青と赤


 「なるほどなー。で、青ジョリはどうしたいの?」


 「へぇ。出来ればお友達になりたいと」


 青鬼の家に居候して一夜が明けた。この世界では特殊能力が働くのか、わずか一日で言語を習得! 但し、青鬼が。


 流石にへこむでしょ? やる気満々で言葉を覚えようとしたけど、向こうが直ぐに覚えちゃったんだもの。悔しいから彼に変なあだ名をつけてやったのだ。〝青ジョリ〟と。毛髪は無いくせに顎あたりには僅かに生えているし、まあ、産毛レベルなんだけど、肌が青いのも相俟ってそう呼ぶことにした。

 

 とはいえ、彼曰く文法はこの世界とよく似ているのだそうだ。だから僕達も直ぐにこちらの言語を覚えられるだろうって。いや、その前に帰るし。


 「アッシはね、別に他の部族が嫌いではないんでさぁ。ところがこの巨体からか、どこへ行っても迫害を受けるんっすよ。自分で言うのもなんですがね、温厚なアッシとしてはモメたくないから敢えてこんな辺境で一人寂しくくらしてるんでさぁ」


 「でもさぁ、僕達何れ自分の世界に帰っちゃうよ?」


 「だったらそれまででもいいからお願いしやさぁ!」


 どうやら青ジョリは優しい心の持ち主と見える。その見た目の脅威から恐れられただけなのかと思われる。一人寂しくここで過ごした日々を思うと、他人ながら涙がこぼれそう。


 「だってさモッチー。お前友達になってやりなよ」


 「え! いえ、出来れば三河さんもお願いしやさぁ」


 「おいブルーよ、あんまり僕のである三河君に馴れ馴れしくするなよ? じゃないと残りの指も全部へし折るぞ?」


 「おいモッチー、あんまり偉そうにすると友達から只の知っている人に降格させるぞ?」


 「すみません三河君、出しゃばりすぎました。この下僕めになんなりとお言いつけを」


 この調子の良さと言ったら本当に反吐がでるな。しかしコイツの利用価値はまだまだある。それまで生かさず殺さず上手い事利用させて貰うとするか。バカとハサミはなんとやらってね。


 「ところで青ジョリ、この世界の事をもう少し詳しく聞かせてくれる?」


 「へぇ。知っているだけでいいのなら」


 青ジョリは自身が知っている全てを教えてくれた。話を聞くに、僕達はどうやら〝とある島〟へと飛ばされたらしい。大きさで言えばワイハーぐらいだろうか? その中心に位置するこの〝歌舞伎山〟と呼ばれる麓に彼の家は建っているのだそうだ。元々近隣の村からは〝悪霊の住む山〟と恐れられていて、滅多に訪れる者もいないから住むには丁度良かったのだとか。自分でもどれだけここに居るのか分からないぐらい月日が流れたから、今は村がどうなっているのかも知らないとのこと。


 以前はこの島に同じような村がいくつかあったのだが、如何せん仲が悪かったそうな。村を取り仕切る貴族的な立場のヤツが総じて無能なため、どこも貧困に喘ぎ、他所から奪うの繰り返しを重ねていたとか。だからもしかすると全滅して村などもう無いのかもだとさ。


 「へぇー。ところで青ジョリってなに? 化け物?」


 「えぇっ!? ご冗談を三河さん? どこからどう見てもアッシは人類でしょうに!?」


 「!」


 僕とモッチーは少しだけガッカリ。この分だと他の生物もルックスはタカが知れているなと。


 「あれ? じゃあさ、他の人間は小さいの? 青ジョリは大きくて迫害を受けたのと違う?」


 「あー、確かに大きさもですがね、なによりもこの青い色でさぁ。他のヤツラは三河さん達と同じ肌の色をしてますよ」


 つまり青ジョリは突然変異か? 僕達の世界ならば染色体異常で片づけられてしまいそうだな。でも、やっぱり見た目で虐められるんだろう。


 「ところで三河君、まずこの部屋をなんとかしませんか? なにせこの世界でどれだけ過ごすことになるのか全く先が見えないですし」


 青ジョリとの会話を遮ってモッチーが乱入。ちょっとイラっとしたが、確かに彼の言う事も一理ある。なにせこの部屋は何もないのだから。


 建物は石造りで、内部は都合よく三部屋からなっていた。僕達の世界で言う所の2LDKといったところか? LDKとはいうものの、それぞれが独立している訳ではなく、大きな10畳ほどの場所にテーブル、イス、かまどがあるのみのシンプルかつ面白みも何もない。一応くつろげる空間として隅の方に1畳ほどのござが敷いてある。僕達が招かれたのもこの場所だ。


 そして奥の二部屋は一室が6畳ほどで、片方は青ジョリの寝室なのか、やはりござが一枚敷いてあるのみの部屋。もう片方は倉庫的な使用をしているみたいで、かまどに使う薪や食料品なども無造作に置かれていた。が、とにかくこれが臭いのなんのって! 腐敗なのか発酵なのか分からないが、とにかくあり得ないぐらいの異臭を放っていた。


 「ぐふっ! 先ずはここからだな。 この部屋を片付けて僕達が寝る場所としよう」


 

 ― 体内時計1時間経過 ―


 「そんなもの全部捨ててしまえっ! おいモッチー、青ジョリからクッサイ干物を取り上げるんだ!」


 「合点です隊長っ!」


 得体のしれない肉の干物を放そうとしなかったしなかった青ジョリだったが、モッチーに関節を決められるとあっさり手放した。諦めハヤッ! 


 「中身は放り出したけど、やっぱりクッサイや。悪いけど青ジョリがこの部屋で寝てよ。僕とモッチーは青ジョリが寝てた部屋使うから」


 瞳をウルウルさせる青ジョリはきっとこう言いたかったのだろう。


 〝このろくでなしがっ!〟



 ― 体内時計3時間経過 ―


 「ふぅー、一先ずこんなもんかなー? 一応見た目は綺麗になった感じ」


 「それより三河君、お腹すきませんか?」


 「だねー。でも青ジョリの食糧全部捨てちゃったし」


 「僕リュックの中におにぎりありますよ?」


 「あ! 僕もある! そう言えば昨日食べてないや!」


 半ば強引に青ジョリから取り上げた部屋の隅っこに、縄張りを主張する意味で置いておいたリュックを手に取ると、本来〝吹雪山〟山頂で食べるはずだったおにぎりを取り出した。そしてダイニングのテーブル上へとそれを並べる。


 「?」


 この時不思議な顔をしておにぎりを見つめる青ジョリがやけに印象的で笑えた。


 「青ジョリも食べなよ。僕のを半分あげるから」


 「チッ! 三河君がそんな事いったら僕があげないワケにはいかないじゃないですか? おいブルー、3個だけだからな!」


 いや、モッチーよ、お前どれだけ食欲旺盛なの? 僕も結構大食漢だけど、それでもおにぎり5個だよ? それが20個って……。


 「なんすかこれ? アッシを謀ろうとしてないでさぁね?」


 「味付けは塩だけだから青ジョリでも食べられるでしょ?」


 「……塩ねぇ。ぱくっ」


 「あ、言い忘れたけど中心に爆弾入ってるから気を付けてね」


 「!」


 時既に遅し! 青ジョリは一口で半分ほどを口に入れたからさあ大変! そこにあるのは外国人の苦手トップ3に必ず入ると名高いあの〝梅干し〟だ!


 「むぐっ! ……ぐぬぬぬ」


 「お! 耐えてる耐えてる」


 青い肌が見る見る赤く染まっていく青ジョリ。外国人だけではなく、彼もまたすっぱじょっパイのが苦手と見える。それにしても真っ赤って……赤鬼かよ? 一人二役だな青ジョリ! ウワーッハッハッハ!


 「フフフ、どうだ梅干しの味は? これなくして三河君や僕とのは成し得ないぞ?」


 その言葉を聞いてか、青ジョリは俄然モリモリ食べ始めた。どうとればいいのか分からない涙を流しながら……。


 「ところでモッチー、お前もう足大丈夫なの? 片付けの時も気にしてる素振り見せなかったし」


 「そうなんですよ! これが一晩経ったら痛くもなんともなくなってるんです。 まったく摩訶不思議」


 「だったらさ、この後昨日の場所へもう一回行ってみようよ。そこで頭突きをすれば……或は」


 「そうですねー。やはりそれが一番可能性高いですもんね。それでダメだったら改めて色々考えましょうか」



 こうして僕達は昼一番から昨日の場所へと行ってみることにした。縁起の悪い登山を再び……。

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