第10話 職業病その1

 最初の職場、小型検査では一本最大9キロの物を回したり触ったりして検査する訳だが、一人頭で日当たりと言うか直当たり1200本程捌くのが規定数だ。

 即ち、のべ1トンクラスの負荷がかかる訳だから、無傷では居られないと言うか、色々とガタが来る。

 そもそも3交代制なので、寝不足や自律神経の乱れ何かは付き物だ。何ならそこから引きずられてうつ病何かも付いてくる。

 では、前提として、指先や手の平での触覚検査も有るので、手袋着用は推奨され無い、素手でゴツゴツした製品を擦る様に、撫でる様に触って検査する。

 当然だが、指紋が磨り減って無くなるし、指の関節はひび割れる、馴れて来て手の皮が固く厚く成っても良く割れる。ハンドクリームやワセリンは準備しておこう。

 寝る時にワセリン塗り込んで、シルクの手袋でもしておけばある程度マシな感じで仕事が出来るよ。

 因みに、テーピングテープで割れた箇所誤魔化してお仕事を続けると、接着剤にまけてかぶれるので注意だ。そんな訳で、作者は低アレルギータイプの銘柄以外は使えません。

 更に言うと、一時期手袋装着可能だったので使って見たが、軍手が一日で擦り切れて穴が空いて使い物に成らなくなる位に激務です。


 さて、他の職業病は、オーソドックスに肩こり、腰痛、椎間板ヘルニア、巻き肩、腱鞘炎何かだけど、一番早く発症したアキレス腱炎の話でも、前工程は成形した物に熱を加えて金型に押し付ける事で形を創り、出来上がった物はコンベアを通りバーコードで選り分けられ測定機器にかけられて検査工程に流れてくる訳だが、前述の通り、生産計画と実働の人足がタイトな状態の為、ライントラブルやら、お昼ごはんの休憩時間、そんなちょっとした事でラインから溢あふれて溢こぼれる、そうなると、もう一度ラインに戻す為に投入口に運ばなくてはならない、更に、測定でエラーや規格外品が出た時なんかも、もう一度測定する為にやはり運ばなくては成らないと言う事で、台車で運ぶ仕事と言う物はかなり大事な部分と成るのだ。

 工場現場にダンディな台車や、ビシャモンパレットは欠かせない物である。

 そして、大事な仕事だが、ソレ専属に人足や時間が割り振られている程の優先度では無い、失敗しても致命傷にはならないと言う事で、まだ仕事が出来ない状態の訓練中な新人何かは、見て覚える為に立ってるだけよりはコレの方が実働的に役に立つと言う事で、訓練期間の最初の3ヶ月はひたすら台車に一個9キロを14本乗せてあっちこっちに運ぶ事に成る。

 簡単に言わせてもらうと、エゲツない運動量と言うか、変な負荷な為、慣れていないと直に筋肉痛に成る。

 特に、制服の作業着は帽子から靴まで支給される全身コーディネートで、特に靴が結構な曲者だ。

 ワークマン何かにもある安全靴、○○○安全(後に○○○)の鉄芯入り静電コンフォート4000円相当が最初に無料支給され、それ以降会社からの補助金も有り、格安の1セット1000円程度の給料天引きで更新出来るのだが、何というか、異様に固くクッション性も無く、踵が低い。元から固いコンクリートとグリップコートの床の相乗効果に寄って、足の裏と、アキレス腱の辺りに負担がかかる仕様と成る。結果として1週間でまともに歩け無い程の筋肉痛と成り、びっこ引いて歩くはめと成った。

 ソレから湿布を貼ってもバンテリンを塗っても治らず、医者に行ってもレントゲンで骨に異常はないから大丈夫、多分アキレス腱炎に成ってるけど、まあコレでも塗って様子見。と、エパテックやモビラード、ロキソニンテープ、ボルタレンやら軟膏やらと場当たり的に処方されるだけだが、我慢して歩け無い事もない程度の低空飛行で仕事を続けた。

 上司にも経過や何やらの報告をして、別の安全靴認めて貰い、自腹で自分にあったモノを使い、靴より高い中敷きを使う事で、ある程度マシには成ったが、後日数年後、例外は認め無いとその上から発狂され指定の安全靴に戻り、アキレス腱炎を再発させたが、報告しても聞く耳を持たないので、もはや諦めて痛いまま作業する事になった。


 因みに、発症してから10数年、其の仕事を辞めて数年後の今でも、しつこく痛いままで有る。

 改めて医者に見せても。

「君は歩くときの姿勢が良い、膝がまっすぐ前を向いてる、でもその歩き方だとアキレス腱に負担が掛かる、がに股か内股にして膝に衝撃を分散させたら?」

 そんな珍妙な事を言われた、そんな格好悪い歩き方したくないと言うことで諦めるだけである。

「因みに、そうすると膝を壊すから、どっち選ぶかの二択だよ?」

 どっちにしても駄目だから諦めろと言うことらしい。

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