ニャゴリューとヤキ
「なあみんな。もう自分達だけで町の運営やっていけるでしょ?」
{ザワザワ}
青ジョリん家の庭にある大テーブルを囲んでの族長会議。毎回議長は僕かモッチーが務めていたが、そろそろそれも終わりでいいだろうと思い、今回皆を集めた。
「えぇ? それはどーゆー意味でさぁ三河さん? もしかしてアッシ等を見捨てるんでっか?」
「うんにゃ、今回東がこの世界へ導かれたのを見てさ、その秘密を探ろうと思って。別に村を出て行くわけでもないからそこんところは勘違いしないでね」
{ザワザワザワ}
一斉に各族長たちが騒ぎ始めた。こいつら今僕が話した内容を理解してないのかな?
「ちょっといいでちゅか三河さん。秘密を探ってどうするんでちゅか? 自分の世界へ帰っちゃうんでちゅか? 僕達を置いて行っちゃうんでちゅか?」
瞳をウルウルさせながらリバーライダーのペットは言う。それにしても相変わらず可愛らしいな。
「そりゃ戻れるものなら戻りたいよ。ここは僕達の住む世界ではないしねー。それにこの町はもう安定期に入ってるから放っておいても勝手に成長しつつ存続していけるでしょ? 各種族の頭首がしっかりしてるから自分達で経営していけるってのもさ、これまでが証明してるじゃん」
{ヒソヒソヒソ}
種族長たちはなにやら相談を始める。まさか僕達を町から出さないよう、軟禁でもする相談か?
「あ、あの……ちょっといいかワン?」
珍しく口を挟むカットウルフのヤンキー。本当に珍しいなオイ?
「今、皆と相談したワンけど、ワシら三河さんのお供しますワン。族長もそろそろ代替わりしなければと思っていたところだワンし、丁度いいとこの場にいる全員の意見が一致したでワン」
ベアアップのショーキュー、モンキーンダのタパーツ、そしてリバーライダーのペットまでもが首を何度も縦に振る。そして青ジョリも……
「ブルーよ、お前はダメだろう? 僕達の代わりにこの町を統治しなきゃ。一応唯一の人種なんだし」
この町における影のフィクサーモッチーがしゃしゃり出た。権力を笠に着て、上から目線でのど厚かましい指示。
「えぇ――――――? そりゃないんでさぁ五平さん!? アッシだって皆さんのお役に立ちてぇでさぁ!」
「だからこそこの町を維持するといった大事な役目を与えてるんじゃないか! それに僕達はいなくなるわけではないぞ? この町を起点にして色々調べようとしてるんだし。まず最初にアマゾネス村をだな……」
軽蔑。やはりモッチーはモッチー。こっちの世界でもドエロ健在。
「いいじゃん青ジョリ。暫くは〝歌舞伎山〟探索が重点となるはずだから、これまでと何ら変わんないし。なるべく夜は自分の家で寝る様にするから」
「……へぇ。まぁそれなら」
この間モッチーは悍ましくイヤラシイ顔でヘラヘラ笑っていた。恐らくだが、自分で発言したアマゾネス村の妄想に耽ってニヤついているのだろう。マジキンモー!
「今日はこの事を皆に伝えたかったから集まってもらったんだ。だけどこれだけは覚悟しておいてね。僕達はある日突然姿を消す日があるかもって。その時はいつ来るやも知れないから絶えず想定しておいて」
こうして種族長会議は無事終わる……はずだった。
「ところでヤキさんはいつまでニャゴリューに乗り移ってるんですか? 遂に三河君を諦めて生涯の伴侶を射止めたって事ですかね?」
『……あぁん?』
「いやー良かったですねー三河君! 僕は心配してたんですよ? 君が幽霊に憑りつかれて以来、いつか死んでしまうのではないかってね? それにしても人外が生涯の伴侶って……ウププ」
『……ブチッ!』
この後はもう酷い有様で、各種族長たちも巻き込まれての大騒動に発展。熱湯を吐きまくるニャゴリュー(ヤキ)に対してその格闘センスで上手い事立ちまわるモッチー。巨漢を活かして仲裁を図ろうも、吹っ飛ばされて青ジョリの家を半壊させるショーキュー。タパーツとペットは向日葵を利用して応戦し、ヤンキーは意外にも物陰に隠れてジッと成り行きを見守っていた。そして青ジョリは……
「うわあぁぁぁぁぁぁんっ! みんなヤメてくれまっかあぁぁぁぁぁっ! 家があぁぁぁぁぁっ! アッシの家があぁぁぁぁぁっ!」
{スゴゴゴゴゴ……ゴウンッ}
こうして僕達の思い出深き始まりの場所でもある青ジョリの家は、音を立てて跡形も無く崩壊したのだった。青ジョリどんまい!
― 次の日 ―
「んじゃあ早速行きますか皆の衆!」
「…………」
早朝から歌舞伎山の秘密を探るために登山口へと集合した僕達一行。昨日の約束通り、各種族長もこの場にいた。
「な、なぁ三河? 皆の衆って……俺達とそこの綺麗な女の人二人しかいないじゃん? なんかあったらどうやって対応すんの?」
実はこの場にいる種族長はタダのお見送り。本来一緒に登るはずだったが、昨日青ジョリん家をぶっ壊したペナルティとして、修復の方へと回ってもらうことに。そして当の本人たちは……
「本当にあんなことして大丈夫なの三河? 俺だったら自殺もんだけどな」
「いいんだよ! あーでもしないと反省しないんだからまったく!」
町の中心にある広場に柱を二本たて、そこへ縛り付けての晒し者にしてやった。モッチーはパンツ一枚で全身隈なく陽が当たるようにして。
ヤキはなかなかニャゴリューから出てこなかったので、モンキーンダの呪術師に手伝ってもらい一旦除霊。これにより弱体化した彼女に対し僕が避雷針をぶっ壊す雷よりも激しい説教をかまし、更には罰として雌のブーへ憑りつかせ大股開きでモッチーの横にある柱へと括り付けてやった。自分の体ではないといえ、これは相当屈辱のはず。所謂死の伴わない恥による公開処刑。これで少しは懲りるだろう。
「本当にモッチーとヤキは犬猿の仲なんだから! 僕に言わせればどっちもどっちだよ」
「でもよ三河、ヤキさんいないと俺達危なくね? なんかあっても対処できないんじゃ?」
「あー、それは大丈夫だと思うよ? ドーラとミラカーも一緒に行くから」
「この美人さん達がヤキさんの代わり? こんな細い腕で大丈夫なのかね?」
いや、怪力だから。東の頭部など簡単に吹っ飛ばせる力があるから。違う意味で気を付けろよ東。
― 一合目中間付近にて ―
「なぁ三河、お前はどうしてその小さな向日葵を摘んでいくの?」
「あ、東は知らないんだっけ? これをちょっと激しく振って見なよ」
「?」
東は言われたまま激しく左右に向日葵を振る。となれば当然……
{ドンッ}
「ヒィッ!」
「ウワーッハッハッハッハ! ヒィッってなんだよ東、ヒィッて!」
これには彼もビックリ。そりゃ花が爆発するだなんて僕達の世界では非常識だし。
「あれ? ちょっと東、どうしたの? やり過ぎた?」
返事がない。只の屍……冗談言ってる場合か! どうやら爆発に驚いて気絶したらしく、東はその場で倒れ込んだ。僕は慌てて彼のもとへと駆け寄り、激しく彼の肩を揺らして安否の確認を。
※ 倒れた人間をむやみに揺すってはいけません
「ちょっと東! オイってば!」
その時だった!
{ピカッ}
「眩しいっ! ……あ、あれ?」
東が光を放ったと思った瞬間、彼は僕の手の中から消えた。ホワィ?
「まさか元の世界に戻ったんじゃ? でもどうして……」
それを目の当たりにしても動揺のドの字すら見せないドーラが沈着冷静に口を開く。
「なあ主人、あの小さな動物がさっきから……あ、逃げた」
小さな動物?
「ねぇドーラ、どんな動物だった?」
「見たことないヤツ。白と黒でリバーライダーよりもずんぐりむっくり。主人をずっと見てた」
まさか猫か!? どうして毎回現れるのだ? しかも絶対僕の前には姿を見せないのはナゼカシラ?
そんな事を考えていると、後ろから声が聞こえてきた。
「まてー! どうぶつー!」
それは一緒に来たミラカー。彼女はなにかの動物を追いかけている模様。って、動物? もしや!
「あっ、バカ! 前を見ろミラカー! そのままだと主人に……」
「へ?」
{ドンッ}
振り返って確認する間もなく僕に体当たりをかましてきたミラカー。さすが最強種である吸血鬼、ひ弱な僕は数メートルほど転がり、木にぶつかって漸くストップ。そして同時に意識を失ったのだった。
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