第9話 ブラック企業と労働災害
「指差し確認よし!」
「今日も一日、ご安全に!」
と言うのが工場や工事、現場仕事のお約束の挨拶なのだが、今回は労働災害の話をしようと思う。
3.11の地震に関してはホワイト企業だったが、こっから又ブラックな現実です。
先ずは労働災害、略して労災の概念だが、一般的及び、本来は仕事中若しくは通勤退社時に怪我をする事を引っくるめて労働災害と言う。労災と成ったら会社及び国から労災保険が下りて、治療費その他はある程度保証される。
最近の例では、京都アニメーション放火事件なんかで労災認定されたので、国が結構な金額を負担している。
会社に向かう通勤車両で交通事故を起こした時なんかは、一般的には労働災害に当たるのだが、ウチの工場でのソレは報告書を書く必要は有っても、労災として認定はされない、基本的に自費で、自腹で、自分の保険で賄う事がお約束と成っている。
だから、従業員が通勤退社時に交通事故を起こそうと、無災害記録が途切れたりはしない、いざと言う時にも、「アイツが交通事故で無災害記録止めたんだぜ」なんて言われる事もない、ある意味安心だね? 自分の懐が痛いだけ。
事故の時、保険屋に、通勤車両で通勤途中の事故ですよね? 労災保険と会社からの保証は? 何て言う質問をされたりするが、下りた試し有りませんとしか言えない、保険屋も納得するから、保険下り無い何て事は無いので、まあ大丈夫。
そんな訳で、ウチの工場では完全に仕事中の怪我以外は労災認定されません。
それに対して例えば、トラブル対応時、コンベアの繋ぎ目に挟まって巻き込まれた、其れによって擦り剥いて爪が剥がれました、何て事があったとしよう。
報告書、内容。
『狭い所に挟まった製品やゴミでコンベアが止まった、ライトで照らして確認して掴んで引っ張り出したが、その際、尖った箇所が当たって手の甲を擦り剥き、爪が剥がれてヒヤリとした』
という感じで報告だ、ヒヤリ・ハット報告書だね?
災害だって?
大丈夫、報告書に仮想って付けておけば訓練だよ?
治療はどうするかって?
規模の大きい工場だから、産業医と診療所と言う物が有るが。
「コレは使うなよ?」
そう厳命されている。
コレは産業医は指揮系が違う為、使った時点で工場の上層部を飛び越えて本社に情報が行ってしまう為だ。
だから産業医が。
「この工場では誰も来ないんだ、どうなってるんだ?」
何て、不思議な事を言うのだ。
本来なら、治療費会社持ちで医者にかかる事が出来るので、風邪の時何かでも気軽に来いとか言われるらしいのだが、そんな訳で、健康診断で引っ掛かった時以外は、極力近付くなと言われている。
ではどうするかって?
ソレは当然。
「保険証持って、そこらの病院で、ちょっと転んで剥がしましたって言えよ?」
「仕事中にやったなんて言うなよ?」
と言う感じに、上司から指示を出されている。
うむ、労災隠しと言う奴だ。
コレによって連続無災害記録と言うのが打ち立てられて行くのだ。
年単位で続いている記録を見ると、その裏はこんな事だったりする。
まあ? ウチだけだと思いたいのだが。
因みに、その無災害記録を止めたのは、出入りの業者が積み込み作業中に荷台から落ちて骨折したので、流石に誤魔化し切れなかったと言うオチだったりする。
更に言うと、社員ならある程度睨めば上記の理屈で誤魔化せるので、怪我した現場に課長が居ようと無災害である。
だから、医者や救急車呼ばない限りは無災害だ。
ただし、骨折位だったらさすがに隠せないと言うことで無災害記録は途切れるよ。
尚、「そんな災害を起こした人材は出世出来なくなるから、黙っておくのが上司としての気遣いだ」と言われるよ、素敵な気遣いだね?
そんな訳で、「今日も一日! ご安全に!」
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