第7話 3.11あの日の事 其の2

 3,11の雪がチラつく寒空の下、結局避難解除の指示を待つ事になり1時間ほど経過。

 余りに暇なので社員寮の周囲を確認する、地面とアスファルトはひび割れ、基礎の周辺は巨大な溝が出来、建物の壁面にも一目でわかる程の亀裂が入っていた。

 待機も長時間になる様なので、備蓄の毛布を倉庫部屋から引っ張り出して、風避けのブースを作って休憩する。

 そうこうしている内に朝昼勤務だった方々が戻って来た、一人顔がカーボンの粉末だか油を被ったのか真っ黒だったのがやたらと目立っていた、お風呂に入る余裕も無く帰ってきたらしい。同時に先程出勤して行った先輩もそのまま帰還、どうやら仕事は無理だと入り口で追い返されたらしい。

 更に一時間程経過、会社の敷地内に有る、出張者用の宿泊施設に避難する事に成り、会社所有のマイクロバスに乗り込んだ、因みにこの工場、外周一周が数キロ単位で有り、その宿泊施設は一番奥である。

 バスの窓から見える道路と会社の駐車場はひび割れと段差だらけで、車高が低い車では立ち往生すると言うのが一目でわかる状態だった。

 後で確認すると、この駐車場の段差は縦に10センチもあった。

 安全運転のバスに揺られて5分程。宿泊施設に到着。先に避難していた面々が、砂嵐とノイズがチラつくテレビで呆然とニュースを見ていた。

 宮城三陸、福島県の沿岸部が津波に襲われれて壊滅状態、各地に被害が出ているという情報を狂った様に繰り返し流していた。

 そして、其れよりも、何故か映らない設定でTVを観ているのかと突っ込みを入れつつ、一人でTV周辺の壁を叩き、隠し収納状態になっているTVのアンテナの配線とリモコンを引っ張り出して、小細工をする。

 やはり振動のせいか、アンテナ線が抜けかかっていた。

 素人目にも判る不具合を直し、TVのリモコンを操作してアナログと地デジを切り替えて、諸々の設定も直す。

 当時は地デジも過渡期、電波状態が悪い時チラチラでも映らないこともないアナログと、映るとキレイだが、状態が悪いと全く映らないデジタルの使い分けをしていた時期だ、分からない人には主電源を押して映る物を見るしか無かったのだろう。

 どうやらこの手順で当たりだったらしく、TVが先程より鮮明な映像で緊急地震速報や各地のニュースを流し出す。

 尤も、ニュースの内容はエンドレスリピート状態なので中身は変わらないのだが、画像が鮮明になった事により、より現実感を持って地震津波の被害を告げていた。


「今からでも実家に帰れる奴は帰れ」

 と指示が出た。大分今更である、寮の方は今日は閉鎖するからソッチには帰れないらしい。

 現在18時前、外は日が沈み、すっかり暗くなっている、この状態で現在地から外の寮まで歩いて30分程有ることを踏まえて、その後の帰り道の事を考えると、とても帰れる段階では無かった。


 時間が空いたので建物の間取りと作りを確認する、作りは新しく、丸っきりホテルだったが、一部のガラスは割れ。水道管が破裂したのか、一部の部屋に雨が降っていた。

 其れと、周辺地域が停電していた様だが、太陽電池とバッテリーで賄えて居るようだった。

 因みに、天然ガスによる工場内発電設備も有るが、巨大地震とボイラー点検の関係上、今は手が出せないらしい。


 個室仕様は禁止され、大ホールに通され、宿泊者用の毛布を配られた。


「ほら、食料確保してきたぞ」

 外を回ってきていた面々が大量の食料を持って帰ってきた。

 社員食堂の在庫分と、会社内の売店、ヤマザキストアから運んで来たらしい。


 味噌汁とパンを貰い、夕食にする。

 なんだかんだで寝床と食事が有ったのは有り難かった。


「外線は0番発信だ、メモも好きに使って良いぞ」

 会社の電話使わせてもらい、実家と、両親の携帯に連絡するが、この日は結局繋がらなかった。


 携帯電話が電池切れになってしまったので、充電器を持っている人を探すが、au系の人は深刻に少数派だったので、電池切れのままとなった。

 docomoとSoftbankは居たけどauが居なかった。

 充電器が各社で違ったこの時代、少数派は死滅するのが定めである。

 しかし、今回auは散々であった。


 床に直接毛布で夜を明かす。

 なんだかんだで暖房は効いていたので、凍える事は無かったのが救いだった。

 学校体育館の避難所では比喩無しに凍える事に成っていた様なので、割と恵まれていた方だろうと思う。


 翌日、朝一番にパンを一つだけ貰いお腹に詰め込む。

 電話を借りると、今日は親の携帯に無事繋がった。

 お互い無事らしい、其れなら一安心。

 上司に復旧作業やら何やら有るか?と聞くが、今は指示は無い、一旦帰っておけと言われたので、連絡用掲示板に名前と行先を記入して、素直に帰る事にした。


 ゆっくり歩いて工場の敷地を出て、警備員さんと少し話をして、寮に戻る。メインの正面玄関は鍵が閉まっていたが、何故か横の非常口の鍵が開けっ放しに成っていた。どうやら、避難集合せずに直接帰宅した人が居たらしい。其れが昨日見つからなかったもう一人の職場の先輩だったと言うのは後から知った話だ。揺れても起きなかったので、起きた時には誰も居なかったらしい。

 指示も一切仰がずに真っ直ぐ実家に帰った辺り、豪胆で在る。


 自室に帰り、荷物を整理する、停電は復旧している様子だったので、携帯電話の充電をして、周囲の被害状況を撮影して、寮の外に出た。

 丁度避難所から帰ってきた他の面々と顔を合わせた。

「そんな訳で。実家に帰らせて頂きます」

「おう、気を付けてな?」

 帰って来る返事にペコリと挨拶して、自転車に乗って帰路に着いた。


 追伸

 因みに、工場内は天井を走る配管やらコンベアが落下してシッチャカメッチャカに成っていたが、奇跡的に怪我人も死人も出なかったらしい。

 意外と社会に出ると、この電化製品を間違わずに配線と設定出来るというのは少数派で重宝される物だと判明したりしますが、最終的に電気工事士やらの資格を付けないとあまり稼げる能力では無いのが残念な所ですね。

 後、災害時は一時避難でも短時間の外出でも、充電器その他は最低限準備した方が良いです、帰れない物だと考えて準備した方がトラブル有りません。

 荷物は重くなりますが、その辺は諦めましょう。

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