ニーワーとクロコン
一応形式上、街で一番偉い村長の青ジョリと、何かあった時の為、護衛兼乗り物としてベアアップのショーキューを共に引き連れてのお宅訪問、いや、アマゾネス船へと向かうことに。勿論最終兵器のヤキも。ただ、彼女はこの時少しイライラしていた。まさかあの日では? なんちゃって。
『……そもそも旦那様が会いに行くだなんて筋が通りませんこと? 頼みがあるのならば、どうして向こうがこないのですか? 最初が肝心ですよ最初が!』
稀に見るご立腹全開のヤキさん。この街が舐められたからか、それとも僕に対しての無礼になのか、或は……嫉妬? どうにも使者を見る目が尋常ではなかったし。もう暴れられるのはコリゴリですよ?
『……んもう! あの時はすみませんでした!』
「プププ。考えるだけで言いたいことが伝わるってのは、必ずしも不便ばかりではないねー。回りくどくなくドストレートに質問するのとなんら変わりないし」
「…………」
毎度お決まりではあるのだが、アマゾネスの使者は独り言を話す僕を奇異なる目でチロ見する。そりゃヤキが見えなければ僕はタダの危ない人みたいだし。
「だけどさーヤキ、今回は仕方がないよ。確かに本当ならば族長がこちらに来るのが礼儀。悲しいかな先に無作法を働いたのはこちら側、つまりモッチーのせいなんだよね。これ以上拗らせるワケにもいかないから僕が行くことにしたんだよ」
『……あんのキモッチーめ! 旦那様に恥をかかせやがって……戻ったら覚えてろよ!』
「もう三河さんの家やワイの家を破壊するのは勘弁でさぁ……」
『……チッ! だったらアンタがなんとかしな! でないと』
「へぇ……わ、わかったでさぁ」
僕の知らないうちにモッチー、ヤキ、青ジョリは不思議な関係となっていた。例えるなら、頭の悪いチンピラグループの頭がヤキで、うだつの上がらない舎弟の青ジョリ、それと迷惑ばかりかけまくるダメ弟分のモッチーといったところか。
「…………」
脂汗をダラダラ流しながらもチロ見を繰り返す使者。僕だけではなく、青ジョリさえもが見えない何かに向かって話し掛けるのだから堪った物ではない。自分が壊れたのか、将又この街に住む住人全てがおかしな薬でトリップしているのではないかと非常に困惑。その様子が見ていて少し面白かった。
十数分も歩いたころ、ワニのような〝クロコン〟の統治する川縁の街へと到着。使者の話ではここの船着き場に上陸用の小舟を停泊させているそう。それで沖の母船から渡って来たそうだ。
「お、三河さんじゃないでワニ? 今日はヤキさまや村長にベアアップの長までもがご一緒でどうしたんでワニ?」
「おー、二―ワーさん、実はカクカクジカジカでさぁ。で、クロコンの若い衆をニ、三人お貸し願えませんでさぁね?」
二ーワーはクロコンの代表で、非常に優れた統率力を兼ね備える。まだ若いのに超優秀で鰐脈も熱い。
「だったらワニがお供するワニ。川を利用するならば少なからずお役に立てると思うワニ」
確かに。ショーキュー程ではないにしろ、このクロコン族は結構なガタイをしている。戦闘にも長けているし、なにより水の中では最強と言っても過言ではない程にその体は泳ぎに適している。しかも本来は肉食で凶暴なのだ。モッチーの洗脳教育により、その牙はもがれてしまったが、潜在能力は侮れない。
「ヤキさまは相変わらずお美しいでワニ。 その華奢な腕でワニの目を張り飛ばしてほしいワニ……」
『……あなたもキモッチーから洗脳済みなのね。お気の毒に』
このように、モッチーが受け持った村民や町民は、全てと言ってもいい程におかしな性癖を植え付けられてしまった。こればっかりは猛烈に後悔。
「それでは三河さんの船はワニが引っ張っていくワニ。ささ、みんな乗ってワニ」
「では私についてきてください。族長のもとへとご案内致します」
こうして僕達は沖に浮かぶアマゾネス船へと向かうのであった。
― アマゾネス母船にて ―
「良くぞいらした! ささ、ワシについてまいれ」
船に到着するなり待ち構えていたのはシワくちゃのババァ。梅干しでもこれほどシワないぞと思いつつも、言われた通り彼女の後ろを金魚の糞ばりついて行く。
「結構な大きさでさぁね」
「ジョリ―村でもこれぐらいの船は作れる?」
「あー、余裕でさぁ。でも資源が勿体ないから必要ないでさぁね。イザとなったら向日葵火薬でドーン! でさぁ!」
「アハハ、暴発して青ジョリの家がまた吹っ飛んだりしてね!」
「いやいや三河さん、それはアナタの家かもでさぁよ? グッフッフ」
『……そ、それぐらいで勘弁して下さいよもう!』
自然災害でもなく、アマゾネスの襲来ででもなく、僕や青ジョリが自ら招いたわけでもない。我が家の崩壊をあてつける僕達にヤキはバツが悪そう。とはいえ、それもお仕置きの一つなんだから我慢しなよね。
「さぁ、もうすぐです」
使者は僕の腕をとりながらそう話す。それにしてもくっつき過ぎと違う? それ程までに男が珍しいのか? それとも本当に飢えている?
『……旦那様、もし彼女達が何かしようとするならば躊躇しませんからね』
「ほどほどにね……」
使者の感情を読みとったのか、ヤキさん超ご機嫌ナナメ。その顔は毎度おなじみで深海魚に勝るとも劣らず。コッワ!
「先程からアナタ様……いえ、アナタ方は何を言っておられるのです? まるで私に見えない何かとお話でもしておられるかのよう?」
「!」
急にババァが立ち止まった!
「そ、それはまことか!?」
振り返りがてら喋るババァは慌てていたため、猛烈に唾を飛ばす! しかもチョークサイ! ぉぇぇ。
「ヌシ等は見えざる者が見えるのか!? まさか族長と……いや、そんなバカな!?」
「さぁね?」
僕は鼻をつまみながら返事をする。それにしても昨日何を食べたのか知らないけど、本当にクサイな? まるでニンニクか玉ねぎの発酵した感じ。ォゲェ。
「これは急がねば! ささ、早く族長のもとへ!」
これってなに? 急ぐのは分かるけど、なんで僕の腕を組むように絡みつくの? まるで反対側にいる使者へ負けまいとしているみたいじゃん? あと……クサイんだけど。
「罰ゲームかよ?」
「偶にはいい薬でさぁ。いつも美人さんに囲まれてばっかりでさぁし」
「ちぇっ、青ジョリもそれを言う?」
「いい気味でクマー」
『……フフフ』
キャッキャウフフと全員イチャつくうちに一際大きな扉の前へと到着。どこからどう見ても重要な部屋であることは間違いない。となればここが族長の部屋だろう。
「あ、そっちは食堂です。皆様方はこちらの扉をおくぐり下さい」
その大きな扉とは正反対の場所にある小さな小窓。それはもうヒッソリこじんまりで。茶室かよ? しかも速攻大扉族長室説を否定されてチョー恥ずかしいわ!
「万が一の時、犯人が簡単に逃げられぬよう出入り口を小さくしてあるのです。私達の古くからの習わしですよ」
その理論は本当に茶室と同じ、未然に防ぐか早急に収めるかの違いだけで。
「青ジョリは入れないんじゃない? ニーワーとショーキューは完全に無理だね」
「でも、三河さん一人だけだと危ないじゃないでっか? もしなにかあったら街の者たちに顔向けできないでさぁ」
「大丈夫だよ。ヤキもいることだしね」
『……お任せを』
「んじゃ頼みまさぁヤキさま。アッシ等はここで待ってまさぁ」
「えっと……ちょっと宜しいですか?」
ここで使者が口を挟む。それはもう、狙い済ましたかのようなタイミング。まさかずっと機会をうかがっていたのだろうか?
「お話は済みましたか? ではこちらへ」
こうして僕は一人、使者とババァに連れられて茶室の門をくぐるのであった。っつか、いい加減に手を放せよアンタ等!
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