第9話 ネタバレ
そこは不思議な場所だった。
空には赤・青・黄色の3つの天体があり、それを囲うように無数の星々がある。
黒い夜空というのに、十二分に明るい。
芝生の上に木製のカウンターが置かれていて、その後ろのには幾つもの棚があった。
棚には多種の酒が陳列されている。
屋根のない。オープンなバー。
そんな場所に尖り帽子を被ったいかにも魔女といった女性と、娼婦のような薄い衣装を着た女性が、テーブル席に座っていた。
九頭竜「Ⅸ」のローザと、九頭竜「Ⅲ」であった。
「どの新聞も一面に「第三王女誘拐」「伝説の秘密組織「九頭竜」現る」ね。良かったの? 今まで秘密組織としてやってきたのに、こんな派手に売名行為をして?」
「いいのよ。私達、というか、九頭竜は今回のために存在していたと言ってもいいぐらいなのよ」
「それ……どういう意味?」
意味が分からずにローザはⅢに訊いた。
「Ⅸ」ことローザが、九頭竜に入ったのは、もう100年以上前のことだ。
ちょうど大陸中が戦争で、戦争孤児だったローザは、「九頭竜」のⅢにに拾われて以来、拾い育てて貰った恩を返す意味を込め、魔法が使用できないⅠ、Ⅱ、Ⅲに代わり、魔法の研鑽を重ね今に至る。
何か使命があり行動しているのは、薄々感じていたが、それが何かは聞けずに居た。
Ⅲが口を開こうとした時、空間が捻じ曲がり、人1人通れるほどの穴が空く。
穴から出てきた人物を見て、思わずローザは椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。
「し、シヴァ」
「あー、2人ともお疲れ様ー。マスター、アルコール濃度の高いものを一杯」
シヴァの来ている黒騎士としてのフルアーマーは、音を立てながら脱着される。
「昔の「私」が造った「快適に過ごせる絶対防御のフルアーマー」……。確かに快適に過ごせるけど、やっぱり気分的には、何もきない方が気楽だね」
「フェイト、第三王女、さま?」
黒のフルアーマーを脱着した姿に、ローザは見覚えがあった。
人形のように綺麗な顔に金髪のロングヘアー。
先ほど、誘拐されていた、第三王女、フェイト、ヴァニラ・ヴォルガルドだ。
「え。――ヴァイオレット。まだローザに話してないの」
「話そうとしたタイミングで、貴女がきたんじゃない。ただね。私がいうよりは、実際に見て貰った方が説得力、あるでしょう」
「まあ、確かに」
苦笑しながらシヴァは、カウンターにいるバーテンダーが作った酒を一気飲みする。
「効ッく――。ああ、やっぱりお酒は万病の薬だよねぇ。おかわり!」
まるで激務で仕事疲れで、家に帰ってストロング系チューハイを飲むOLみたいに、シヴァは次々にお酒を飲んでいく。
「フェイト、様?」
「ん。ああ、違う違う。私はシヴァ・マハーカーラ。「私(フェイト)」と違ってスタイル良いでしょ」
ローザは言われて初めて気がついた。
確かに先ほど見たフェイトとは、スタイルが雲泥の差がある。
フェイトは同年齢の子達と比べると明らかに貧相だが、シヴァは同年齢の子達と比べて明らかにグラビアアイドル並にスタイルが良い。
「もしかして……影武者?」
「おしいッ。私は「私(フェイト)」のドッペルゲンガー。特殊能力で生み出された存在。因みに九頭竜のトップ3人は、「私(フェイト)」の特殊能力で動作している自動人形」
「――は? ごめん。ちょっと色々と混乱してる」
倒れた椅子を掴み、立てるとローザは椅子に座る。
手を額に当てて考え始めた。
「Ⅲ。シヴァ。1つずつ。1つずつ確認したいんだけど、良いかしら?」
「良いわよ」
「どうぞ。マスター、「私(フェイト)」を助けた報酬にだいぶ貰ってるから、美味しい特上のつもみをお願いします」
「……」
混乱させられている原因が陽気に、飲み食いする姿を見てイラッとしたものの、王都の市場で見た時の疲労困憊を見ているので、文句をいうのは一先ず置いておく。
「フェイト王女さまは、特殊能力者でいいのよね」
「そう。この世界で唯一、ただ1人の、魔力も氣も持たない、無能王女。それが「私(フェイト)」」
「その特殊能力で造られたのが、シヴァとⅢでいいの?」
「少し違うわね。シヴァは当代のクリエイター様によって造られた存在だけど、私は昔のクリエイター様によって造られた存在よ」
「どういうこと?」
「「私(フェイト)」は転生者。数百年周期でこの世界に生まれる異分子で特異点。で、転生者は今までの転生者が保存している特殊能力で造られた倉庫を自由に使用できる」
「私は3代ほど前に造られた存在よ。――あのお方はとても素晴らしい方だったわ。当代は少しアレだけどね」
Ⅲは手を頬に当てて溜息を吐いた。
Ⅲを造りだした特殊能力者は、フェイトと同じく引き籠もり体質であったが、物を造り生み出しす事に関しては、歴代の特殊能力者の中でも最高と言ってもいい存在であった。
彼女が生み出した物は、1000年ほど経った現在でも、超常の力を引き出すアーティファクトとして現存している。
因みにであるが、シヴァが来ている鎧も彼女が造りだした物の1つ。
「……今の関係を見ると、貴女達が宿敵みたいなのも、演技なのよね。」
「勿論そうよ」
「そっちの方が色々と都合が良かったからね」
お酒をグイッと一気に飲み干してシヴァは答えた。
余程、ストレスが溜まっているのか、アルコールを飲むスペースは全く落ちない。
「ここまで手の込んだ事をして、貴女達の目的はなんだったの? 「九頭竜」も今回のために存在していたみたいに言っていたけど……」
「とても、とても下らない事よ。私から話しても良いのだけど、シヴァ、クリエイター様のドッペルゲンガーである貴女の方が、説得力あるでしょう」
「ああ、うん。それじゃあ、話そうか。事の始まりは、2ヶ月ほど前。「私(フェイト)」の父親、国王陛下から1つの書類を受け取ったことから始まった」
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