友人と僕
「こいつはっ!」
青ジョリの家へ入った途端に大声を上げてしまった。なぜならそこには戸板のようなものに括り付けられた一人の人間がいたからだ! ってか、ガリバー旅行記かよ?
「なんでもリバーライダーが山で山菜採りをしていたら突然出くわしたそうなんでさぁ」
「そ、そうでちゅ。キノコ採ってたらいきなり襲い掛かって来たんでちゅ。コッチに向かって涙ぐみながら〝へるぷみ〟とか怪しい呪文を詠唱してまちた」
「たまたま近くで薪集めをしていた数匹のベアアップが彼等の悲鳴を聞いて駆け寄ると、何もしないうちに直ぐ気絶したそうでさぁ。で、リバーライダーたちによってこの有様に」
「ふ~ん。……ってあれ?」
よく見ればこの人間は僕達と非常に似てるな? もしかして初めて同種族との遭遇では?
「青ジョリの言った通り、普通の人間は僕達と一緒なんだね。ぜんぜん肌の色が……あぁっ!」
僕はその者をマジマジ見て衝撃を受けた! なんとその人物は……
「
彼の名は
「三河さんのお知り合いでっか? だったら解いてやりまさぁ」
青ジョリとリバーライダーは手分けして彼を括りつけているロープを解き始めた。これにより東が目を覚ます。
「う……うーん。……あれ? 俺どうして……ってかクマっ!?」
「お目覚めでっか?」
「ヒィッ! ばばばばばばば化け物っ!」
東は青ジョリを見て彼以上の青い顔となってゆく。なんだか面白い。
「まあまあ、ちょっと落ち着きなよ
「
彼は漸く僕の存在へと気付いた。それにしても生きた心地がしなかっただろうよ。これほどまでの異形に囲まれていたのだから。
「詳しい話は表にあるテーブルで聞くよ。ねぇ青ジョリ、序に各族長を集めて。あと、家で暴れたモッチーとニャゴリューは向日葵爆弾で黙らせてから後片付けをやらせて。ドーラとミラカーに言えばきっと力になってくれるはずだから」
「へい! だったら大至急行ってきまさぁ!」
―― 30分後 ――
「どう? ちょっとは落ち着いた?」
「あ……あぁ、まぁ」
いつもの会議室兼青ジョリん家の庭での種族長会議。今回は思わぬゲストを迎えての開催となる。巨漢のわりに器用なショーキューにより、向日葵の葉を乾燥させて淹れたお茶が各々に配られると、先ずは東に一気飲みするよう勧めた。これまでの経験により、どうやらコイツにはリラックス効果があるようで、しかも相当に強力。一歩間違えれば危ない薬にもなりうるのだ。
それにしてもこっちの向日葵って凄いな? どうして誰もこれを生活に取り入れようと思わなかったんだろう?
「なななななぁ三河? おおおお俺ってもしかして死んだの?」
「うんにゃ、お前も僕達と同じく別の世界に飛ばされたんだよ」
僕は彼にこれまでを説明。大凡納得したところで、今度はどうして東がこちらへと来たのかを尋ねた。
「いやよ、お前が山登ろうって誘ってくれたけど俺断ったじゃん。あれって親せきが盆に帰って来るからだったんだよ。本家の手前、かーちゃんに手伝えって言われてたから」
「それがどうしてこんなことに?」
「そこなんだよ三河! 突然
「言われてみれば確かに……って、エビちゃんもまさかこっちに来てる!?」
エビちゃんとは
「気付いた時、先生はいなかったな。つかよ、お前不雷先生に声かけなかったんだってな。カンカンに怒ってたぞ? それにもう少しでお前等に追いつくとこだったし」
どうやらエビちゃんにまくられて東は吹雪山を登っていたらしいのだ。しかも彼女を背負って。で、一合目の半ばで僕達を見つけたらしいのだが……
「ク、熊出たよな? あれって絶対熊だったよな!? お前等熊に襲われてたよな?」
「えっ! 東も襲われた?」
「いや、パニくった不雷先生にチョークスリーパー決められててよ、落ちたみたいなんだよなー?」
「気絶したってこと?」
「タブン……でも先生も変だったな? 俺には熊に見えたけど、あの人化け猫がどうとか言ってたし」
東もあの場所に居合わせたんだ。それに化け猫って……確かヤキも猫がいたとか言っていたような? ってあれ? なんでコイツは今頃こっちに? 話を聞くに、ほぼ同時にこっちへ来なきゃ変じゃ?
「東はコッチへ来るのになんでそんな時間かかったの? あれから数ヶ月経ってるんじゃ?」
「ハァ? お前何言ってんの三河よ? ついさっき来たばっかだよ俺は? 目を覚ましたらバカでかい熊の群れん中にいてよ、近くにいた超カワイイカワウソに助けを求めたらなぜか俺を板へと縛りつけるし。さっぱり訳が分からん!」
さっきだと? 東の話を聞くに、ほぼ同時でなければおかしいはず。違いと言えば、僕達の後ろ数メートルを歩いてたって事? もしかしてその距離と時間の経過が関係あるとか? だけど既に世界を移動したから実証する手立てがないし。まさかこっちへ一方通行? それはあまりにも……
「ところでよ三河? お前はやっぱこっちの世界でもアレか? モテモテなんか? その……そこら辺の動物達から」
「かもねー。なんか崇められてるぐらいだし」
「マジか! やっぱりお前はこっちの世界でも三河なんだな。いつでもいいから俺にも誰か紹介してくれよな」
「ああ、お猿さんに似たモンキーンダでいいのなら」
「!」
意外にも直ぐにこの世界へ適応しそうな東。それはきっとパイオニアとして僕達がいたからだろう。一人だったら普通気が狂うだろうし。それは僕とて同じで、もしモッチーがいなければ結構悲惨な結果となっていたかも知れない。あんなんでも同じ世界感を共有しているのがいれば、それはもう心強いし。まぁ、最悪ヤキに助けてもらえばいいのだけれども。
「だけどスゲエな三河よ? お前は普通じゃないと思ってたけど、まさか異世界で神扱いされてるとは夢にも思わなかった!」
相変わらず褒め上手だな東は。だんだんその気になっちゃうだろ?
「片付け終わりましたよ三河君! ってアレ? ユーは確か……」
そしてここで漸くヤツが戻って来たのだった。
「あっ! 五平先輩ちわっす!」
「君もこっちの世界へ来ちゃったんですか。それにしても三河君と絡むと碌なことがないですねぇ。そうは思いませんか? えっと……」
「海道です! それに自分はそうは思わないっす! 三河と一緒だと考えられないようなシチュエーションに出くわすことが多々ありますし!」
「まあ、あまり力まないでやって行きましょう。そのうちきっと戻ることが出来ると思いますしね」
偉そうに! キサマどんな立場で東に説教じみた話をしてるんだ? 家ぶっ壊されたの忘れてないぞ僕は!
「ところで五平先輩、その後ろにいる竜みたいな生き物はもしかして手下かなんかで? それに綺麗な二人の女性はもしかして彼女とか?」
「あ、ああ! よく分かったな海道君よ! この二人は……」
ドーラとミラカーは直ぐに僕の後ろへと移動。その眼は汚物でも見る様にモッチーへと向けられる。そしてニャゴリュー(ヤキ)と言えば……
{チューッ}
「あじいっ! あちあちっ!」
熱湯をモッチーにぶっかけていた。油断していたからまともに喰らったようである。
「あー、なんかスンマセン五平先輩。俺分かっちゃいました。なんてったって一緒にいるの三河ですもんね」
東はドーラとミラカーを交互に見てそう話す。いや、お前が思う程この二人は良いもんじゃないぞ? 寧ろこの村に住む誰よりも凶暴かと。
「まああれだよ東。今日はゆっくりと休みなよ」
こうして東を別の場所へと案内して休息を取ってもらうことに。その後僕達は、改めて族長会議を執り行うのであった。悟られて落ち込むモッチーも一緒に。
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