不雷英美とアマゾネス
私がアマゾネス達に助けられて一週間が経とうとしていた。彼女達は珍しいのか、私を完全に客人待遇で持て成してくれる。見栄えこそ悪いものの、一軒家まで宛がってくれて、これでもかと言わんばかりに食糧を運んでくれる。まぁ果物が多いかな? 私的にはオッケーだけどね!
それと不思議なのは、二日ほどで言葉が分かるようになったこと。これは私が喋れるようになったのではなく、明らかにアマゾネスがこっちの言葉を話しているの。私との会話中に覚えていったのか、当初たどたどしかったのが、今は普通の日常会話程度ならば誰もが話すレベルまでに。その吸収力たるや生理用品もビックリね!
ここでざっと村の概要を検証してみようかな。不思議と女性しかいないこの村は、経産婦以外男性を見た事もないらしい。遺伝子的に必ず生まれるのは女性で、盛りになると出稼ぎみたいに外界へ男あさりに行くそうよ。大抵向こうがビビッて言うがままにヤられちゃうんだって。所謂一つの強姦かな? そうやって種を守り続けているみたいね。
村人は全部で100人に満たないぐらいかな? 年齢は下から上までまんべなく揃っている。ルックスを見るに地は相当にいいようで、誰もがたいそう目鼻立ちの揃っていること! それでも化粧などの概念がなく、全員がすっぴん。私的に好感が持てたのは、一切タトゥーを入れていないことね。普通こういった原住民や部族には宗教的な意味や様々な証の意味でことあるごとに墨を入れたりするけど、彼女達にはその風習が全くないの。そりゃ上半身裸で肌の手入れを怠っているから浅黒くてシミだらけではあるけどね。因みに下はタカの皮や羽を利用して作ったスカートをはいてるわよ。
それと文明が思ったほど進んでいないわね。タカに攫われ上空にいた時、ワイハー島(勝手にそう呼んでいる)には石造りの家があちらこちらで確認できたけれど、この島に住む彼女達の家は木造なの。そういえば聞こえはいいけど、実際は東南エイジアの島国にあるような、高床式の建物で且つバナナの皮を用いて屋根を作った感じの手作り感満載のアレ。
゛えー! ここで寝るのー!?〟なんて最初は思ったけれど、考えていた以上に住み心地がいいから助かったわ。それと蚊やハエといった虫などの姿もぜんぜん見かけないし。
「AB,これ食べる?」
「あー、ありがとババ様。一緒に食べようよ」
そして彼女達が親切にしてくれる理由もここへ来てようやく分かってきたの。どうやら私の白い肌が珍しいみたい。アマゾネスの祖が私のような白い肌だったんだって。きっと色素異常だったのだと思うけどね。
「あ―! ババがまたABのとこにいる! 私に族長を押し付けて自分ばっかりもうっ!」
族長はモロという好奇心旺盛な20歳前後の可愛らしいコ。年齢の概念がないらしく、実際の歳は誰もが分からないまま。だけど本当は族長になんかなりなくなかったとよく私に愚痴をこぼす。なんでも代々彼女の家系は霊が見えるそうなの。
「だからこう炙ると煙が人の形みたいに見えてね……」
話を聞くに、それを霊感と呼ぶにはあまりにも稚拙。きっと呪術の、いえ、占いの一種だと思う。そう考えると、霊体であるヤキさんの見える私の方が余程族長らしいんじゃないのかしらね?
「ねぇモロちゃん。アナタはまだ適齢期にならないの?」
「あの陽があと150回ぐらい沈んだ満月の夜ぐらいになると思う。ハァ、思い出しちゃったじゃない! なんでそんな事聞くのよAB!」
因みにABとはこのアマゾネス村における私の呼び名。今ならキチンと発音できそうだけれど、当所何度教えても〝えいび〟を〝えーびー〟としか言えない感じだったから、だったら”AB(エービー)〟でいいやって。
「半年後かぁー。でもさ、その言い方だと、もしかして嫌なの?」
「当たり前でしょ! 初めてなんだし……」
こんなところもまたカワイイ。まだまだ恥じらいを忘れぬ乙女って感じかな? 私はとっくに忘れちゃったなぁー……。
「チェッ! 私も思い出しちゃったじゃない!」
三河君はどうしてるかな? 絶対死んでないよね? 私ですら生きてるのに、まさかね? 海道君は正直どうでもいいや。あのコゴキブリみたいにしぶとそうだから間違いなく生きてるだろうし。……グッスン。
― そして数ヶ月が経過した。
今日はモロがワイハー島へ子供を授かりに旅立つ日。これまでこの世界で通用するあらゆる私の知識を彼女達に教えた。例えば狩りをするのに一切飛び道具を用いなかったから弓矢の技術を伝えたり、感染症を防ぐためにいつも身の回りを清潔にさせるなど。それと食事での調味料ね。塩だけだと味気ないし。
「ではババよ、呪術師ABよ、行ってくる!」
なによりも医療に関する技術。抗生物質など何もないこの世界でも、人体構造が私達と同じのアマゾネス達には、原始的でも様々な治療法が効果的。例えば野に咲く様々な野草。或は動物達から抽出される色々な成分。持てる知識を巡らせて簡単な治療は施せる。こうして私は崇められ、その結果、呪術師の地位を得たの。これはアマゾネス族における相当なポジションで、上から数えた方が早いぐらい。しかも個人的にババ様や族長にさえも気に入られている。私はこの世界に来て半年ほどでちっぽけとはいえ、一つの部族における確たる地位を得たの。
族長が出発して数週間、この島はババ様と私で統治していたと言っても過言ではない。この私が演じる子供だましのイリュージョンに乗せ、ババ様が上手く立ち回り民を惑わすことに成功。知らないうちにナンバースリーの地位にまで伸し上がっていたわ。そして数日の後、族長がワイハー島から戻ってきたのだけれど……
「無礼者! 族長の御前じゃぞ! その態度は最早死罪に値するわ! 呪術師を! 早急と呪術師をこれに呼べっ!」
謁見の間からすぐ横の族長室で寛いでいたら私を呼ぶ声が! あれはババ様の声! なにがあったのかしら? これは非常事態よ! 急がねば!
「おっ、お待たせしましたあぁぁっ! じゅ、呪術師けんざあぁぁぁんっ! ぞ、族長に仇なすキサマはっ……キサマ……あ、あれ?」
私は目を疑った。そこには大好きだった彼が!
「エ、エビちゃんっ!?」
化粧をしていないすっぴんがどうした! バサバサで乾燥した髪の毛がなんぼのもんじゃいっ! 怪しい重ね着でファンタジー感溢れる出で立ちが悪いのか!? 何よりも……クシャクシャの泣き顔が……
「うわあぁぁぁぁぁぁぁんっ! びいぃぃぃがあぁぁぁぁわあぁぁぁあぐうぅぅぅんっ!」
この時ばかりは彼に縋りつくのを背後で見守るヤキさんも許してくれたと思う。それほどまでに気の毒な姿だったのだろう。三河君本人も私をギュッと抱きしめて終始労いの言葉を掛けてくれた。それが嬉しいのやら悲しいのやら、なんだかとても複雑な気分で……。あぁ惨め。
「もう大丈夫だよエビちゃん」
それだけでこの半年間の苦労が報われたような気がした。それに私はまだラッキーだったのかもしれない。女性ばかりのアマゾネス族に助けられたおかげでなに一つ不自由する事も無かったし、荒くれ者の男性もいなかったから乱暴される心配も皆無。なんだかんだと居心地よかったし。
「因みに東はこの世界へ来ていないから心配しないでねエビちゃん!」
知るか! 海道君なんてどうでもいいのよ! 私はね、三河君がいればそれでいいの! あーこの気持ちを吐露したいっ! だけどそんな事を言えばバックに控えるバケモノが黙ってないだろうし! あー歯痒いっ!
『……不雷先生、今日だけですからね』
{ゾクッ……}
こうして私は助かったのではないにしろ、心強い彼(等)と再会を果たしたのであった。
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