「色々と蓋をして、見えないふりをして、何とかかんとかやってるんですよ」

 昭和初期が舞台、主人公が元軍医と元部下、その元軍医の書生…と、古き良き怪奇小説を思わせる舞台装置が、まず興味を掻き立てられます。

 扱う事件も、古い因習や伝承に根ざしつつも、人が作ってしまったものというのも、「昭和初期」という舞台設定から感じ競れる不安、不安定を感じさせられるものばかりです。

 しかし鬱々と感じない描写の妙が感じられます。

 登場人物の言葉、仕草が、舞台設定に相応しい情景を思い浮かべさせてくれました。アスファルトよりも土を、コンクリートよりも雑木林を、何よりも黒をブラックではなく漆黒だとイメージさせられる文体は、この物語に流れる伝奇の雰囲気を否応なく高めてくれていると感じました。

 モンスターや怪物が出てくるのではなく、人同士の繋がり、人の心の機微を描いたホラーは、人の心コソに恐怖やあー不安があるけれど、解決策も隠されているのだと思わされました。

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