町と街


 早いもので、僕が再びこの世界へと舞い降りて半年が経過。なんども歌舞伎山へは足を運んだが、元の世界へと帰る方法を見つけるどころか、あれ以来一度も戻れていない。正直なところ、それにかかりっきりとなるのは無理で、街では様々な問題が勃発、その度に駆り出されるから中々先に進まないのが現状。そのくせ外敵がちょくちょく攻めてくる始末。そのせいでモッチーはそちらへと釘付けに。


 「ハァァァァァァァァァ……」


 「主人どうした? そろそろ嫁が欲しくなったか?」


 「いるかっ!」


 「チッ」


 しかも最近はやたらとドーラがそんな言葉を口にする。もしかして適齢期なのか? いや、発情期? そもそも別世界の人間と吸血種って交配可能なの? まぁ、元々この世界に僕の痕跡を残したくないからどの道それは永遠の謎だろうけど。


 『……その割には街の至る場所で旦那様の痕跡が残されてますけど、あれらはいいんですか?』


 「そうなんだよなぁー。勘弁してほしいよまったく……」


 村や町レベルでは青ジョリを地主として、この地で一番偉いのが彼だと民衆を納得させるのは簡単だった。実際始まりは本当に彼の土地からだったし。僕も村民や町民として協力する立ち位置で日々を過ごしていたワケだが……街となればそうはいかない。あろうことか青ジョリが僕を神格として祀り始めたのだ。爆発的に増えた人々の心を掌握するのには宗教がうってつけだとモッチーが要らぬ知恵をつけさせてしまった。


 だったらその役目はモッチーでいいじゃんと提案したのだが皆聞こえぬふりをしやがった為、結果、モッチーを除いた満場一致の青ジョリ会議で可決されてしまうといった悲しいオチに。


 直ぐにおかしな形の教会や寺院が建てられて、中には僕によく似た巨大な偶像が置かれ、誰もがそれを崇めるといった超危ない団体へと変貌してしまったのだ。


 それでも嬉しかったのは、そんな僕でも気さくに話し掛けてくれる人達の存在。元々このアオジョリーナ・ジョリ―村出身の者は僕やモッチーの事情をある程度知っているし、以前は一緒にあれこれしたもんだから半分友達みたいに思ってくれているのだろう。神とは言わずも精々尊敬しているぐらいでは? それとは反対に移民者はそんな経緯をしらないから〝あの人はこの街で一番偉い人〟イコール〝神〟と間違った認識をしてしまったのだ。それに乗じてモッチーと青ジョリがおかしな制約を触れ回ってしまった結果が今なのだ。まったく……


 それと外敵の存在も見過ごすことは出来なくなっている。例のアマゾネスが結構な割合でアタックしてくるのだ。幸い、これまで死者は一人として出ていないものの、こちらにだって我慢の限界はある。


 「その件でさぁけど、ちょっといいでっか三河さん」


 「ん? どうしたの青ジョリ、やけに余所余所しいじゃん」


 「いえ、五平さんに聞かれるとちょっと困るんでさぁ」


 モッチーに聞かれると困る? なんの話だろう? 青ジョリとてこの街に対するモッチーの功績も知っているし、彼自身も信頼してるはず。なのになんだ?


 「実はでさぁ……攻めてくる例のアマゾネスいるじゃないでっか。実は彼女達、この島に助けを求めているみたいなんでさぁ。話し合おうと上陸する度、五平さんがドサクサに紛れて胸とか尻を触るんで毎回ケンカになるんでさぁ。最終的に関節技決められて泣きながら帰って行くんでさぁ。正直不憫で不憫で……」


 あれれー? モッチーから聞いた話と随分違うなー? 武力に任せて攻めてくるけど全員脳筋だから簡単に追い払えるって。バカで学習能力が無いから何度でも同じことを繰り返し、一本調子の猪武者攻めしかしてこないから僕だけで何とでもなりますって。要は僕と彼女達が会うと困るんだなアイツは! お触りが出来なくなるから! あんのバカっ!


 この後モッチーは久しぶりに生死を彷徨うこととなる。当然シラフならば一筋縄でいかない男なので、泣いて詫びるヤキに家ぶっ壊したときの償いだとネチネチ言い聞かせ、乗り移させるともう後は思いのままに。全身を縛った後はニャゴリューによる熱湯のシャワーにどっぷりと浸らせた。


 問題はこれでヤツは反省するかどうかなんだけど。なにせ時々笑みを浮かべてたし。この変態ドMめが!


 「今度彼女達からコンタクトがあったら僕が直接話を聞くんで教えてね青ジョリ」


 「へぇ。承知でさぁ」



 ― それから数日後 ―


 「三河さん! アマゾネスからの使者が来たでさぁ!」


 「マジ!? よし、早速青ジョリの家へお通しして! ヤキは大至急モッチーに乗り移り、自由を奪って!」


 『……アイアイサーッ!』


 「アイアイでサァー!」


 「……変な事ばっかり覚えるなよな」


 こうしてモッチーは簀巻きにしてベッドへ放置。僕は優雅にアマゾネスたちとお茶会……いや、会談を行う事となった。



 「なんかモッチーが迷惑かけたみたいだね? 本当に心からお詫びします」


 「あ……あの、アナタは〝オチチムギューッ!〟とかしないですよね?」


 アマゾネスの使者はオドオドキョロキョロと落ち着きがない。相当に怯えた様子で、その手は腰に当てるふりしてガッチリと隠し持っているナイフの柄を握っていた。モッチーのバカはやり過ぎなんだよもう! 


 「えっと……私達はこの島から少し沖にある小島で暮らしているのをご存知ですか?」


 彼女はチロチロ僕を見ながらそんな質問を投げかける。言葉使いはとても丁寧で、ドーラやミラカーとは大違い。その時点で相当な文化レベルを維持していると推測される。


 「へぇ。女ばっかりの島でさぁね」


 お前が答えるのかよ青ジョリ!? 彼女僕に聞いてきたよね? ね?


 「そうなんです。だけど子孫を残すためには男性と交わらなければならないのです。だから適齢期になるとこうしてこの島へ来るのが習わしだったのですが、以前は数か所あった村が全て無くなり、今ではこの街しかこの島には無いのです」


 「え? マジで? そこんとこどうなの青ジョリ?」


 「やっぱりでっか。まぁそんな気はしてましたでさぁ。移民の中には近隣にある村や町の住民も混ざってたんでさぁね。でなけりゃこんなに次々と流れてくるはずないでさぁよ」


 急成長の影にそんな事実があっただなんて。まるで予算を増やすために合併を繰り返した市町村みたいだな。だけどこの島だってそこそこ大きいはず。探せばまだそんな村は残ってそうだけどな。


 「我が族長が適齢期となったために子を授かろうと交渉に来たのですが……あの……その……」


 「あー、わかっちゃった。モッチーのバカがセクハラしまくったんだよね? 本当にごめんなさい」


 「いえ……」


 使者の彼女はまだ若く、男とあまり接した事ないのがモロ解り。まるで初めて合コンに参加する陰キャみたい。


 「で、どうしてほしいの? 誰か紹介してほしい?」


 「あ、そうではなくって、私はあくまでも使者。族長と一度お話して頂けたらなと思い、こうして伺った訳ですから……」


 なにがアマゾネスが攻めてくるだ! ぜんぜん攻撃的でなんかなく、寧ろ社交的な部族じゃないか! 余程モッチーのほうが未開でエロ原人候と違う? この後もう一段階厳しい罰を与えなきゃだな!


 「オッケー分かったよ! んじゃ青ジョリ行きな。後は任せたか……」


 {ドン!}


 面倒だから青ジョリに全て丸投げしようとしたら、机を叩く大きな音が部屋中へと響き渡った。


 「彼ではダメです! アナタが直接来てくれなきゃっ!」


 「!」


 「あ……す、すみません、取り乱しました。でも、族長とお話するのは、やはりこの街でそれなりに影響力のある方でないと……」

 

 「……だから青ジョリが」


 {ドン!}


 使者の彼女は血走った目で僕を一睨み! いつもこの島への訪問時、モッチーと一緒にいた青ジョリはどうやら同類と思われているようだ。それにしてもそこまで否定しなくても……。


 「わ、分かったよ。いや、分かりました。僕でよければお話だけでも伺いましょう」


 「あ、ありがとうございます」


 『……!』


 使者は俯きながらの返事をする。なぜか今にも噴火しそうなぐらい真っ赤となった顔をして。それとヤキは鬼のような表情で真っ赤になりながら使者の彼女を睨んでいた。ホワィ?



 こうして僕は、島から少し沖に停泊している船で待つ、アマゾネスの族長へと会いに行くのであった。

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