第一章 始まりの場所
現実と非日常
夏休み。
誰もが憧れる魅惑のスペル。
それは学生、社会人に限らず僕にとっても同じ。
『……旦那様は楽しいのが大好きですねぇ』
今喋ったのは〝
お盆に色々あり、訳の分からないウチに憑りつかれてしまった。
「あ、ヤキ! お前また僕の心読んだな?」
これがまたタチワルで、僕の思考も全て筒抜けだし、霊体だから物理的な物も素通り出来る能力も持っている。つまり、四六時中監視されている様なモンなのだ。その上人間の体を乗っ取るなどと言った奥の手まで持ち合わせているし……もう諦めるしかなくない?
「ヤキさんと三河君は本当にラブラブですねぇ。ぶっ殺したいぐらい嫉妬します」
そして今憎まれ口を叩いたのが
『……チッ!』
因みにヤキは大戦中に生まれ、齢19でこの世を去った、今の世には絶滅危惧種となった大和撫子だ。しかもその美貌たるや他にも類を見ないほど。清楚で芯の強い女とは彼女の為にあるような言葉。幽霊だけど。
そんな彼女でもモッチーだけは嫌いらしい。なんでも虫唾が走るし生理的に無理なのだそうだ。その反対に僕は結構気に入っている。見た目とは裏腹にハッキリとした信念を持っているし(キモイけど)、弱っちい外観に騙されると得意の格闘技術で即座にねじ伏せられてしまう(キモいけど)。多方面に渡るその知識が何よりも便利なのだ(マジキモいけど)。
「それにしても暑いですねぇ。このままだと三河君なんて蒸発して無くなっちゃうのでは?」
『……あぁ!? もう一度言ってみろキモッチー? 旦那様を愚弄するとこうだっ!』
「あっ! またそんな……ヒイィィィィィィィッ! た、助けて下さい三河君ってば!」
そして僕の名前は〝
おっと、言い忘れていたが、ヤキは誰もがその姿を認識できるわけではない。彼女と接する時間が長いとか、複数回乗り移られるとか、或は彼女自身が強くその相手に念を送るとかしなければ捉えることはできない。しかも美しい姿と発見された当時の赤いドレスを纏ったなめし皮の張り付く髑髏姿を使い分けができるのだ。
「こ、腰が抜け……」
『……旦那様を愚弄すると憑り殺すからな!』
そう、彼女は最強のガーディアン。誰も物理攻撃を加えられないのがその理由。しかも僕の命令には絶対服従だし。
「まあまあヤキ、それぐらいで勘弁してあげてよ。モッチーはそういう人間なんだって」
『……旦那様がコイツを買っている理由がこれっポッチも分かりませんわ!』
「そ、それよりも先を目指しましょうよ」
実は今、僕達は〝吹雪山〟登山をしている。以前途中でリタイアした為、今回はそのリベンジも兼ねての挑戦だ。前回は大人数で収拾つかなかったが、同じ轍を踏まない為にもモッチーと二人だけで来た。尤も他に数人声を掛けたのだが、全員に断られたのはナイショ。
「しかし本当に暑いなー? 夏に山は登るモンじゃないねぇ」
「なに言ってるんですか三河君? 君が言い出したんでしょう? それにまだ一合目すら到着してないんだし」
そうなのだ。まだ樹木が生い茂る一合目中間点付近なのだ。木陰でこれってことは、五合目以降の日陰が全くない場所だとミイラになるのではとさえ思わせられる。
『……あの、旦那様。えっと……これは報告した方がいいのかな?』
「ん? なにさヤキ?」
その時だった!
茂みの方から何やらガサガサと草木の擦れる音が聞こえてきた!
同時に辺り一面を獣臭が包む!
「お? 猿かな? もしかしたらシカかも知れませんよ三河君! こいつは大シャッターチャンス!」
興奮しながら茂みを見つめていると、一匹の獣が姿を現した。
クマ―が……。
「グフーッグフーッ」
「!」
ダメじゃん!
一番出会ったらダメなヤツじゃん!
『……あー、やっぱり早くお伝えした方が宜しかったですかね』
「あたりま……グフッ!」
僕の意識はここで潰えた。
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