野生と家畜
「それにしても凄いなコレ? 見てみモッチー、もう触れないぐらい熱いよ」
「本当ですね。もっと早く振ってみてはどうですか? ちょっと僕に貸してください」
このサンフラワは非常に優れモノで、加工次第では様々な用途がありそう。それにしても原理はどうなってるんだろう? ひょっとして細胞同士が摩擦を起こして発電してるとか? 或は振動により急激な細胞分裂を起し、発生する熱エネルギーを……まさかな。
「ねぇ青ジョリ、そう言えばコイツのもう一つの効果ってなんだっけ? まだ聞いてなかったよね?」
「へぇ。激しく振ると……あっ! モッチーの兄貴、それ以上振ると!」
『……危ない旦那様! キモッチーから離れて!』
ありえない反応速度で素早くモッチーから遠ざかる僕! いや、こんな動きはマジあり得ないし!
{スドンッ}
同時に激しい爆発音が室内へと響く。それは思った通りモッチーの目の前で起きていた。
「爆発するんだ……アッブネー」
「へぇ、そうなんです。威力こそ大したことないものの、自爆みたいに一瞬で燃え尽きるんでさぁ」
放射能を出さない核分裂かよ? 使い方次第では蜜でも毒にでもなるなこれは。それはおいおい考えるとしようか。当面の問題はこれより……
「ねぇ三河様。表にいるアイツ等どうしやしょ?」
そうなのだ。こうしてる今、青ジョリハウス前には一緒に下山した野生動物達が百匹ほど屯っているのだ。途中、青ジョリを通じて色々話をしてみたが、思いのほか知性を持ち合わせているんだなこれが。それにしても人間と意思疎通できる野生動物って……もう野生とは言わないのでは?
「とりあえず暫くは共存してみようよ。青ジョリとしても山への脅威は去った訳だし、ここで普通に暮らしても問題ないんじゃないの?」
「はぁ、それはそうなんでさー。しかし食料のほうが……」
「今まで何食べてたの?」
「主にその辺りにいる小動物とか、後は野草とか。それに原生植物の実でさぁ」
そう言えば初めて出会った時、なんかの肉を持ってたな。それに倉庫内には得体のしれない燻製もあったし。待てよ? 動物達と意思が通じるのならば、それは小動物も同じでは? となればそれを頂くのは非常に気が引けるな。
「ならさ、明日朝一で山へ食料調達に行こうよ。それと動物を食べるの禁止ね」
「えぇーっ! そんな殺生なぁ? 肉を食べるなって、生きる楽しみの一つがなくなるってことでさぁよ!?」
「だって青ジョリは動物と話しできるんでしょ? いや、逆か? 動物が青ジョリと話せるんだっけ」
「あー、そういう事でっか。だったら〝モー〟はどうでさぁ? アイツなら話しできないでさぁよ」
意外と勘のいい青ジョリ。僕の言いたいことが理解できたと見える。会話のできる生物を食するのはイヤだって事が。
「その〝モー〟ってなに? やっぱり動物?」
「多分山にいると思うんでさぁー。肉は甘味があって非常に美味。しかもそのチチは栄養満点ときてる優れものの動物でさぁ」
肉が美味くて乳が飲める? 僕達の世界でいうところの牛? だったら大歓迎だけど、なにせ解体がなぁ。
「問題があるとすれば、どうやって捕獲するかでさぁね」
「えっ? そんなに気性が荒いの?」
話を聞いてみれば、大きさも本物の牛と大差ないそう。となれば、罠をしかけて……
「あいつ毒針があるんでさぁーね。一回目は痛いだけですむんでさぁ。でも二回目以降は段違いに死ぬ確率が上がるんでさぁ」
「スズメバチかよ!?」
毒針か。そいつば嫌だな。捕獲はモッチーに任せるとするかな。幸い爆発の気絶でこれまでの話を聞いてなかったようだし。
「ねぇ青ジョリ、ちょっとモッチー起こして」
「へぇ!」
威勢のいい掛け声をする青ジョリ。何を思ったのか、モッチーのみぞおちヘ無慈悲な一撃!
「ちょっと兄貴! 起きるんでさぁっ!」
{ドゴッ}
「ぐはぁっ!」
胸の中心辺りを押さえながら蹲るモッチー。どうやら死ぬには至らなかった様子。ちょっと安心。
「あ、ごめんモッチー、てっきり死んだと思って取り乱しちゃった。あんま心配させるなよ」
「ガッハガッハ! ゴフッ……し、心配? ガハッ! す、すみません三河君、ゴッホ……ぼ、僕は大丈夫ですから」
自分の身を思われた事に感動したのか、瞳には涙を、口角は上がりニヤニヤむかつく表情をするモッチー。結構イラっとした。
「チッ! ……まぁいいや、ねぇモッチー、明日朝一で山行って牛捕まえるから」
「えぇっ!? 山に牛が生息してるんですか?」
驚く彼へこれまでの話に結構なアレンジを加えて聞かせた。得意の二枚舌スキルを発動させ、易々と納得させるのに成功。なによりコイツがバカで助かった。
「あの三河様? モッチーの兄貴にさせるより第三の人に乗り移らせたらどうでっか? 思いのままでさぁね?」
「バカかよ青ジョリ? ヤキが万一その〝モー〟とやらの心情を感じ取ってしまったら……それが何かの拍子で僕に伝わったらそれこそ食べるなんて出来ないだろ?」
『……旦那様』
ポッと頬を赤らめるヤキ。
これは多分あれだな。
そう、勘違いってやつ。
「あ、別にヤキを思ってのことじゃないから。僕自身の為だから勘違いしないで」
面倒な事態にならないよう、一応釘を刺しておいた。
「皆さんなんの話をしてるんですか? とりあえず、腹ごしらえしましょう。それが終わり次第、ミーティングでもしましょうか」
結局〝モー〟を捕獲するって話に納得したモッチー。別行動予定の僕や青ジョリを交えて食後の会議を約束。モッチーとて僕達が何をするのか知っておいたほうがいいだろうし。そんなワケで、先ずは空腹を満たそうと一旦この話は保留に。それにしても腹ごしらえって、なんか食べるモンあったっけな?
「コイツを焼いて食いましょう」
「!」
モッチーが外から持って来たそれは、なんと前野生動物の主であるミニバン狼! ……の頭だった。オエェェェェェェェェェッ!
「チッ! 軟弱なんだから三河君は! そんな事でこの先やっていけるんですかね!?」
「う、うるさいっ! ゲエェェェェッ!」
「だけどこのままだと腐って只の無駄死にですぜぇ? 兄貴の言う通り、アッシ等の糧にすれば御霊も成仏するのでは?」
確かにこのまま放置って訳にはいかないな。ご丁寧に胴体も表に運んであるようだし、腐敗して臭いやら病原菌を振りまいたりしても、これまた厄介だし。ここは覚悟を決めるか。それにしても……オエェェツ!
「わ、わかったよモッチー。だったらその頭は何処かへ埋めて供養してやりなよ。形だけでもいいから。で、青ジョリはミニバンの胴体を捌いて。それが終わったら外でバーベキューをしよう」
「焼肉でっか!? イャッホーゥッ!」
ユーには最後の晩餐だけどね。肉料理の。
こうして僕達は野生動物達と共にバーベキューを行った。生で食してお腹を壊しても面白くないから、それはもう、きっちりかっちり火を通して炭よりも黒いミニバン狼を次々胃の腑に収めていく。気付けば彼は骨だけの悲しいお姿に。まぁ、思いのほか美味しかったかも。
それが終わると今度は首塚にお参り。動物達も全匹参列させての供養を行ったのだった。
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