モッチーとアマゾネス族
「アナタ様を我が民の王としてお迎えいたしまするっ!」×複数
青ジョリ城の中庭にはこの街へ移り住んできたアマゾネスの民全てがひれ伏していた。
「おー! 絶景かな絶景かな! 苦しゅうないぞ、良きに計らえ!」
「!」
この光景を見て一番最初に口を開いたのはモッチー。アマゾネス達は僕が一番最初に出てくると思って早とちりをしてしまう。これはこれで結構面白い状況。
「お、お前じゃないわボケがあぁぁぁぁぁっ!」
{ドゴッ!}
「ギャッ!」
モッチーの頭頂部へ二回転半宙返りでの踵落としを決めたのはババ様。ヤツとて身体能力が高いくせにこんなツッコミは素直に受け止めるんだ。そもそも間違えたのはババァたちじゃん? こればっかりはモッチーがカワイソウ。
「おいおいババァよ? ユーが足蹴にしたモッチーはこの街でも相当な要人で、皆からキモがられているとはいえ、なくてはならない存在なんだけど?」
「マジかっ!?」
「マジマジの大マジ!」
ここで族長が割って入る!
「騙されるでないぞババよ! 私はそこのモッチーなる人物にどれほど辱められたことか! 我が村の掟に乗っ取れば間違いなく死罪となろうて!」
「あー、それは本当に謝るよ。ゴメンナサイ」
彼女が使者に化け、初めてこの街へ訪れた時を思い出すと本当に恥ずかしい。セクハラパワハラモラハラ全てで迎え入れたモッチーを毛嫌いするのも当然といえば当然。
「そんな話で誤魔化されぬぞ三河殿よ! もしこれを収めると言うなれば、我が君となりて生涯この私を愛でよ!」
「マジ!? 本当にいいの?」
「えっ!? し、承諾してくれるの?」
『……!』
「!」
これには全ての者の魂がログアウト! 誰もが驚き過ぎて声も上げられない状態へ!
「おいモッチー喜べ! お前に許嫁ができたぞ! てっきり一生結婚なんて出来ないと思ってたけど奇跡が起きた!」
「!?」×複数
直後、泡を吹いて倒れる族長! アマゾネスの民はババァも交えて内輪もめを始める始末! なにが起きた?
『……旦那様もお人が悪い』
「プププ。三河君もやるわね? 一瞬本当にアナタが婿養子になるのかと焦ったけれど」
ヤキとエビちゃんはホッとしたような清々したような、更には気の毒感満載の複雑な表情を浮かべる。不思議だったのはあまり感情を顔へと出さないドーラにミラカーも同じような表情を浮かべたこと。それに他の連中もそれプラス呆れたような顔をしていた。意味が分からないのはどうやら僕だけらしい。ハテナ?
{ギャアギャアッ!}
それはそうとアマゾネス達の内輪もめがどんどん激しくなってきた! これは最早暴動に近い!
「えぇい静まらんかバカモノめらがっ!」
「!」
これにゲキを飛ばしたのはなんとモッチー! この時既に族長の風格を漂わせていた。
「やかましいわっ! あいつを先にやってしまえっ!」
「うおぉぉぉぉっ!」×複数
が、そう思っていたのはどうやら僕とモッチーの二人のみ。族長もハッと我に返ると、率先してモッチーに襲いかかった! しかも腰から短剣をとりだしてマジモンで!
「うがっ!」
しかしなんども言うが、皆モッチーを舐めすぎだろう? 刺激的な苦痛ならば敢えて受け止めるが、本気で命の危険を感じれば即反応して一気に形勢逆転がコイツの十八番。只のキモイだけなヤツと思ったら大間違いで、捕まったが最後、この上ない辱めを受けるだろうに……。現に今、族長がその状態となっている。
「は、はなせーっ! ブッコロスぞっ!」
「あれれー? そんなこと言っていいんですかモロさん? 暴れると肩の骨がポキッといきますよ?」
族長は後ろ手を取られ、尚も関節を決められていた。問題は両手を取られている彼女に対し、モッチーは片手で抑え込んでいるってこと。となればもう片方の手は自由。こうなってしまうともうヤツの独壇場。
「さーて族長モロさん。改めてこの場にいる皆に僕を婿にすると宣言なさい。でないとこっちの手が僕の抑制を無視して暴走を始めちゃいますかもねぇ」
「あぁ族長っ!」×アマゾネスの民
「おぉっと! 掌が山なりになった胸の上に……」
プププ。やるなモッチー? 婿云々は冗談にしても、まさか本当にセクハラを始めるとは思ってもみなかった。あれが男ならば本当に腕の一本ぐらいへし折っていただろう。
「見なよモッチーを! あんな嬉しそうな顔をして……!」
振り返りざまに誰ともなく話し掛けると、そこには同調するどころか恐ろしい顔をした女性達の面々が! ヒィッ!
「ちょっとヤキさん、アイツなんとかならないの? あのままだとモロが可哀想!」
「私、ヤる。任せておけ」
ミラカーが口を開いたと思った次の瞬間! ひとっ飛びでモッチーに向かってそのまま飛び膝蹴りを繰り出す! 恐るべしその跳躍力は吸血種ならではなのだろうか!? ありえないっ!
「ぎゃあぁっ!」
モッチーの首根っこに直撃!
「いたたたたっ!」
かと思ったら悲鳴を上げたのはどういう訳かミラカーの方だ! 知らないうちに足をとられてのアキレス腱固めを決められているではないか!
「甘いんですよミラカーさん。アナタの動きは単調なんですから。フフフ」
恐るべしモッチーのフィジカルと学習能力! なぜその力をいい方向へ使わないのかはまったくの謎! しかも時々振り返ってはミラカーのパンツをチロみしているではないか! マジ変質者っぽい!
「ったく、あれほどキモッチを舐めるんじゃないって言ったのに! ニャゴリューと普通に渡り合える人間なんてそうそういないっつーのに……仕方がないな」
ドーラはそう言いながら渋々一歩前に出ると、そこからモッチーを一睨み! 彼女と目があった途端にミラカーを手放すとこちらに向かってその場で土下座。
「ドーラ様。犬とお呼びください」
一瞬で虜にされてしまった。
「…………」
だけど僕は知っている。あれはモッチーの芝居だと。現に口元が緩んでこっちまで息遣いが聞こえてきそうな程に興奮しているのが分かる。不思議と女性にはアレが分からないらしい。しかし僕が思った時点でヤキには伝わってしまった。
「黙っとけよヤキ。このままのほうが面白いから」
『……承知しました』
とはいえ最近暴走気味なヤキ。あまり言うことを聞かないなら僕にも考えがある。僕との距離を……
『……す、すみませんでした旦那様。このヤキ、肝に命じておきます故お許しを』
「チェッ! 全部バレバレかよ! ヤキには敵わないなまったく」
ヤキの声が聞こえるエビちゃんは、意味が分からず直接会話へと割り込んで来た。
「ちょっと二人してなんの相談してんのよ? ヤキさん怒られてんの?」
『……フフフ。内緒です』
「んもう! 本当に妬けるわね!」
これら一連の芝居を見せつけられたアマゾネス達は只々その場で呆然としていた。その上族長を人質に取られても何一つできなかった己の力の無さが身に染みているとも。少なくとも僕の目にはそう映っていた。そこはやはり誇り高き戦士たちだから自尊心を傷つけられてしまったのだろう。このままでは気の毒だから少しだけフォローしておくか。
「みんな聞いて! 先程の婿話は一旦置いといてさ、アマゾネス達はまずこの村へ完全に馴染むためにも暫くベアアップのお手伝いをしてほしい。で、暇なときはショーキュー達に稽古をつけて貰って。きっと役に立つと思うから」
「えぇっ! ベアアップが面倒みるクマー?」
「ショーキューたちなら力で彼女達に負けるなんてことないだろ? 僕だとあんな連中の手にかかったらひとたまりもないよ」
それは生命の危険ではなく別件のほうだが。
「ドーラとミラカーに守って貰えばいいクマー?」
「バカかショーキュー! この二人がいつも僕の味方だと思うなよ? 僕が贄になると分かれば簡単に寝返っちゃうだろうよ!」
「!」
何度も言うが、命を奪われるのではなく……
「ま、まかせてクマー! まだこの街には三河さんもキモッチーさんも必要クマー!」
「ほかの種族も面倒見てあげてね。それと色々街のしきたりとかも教えてあげて」
「サーイエッサー!」×複数
「…………」
頬を赤く染めて歓喜の表情を浮かべるヤキ。コイツはこの街をどうしたいんだろう? おかしなことばっかり教えやがってからに……。彼等が駄洒落を言い始めるのもそう遠くないな。
こうして僕を教祖にしようとしたアマゾネスの連中をなんとか収めることが出来た。彼女達の考えなど全てお見通し! それならばと吸血種であるドーラ、ミラカーをたぶらかそうと目論むもヤキのチクリでそれも阻止。崇めるのは勝手だが、必要以上に強いるのだけは禁止とし、ルール破れば元の島へ送り返すと強く言い聞かせた。
次第にアマゾネス達も街へと馴染み、物資の豊富なこのアオジョリーナ・ジョリ―村でオシャレも覚えると、彼女達の町はいつしかこう呼ばれるようになったのだった。
『モロ平野に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます