第三章 育ち行くワイハー島
モッチーと女性陣
「それにしてもアオジョリーナ・ジョリ―村って……どこぞの女優が耳にしたら訴訟を起こされそうな名前ね」
「え、英美さんのようなあっちの世界人がすぐ分かるように……」
「あぁん!? お前に名前で呼ばれる筋合いはないぞキモオ? ちゃんと不雷先生と呼べや!」
「は……はい」
注意されているのに反省するどころか昇天間近な表情を浮かべるモッチー。まぁキモイですわな。
僕がアマゾネス村へと渡った日から一週間が過ぎた。現在は既にアオジョリーナ・ジョリ―村へと戻ってきている。
人ならざる者(ヤキ)が完全に目視できるエビちゃんを族長にとババァの必死な説得も叶わず、だったらと僕のいるこのアオジョリーナ・ジョリ―村へ来たがっていた彼女と共に移民する覚悟を決めたようで、他の民も巻き込んでのワイハー島移民団を結成。とはいえ、一部老婆たちはこれまで育ったこの地で骨を埋めると残る道を選び、これに口出しする理由は誰にも見当たらず、時々誰かが様子を見るとの事で決着した。
となれば彼女達の居着く場所が必要である。川縁クロコンの統治する村向こうの荒れ地を皆に手伝ってもらい、平地、宅地化すると、次々に家を建築。小さいながらも50棟程からなるアマゾネス村がここに誕生した。
因みに不安要素もある。結局アマゾネス達の族長は元のままで、エビちゃんが影のフィクサーとなったこと。ババァの強力なプッシュもあってなのだが、はたして本当にそうなのか? 人ならざる者が見えるエビちゃんに従えなどと強く言っていたが、時々僕に使う艶のある視線はなんだ? エビちゃんをダシにして僕の近くへ来たのと違うか?
『……あの旦那様、それはババ様に限らず……』
ヤキが嫌な事を言う。元の世界では女性関係で毎日酷い目に遭っている僕。こっちの世界はそういった煩わしさがほぼ皆無で、今現在、生きるというごく当たり前のことをこれでもかってぐらいに満喫している。もしかするとそれも崩壊しかねない。
(まあ、そうなったらなったでこっちの世界をほっぽって元の世界に戻ればいっか! だけどその為にも確実に戻れる方法を見つけなければだな)
こうしてアマゾネス達はこのアオジョリーナ・ジョリ―村へと民族大移動を決行したのだった。
そしてここは村長青ジョリ邸宅の会議室。これから先を各族長交えて検討している最中のこと。
「アマゾネス村は区画整理が済んでいるから土地の配分は自分達でしてね。それと浄化槽システムが完成したらしいからテストを兼ねて一番に導入してみよう。では後を頼むよモッチー」
「えー、今回アマゾネスさんが住む場所は川縁ですので試験には都合がいいです。モンキーンダさん達の焼いた陶器製の管を全戸に張り巡らさせ、村はずれに作った大きな処理場で糞尿を微生物分解させます。バクテリアに必要不可欠な酸素を供給するポンプは向日葵の爆発力を利用した新設計の機構を使用、これもまた試験導入ですから毎日のデーター取りは欠かせないですね」
「なぁモッチー、なんでリバーライダーやクロコンの村でその検証をしなかったの? 彼等だって川縁で生活してるじゃん」
ここでモッチーの顔つきが変わる。どちらかと言えば険しいよりイヤラシイ……
「そんなの愚門ですよ三河君? アマゾネスさんは人類ですからブリブリジャージャー出すのも激しいんですよ。リバーライダーやクロコン達の排せつ物などタカが知れているからこれまで通り天然の水洗、つまり川へ垂れ流しでも問題ないのです。だから女性のみで構成されている……」
完全に鼻の下のばし顔へと変化した! これは本当に寒気がする! 僕でこれだと女性達の反応は……?
{ドゴッ!}
「シネッ!」
誰よりも先にドーラが強力な蹴りを繰り出した! 人類を超えたそのパワーにモッチーの全身は複雑骨折や内臓破裂を免れないだろう。
「ねぇ三河君、ちょっといい?」
「ん? なんだいエビちゃん?」
「アナタの両脇を陣取っている二人の女性だけど……」
やはりな。思った通りの展開。だけどこれは人間であるエビちゃんがどうこうできるものではないってのを知らせておくには都合がいいかも。
「彼女達は僕のボディーガードだよ。さっきのモッチー見たでしょ? 吸血種だから全ての面において人間を超越してるんだよ」
「吸血種!?」
これに驚いたのはエビちゃんではなく、アマゾネスの族長であった。彼女は席を立つと直ぐにドーラの前へ。そして……土下座? またかよ!
「わ、私達アマゾネスはバンパイア信仰をしてるのです。吸血種は女性のみへと与えられる誉。男性の吸血種など存在しないのです。それを女性のみの我が部族が信仰しないワケがない!」
こっわ! 宗教こっわ! でもこのままじゃマズイかも。ライトな信仰はいいけど、敬虔だと争いを起しかねないし。
「なぁ主人? こいつ踏んづければいいのか?」
ドーラは彼女達に崇められるのが煩わそう。これがモッチーならば相当に舞い上がるだろう間違いなし。
「ダメダメ! ドーラがモロに踏んだら族長であるモロさんの頭がモッロモロになっちゃうだろ?」
「…………」
やらかした! 思いっきりスベった! 場を和ませようとしただけだったのに!
「えー、うぉっほん! ち、ちなみに反対側へと座るミラカーも吸血種だから……」
「!」
族長の表情が変わった! 正確には彼女の僕を見る目がだ!
「す、少しだけ失礼します!」
族長は慌てて立ち上がると、その場から走って姿を消した。
「……なんなんだ?」
「よくわかんないけど、多分ババ様の所に行ったんだと思うよ?」
「エビちゃん理由知ってる?」
「さぁ?」
この後暫くアマゾネス族長は戻ってこなかった。仕方ないからいつものメンバープラスエビちゃんを加えての会議を開催。内容を占めたのは、やはり移民に対しての事案。
「だからショーキューやペット、それにタパーツやヤンキーもだからね! 特にご近所さんとなるニーワーは自分たちの部族にきちんと言い聞かせてよ! 人間だからといってちょっかい出しちゃダメだってね! いつもニコニコ協力体制を整えておけってね!」
「アイアイサー!」×複数
全員が間抜けな返答を。まったく、ヤキが教えたんだな? 正確にはヤキからモッチーに伝わり、そして彼等へと伝染したのだろう。それにしても〝でちゅ〟や〝クマー〟といった語尾はどうしたんだ? こんなときだけ普通かよ!?
― 体内時計1時間後 ―
{バタンッ!}
「み、三河さんっ! ハァハァ……」
全員で暫しご歓談の最中、披露宴……じゃなかった、会議で盛り上がっていると、激しく扉を開けてアマゾネスの族長が戻ってきた。息も絶え絶えでなにをそんなに慌ててるのだろうと思い尋ねてみると、
「ちょ、ちょっと表へ……ハァハァ、で、出て貰えませんか?」
「はぁ?」
彼女の表情は鬼気迫り、否定を一切許さないとのオーラを受けとめ、仕方なしに言われた通り表へ。しかも本来呼ばれたのは僕だけのはずなのに、他の皆も一緒となってついてくる。ゾロゾロゾロゾロと……。僕らは売られていく奴隷かよ? いや、冷静に考えればこの先何があるか分からないな。ならば僕のリアル奴隷であるあの男に先陣切らせようか。
「なんだよ一体? なんかあると嫌だからモッチーが一番最初を歩いて」
「えーっ!? なーんつって。もしかしたらアマゾネス達からご褒美(攻撃)があるかもなのでオッケーです! 出来ればオッパイパンチなんてものをですね……」
『……ペッ!』
「ヤキさんまで……三河君達三人の息の合ったやり取りを見てると、私だけ仲間外れにされてるみたいでなんか妬けちゃうわね?」
トリオ漫才をも凌ぐ絶妙な間の取り方で掛け合いしつつ、全員が青ジョリ城玄関へ辿り着くと、そこには驚きの光景があったのだった。
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