第3話 仕事内容と仕事量、支離滅裂な前提条件
自分の所属は所謂仕上げ検査、材料を混ぜて伸ばして、幾重にも巻いて成形、金型で熱を加えて加硫、出来上がった物を機械で測定した後、目視と触覚で検査するのが通暁常務、この機械測定した物が只管流れて来るので検査するのが自分の仕事、因みに全数検査。問題無ければ次の工程、製品倉庫に送られ、サイズと種類で分けられ、出荷待ちとして積み上がる事と成る。
次工程は別職場どころか、所属の会社が違うと言う事も有るので、ダメ出しには容赦がない、うっかり其処も素通しでお客様の所に納入された日には客先クレーム、最悪リコールで大騒ぎと言う前提条件なので、自分の部署は最後の砦と言われる工程だ。
故にミスは無い事が最低条件と言う、極めてストレスがかかる状態が基本となる。
生産数は他の部署担当と成るので、此方には一切の権限は無い、工場全体の方針として当然と言うか、最適化して最大効率で只管生産すると言うのが全体の総意と成る、大量に作られたら、それに合わせて只管消化するのが仕事だ、其れを前提条件として読んで頂きたい。
此方から干渉できるとしたら、異常品を早期発見して対策を取る為に前工程に連絡をして、対策を取って貰う、其の対策を取って貰う為に一瞬生産が停まるので、そのタイムラグが唯一前工程に働きかけられるブレーキだ。同時に、この対策が遅れると生産された物が全て不良品と成るので、奇麗に作り直したり廃棄したりする手間で時間的にも材料費的にもコスト高となる、通常作業で1つ30秒で流せるものを、修理する場合余計に10分かかると言うのもよくある話なので、其のまま生産されるとどっちにしても酷い事に成る。
そして問題に成るのは仕事量、先ずは作業標準と言うマニュアルがある、取り出す前に1回転回して目視確認、取り出して片側裏側外観を一周目視確認、同時に外観を触覚確認、次は内観を一周目視確認、見えない部分を指先で触って触覚確認、反転してもう一回、終わって問題無かったら検印を押して製品を次工程に送って次の製品、と言った感じで時間まで以下エンドレス無限ループだ、一本当たり約30秒、と言うのが決まりで、それ以上だと非効率、それ以下では逆に良く見ていないと言う事で問題に成る。
一人一日あたりの定時間は7時間、1時間は60分、1本当たり30秒だから1分で2本、1時間で120本、7時間だから840本と言うのが一人当たりの仕事量だ。
で、流れてくる本数は約8000本、直当たりの人数は11人で宜しく、但し3人はこの仕事の人数カウントには入れずに別の仕事をしている物とする、つまり8人で処理する事、つまり数字にすると8000-840x8=1280 既に数字の上で破綻して居るって? 此処でお約束の名台詞、「足りぬ足りぬは工夫が足りぬ」と言う、お約束の台詞が飛び出す訳だ、いや、流石に其処までは言わないが、実質的に言って居るのと変わらない状態となる。
此処で残業に二人2時間投入すると仮定、一人当たり二時間で240本、二人なら480本、うん、それでも足りないじゃないかって?
其れなら一本当たり20秒ぐらいで処理すれば辻褄が合うよ?
そうすれば一分当たり180本で直当たり1260、こうすれば全員定時で帰れるよ。
支離滅裂じゃないかって?
しょうがないじゃないか、最初から破綻してるんだから・・・・・
この時点で上司的には一本当たり15秒で処理するのが最適解と既に前提条件が無茶苦茶な指示を出している。
作業標準何処行ったって?
うるせえ! 見逃しが出なければいいんだよ!
と言う事で、作業標準を守るのは怠け者、仕事できる者は柔軟に対応する者だと言う職場の雰囲気が出来上がる、
書類上の作業標準もその様に同時更新して行けば其処迄問題と成らないのだが、この作業標準を更新するのは禁止されて居る為、現場ルールだけで回る事と成る、当然、問題に成るが其れは又後の話だ。
因みにこの時点では一班当たりの人数は11~12人居る、但し、コストカットの関係で上記の一直11人で対応しろと言う事に成って居る、当然無理矢理なので、仕事が消化しきれず溢れるが、その分は残業若しくは早出で処理する事と成る、一人フルに出勤するよりは安上がりだと言うので、この無理矢理な自転車操業と成る。
余った一人は有休を消化したり、直替えで別の直に応援に飛ばされる事と成る、この時点では有給の消化と言う概念があった、ある意味では平和な時代。そしてこの後リーマンショックが来ることにより、この前提条件が壊滅する事に成る。
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