。win-winな取引でしょう。ね? 義母さま?」


 メイドの顔は青ざめて震えている。

 どこまで知っているか、訊きたいのだろう。

 敢えて言うなら、フェイトは先ほど自動的に発動した「サイコメトリー」によって、目の前にいるメイドの過去一年の情報は、全て識っている状態だ。

 手を握りしめたメイドは、後ずさると、背を向けて言った。


「姫様が、書類をご覧になったのを、確認しましたので、失礼します」


 早々と走るようにして部屋から逃げていった。


(全く。父親とメイドのセッ…の全部を見せられると子供の気持ちを考えて欲しいわ)


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