第二章 その町の名はアオジョリーナ・ジョリ―村

安らぎと平穏


 「三河さんお早うございまちゅ」


 「相変わらずリバーライダーはかわいいなぁ。でへへへ」


 僕達がこの世界へ来て既に……? 正直に言えばハッキリ分からない。一応まだ一ヶ月も経っていないはずだが、別の場所へ行ったりすれば時間経過がズレるから本当の所よく分からないのだ。浦島太郎的な?


 「あ、これブーの卵でちゅ。新鮮なうちにどうぞめちあがれ」


 「ありがとー! 本当にかーわーいーなー!」


 「それでは三河様。今日もいい日でありまちゅように」


 驚くべきは彼等の成長速度。僕やモッチーは来た時と何も変わらないでいたが、ここの住人は違う。異常なのだ。ほぼ野生動物だったのに、今では全員言語を操るどころか各々が様々な労働に従事しているのだ。となれば必然的に法整備が求められる。


 僕としてもこれ以上、この村の発展や統治には関わりたくないのが正直なところ。だから青ジョリを矢面に立たせ、この世界にいるうち、或は生きている間だけ彼のバックアップをする事にした。コレはモッチーも同意見で、僕達の痕跡が薄らぐように、町の名前も〝アオジョリーナ・ジョリ―村〟と命名。どれほど発展しようとも初心忘れるべからずと最後に〝村〟を付けた。


 あと、この町名が駄洒落だと知るのは僕とモッチーだけ。他に気付く者がいるならば、そいつも間違いなく僕達と同じ世界からやってきた異世界人であろう。


 「だけど当初からいる住人達は僕やモッチーを神ぐらいに崇めてくるんだよなー。マジやめてほしい」


 『……それは仕方がないのでは? この村の礎を築いたのは旦那様なのだし』


 「いや、ヤキがいなかったらそれも無理だったじゃん? ってことは、ヤキが一番の偉いさまじゃないの?」


 『……またまたぁー、御謙遜を。そんな控えめな旦那様も素敵ですね』


 いや、心底そう思ってるけど? ヤキがいなければ速攻彼等の餌となってたんじゃない? それにどうやらこの世界……いや、この村の住人はヤキを捉えることが出来ないらしい。僕の後ろに得体のしれない者が控えてるぐらいにしか分からないようなのだ。乗り移られたヤツらは映像として脳に直接焼き付けられているそうだが、それも例のボロ皮バージョンのみ。ヤキとしても見せる意思がないそうで、これが彼女の存在自体を曖昧にさせている。今のところ、その方が都合いいのも確か。そのお陰で僕は魔法が使えると噂され、現時点を以てしても歯向かう者の一人として出現してないのだから。


 「あ、こんなところにいた。勝手にアタシたちの近くからいなくなるなよ」


 「ドーラよ、お前はもうちょっと言葉遣いを丁寧にしろや」


 それと、一つだけ従順な彼等に言いたいことがあるとすれば、このドーラとミラカー達吸血鬼のことか? 当初二人だけで生活させようと住居まで宛がったのに、何を思ったのか姉のドーラが〝お前を守るためには一時とて離れられないから一緒に生活する〟などとフザケタことをぬかしたのだ。この時他の住人がそれを後押ししたので結局一緒に生活をするハメに。僕はこの村にとって崇拝の対象だから何かあってはいけないと、四六時中警護が必要だから最強種である吸血鬼の二人に守ってもらえるなんて、これ以上のSPはいないのだと。いや、この人達ミニバンにビビって隠れてたじゃん? そもそもヤキがいるし。正直イラネー。


 「別にいいじゃん。それよりも一緒に暮らしてるんだから一度ぐらい手を出せよな? 自信なくなっちゃうだろ?」

 

 「お前フザケンナよ? 超絶お断りだ! 興奮して首筋でも噛まれたら堪ったもんでもないからな!」


 本当はヤキが怖いだけだったりして。嫉妬に狂って何をしでかすか想像もつかないし。


 「チェッ! まぁ、一緒に生活するだけでも楽しいから別にいいけどよ」


 それにしても平和だなぁ。いつの間にか住人達も増えたし。それでもこの世界的にこの村はどうなんだろうか? 発展しすぎなのか、それとも全然田舎レベルなのか? なにせ比べる場所がないし。


 そもそも住人たちにしたって増えるのが早すぎと違う? 知らないうちに各種族とも100匹……違うな? 100人か。その人数を遥かに超えてるし。ユー達はプラナリアみたいに分裂でもするんか? まったく、幾ら気持ちいいからと言っても子作り行為は程々にな!


 「おー、三河殿。ご機嫌如何でっかな?」


 「あ、なんだよ青ジョリ。モッチーから変な言葉を教えられてからに。何が三河殿だよ?」


 そして問題はコイツ。今やモッチーの傀儡と化しているのだ。張り子の村長故、ヤツの言いなり。憎たらしいことに、言いつけ通り行動すれば全て上手く事が運ぶようなのだ。伊達に僕の居ない間、村を目まぐるしく変化させてないや。


 「モッチーはどうした青ジョリ?」


 「へぇ、〝総大将モッチーさま〟ならば……」


 「あぁ? ちょっと待って。青ジョリはモッチーのこと〝総大将〟って呼んでるの?」


 「へぇ、そう呼んでくれと言われたんでさぁ」


 チーン! いいこと思いついちゃった。


 「ダメだよ青ジョリ、それ聞き間違いだと思うよ? たぶんモッチーはこう言ったはず、〝ソーローデショーモッチーさま〟って呼べと」


 『……プククク。だ、旦那様もお人が悪い』


 「今から青ジョリは大至急この言葉を町全体に広げて! いや、その権力を使って御布令をだすんだ! さぁムーブムーブムーブ!」


 「へ、へぇ! だったら早速行ってきまさぁ!」


 この後モッチーが〝ソーローデショーモッチーさま〟を略して〝早漏様〟と呼ばれるのは然程時間を要しなかった。ナイスッ!


 「ところでさ、ミラカーは全然口をきかないけど、もしかして言葉忘れたとか?」


 「……ちがわい」


 お、喋ったぞ? 結構可愛い声してるな。それとやっぱり言葉遣いは酷そうだ。


 「妹はアレ以来ビビってんだよ主人に」


 「あー、アレ(ヤキ)ね。別に悪いことしなければ出現しないから平気だってば」


 「だとよミラカー。お前も一応理に従って主人を守れよな」


 「う……ん、わかってる」


 元々口数が少ない子みたい。その気になれば簡単に僕をぶっ殺せるくせに。冷静に考えるとマジこっわ!

 

 そんなとき、アイツが僕の前へと現れた。


 「おーい三河くーん!」


 「あ、ソーローデショーモッチーだ」


 「ななななななななな何ですかその呼び方は!? や、止めて下さいよね! ぼぼぼぼぼ僕は決して早漏なんかじゃありませんからっ!」



 『……ォェ』


 「あぁ? なんかお前ムカっとするな? このソーローデショーモッチーをブッコロしていいか主人よ?」


 「ソーローブッコロス……」


 恐るべしモッチーのバッシブスキル。常に発動されている為、影響受ける人物をまったく選ばない。だけどどうもそれは特に女性限定って感がある。僕もキモいのは同意だけど、別に嫌いではないし、寧ろこの状況では心強く思っている。青ジョリやこの町における動物達でも一様にヤツを認めている。それは知識であったり、或は体術や技術、そして何よりも大人の遊びを教えているからのようなのだ。……そりゃ女さんから嫌われますわ。


 「え? なんですか君らまで!? あんまり憎たらしこと言ってると抱き着きますよ? いいんですか!」


 「……申し訳なかった。それだけは勘弁してくれソーローデショーモッチー」


 「ゆるしてソーロー……」


 「あぁ? なんだか余計な言葉がくっついてるけど、まぁ今日は大目に見ましょ。……まったく、最初から素直にそう頭を下げればいいものを! 次そんな態度をとったら僕の使ったコップを洗わないでそのまま使用させますからね!」


 「!」


 そーゆーとこだよモッチー? 女性だけではなく、そんなの誰が聞いても引くし。それにしても凄いな? 最強種と言われている吸血鬼を言葉のみでねじ伏せるなんて。ここまでくればモッチーのキモさも捨てたものではないな。



 こうして毎日が平穏に過ぎて行くアオジョリーナ・ジョリ―村。住人達は手に職をつける喜びを知ったり、モッチーに教えられた恋愛をしたり、或は僕達が伝授した娯楽に勤しんだりしてある意味成熟期を迎えたのだった。

 

 ヤツ等が来るまでは……。

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