第12話
こうして、あけみには秘密のうちに、婚礼の話は進められてゆき、とうとう来年の春に式をあげることに決まりました。何も知らないあけみは、ただただ一作の帰りを待ちわびています。そして、とうとうその年も暮れてゆきました。
あけみが婚礼のことを知らされたのは、梅の花が咲き乱れる頃でした。もう、明日は隣村にお嫁に行かなくてはならないのです。あけみは泣きました。一作との約束を守れない悲しさに泣きました。でも、庄屋様の言う通りでした。ここまで話が進んでいては、もういやとは言えません。泣きつかれたあけみは、夜中にそっと家を抜け出しました。いつも一作と一緒にいた畑に行こうと思ったのです。
あけみは、夜道をとぼとぼと、明かりもつけずに歩いて行きました。一作の耕していた畑は、川の向こうにありました。やがて、あけみは川岸にやって来ました。川は春の雪代を加えて、水かさがたいそう増えています。真っ暗な中をごうごうと音を立てて、濁った水が渦を巻いて流れています。あけみは、しばらく川を見つめていました。そして、とうとう川に身を投げてしまったのです。
翌日、あけみがいなくなったことに気がついて、庄屋様の家は大騒ぎになりました。庄屋様は村中の者を集めて、あたり一帯を探させました。すると半時ほどして、村の衆の一人が真っ青な顔をして走ってきました。手にはあけみのぞうりを持っています。そして泣きながら言いました。
「このぞうりを川岸で見つけました。あけみ様のはいてらしたもんと同じです。きっと、あけみ様は川に身を投げてしまわれたんです。」
庄屋様は、へなへなと座り込んでしまいました。そして、この時になって初めて後悔しました。
「ああ、わしが悪かった。そんなにも好きおうていたのなら、一緒にしてやるんだった。ああ、来年一作が戻ってきたら、何と言ってわびたらよいことか。」
庄屋様は、ながいことあちこちと手をつくして、あけみなきがらを探しました。けれども、とうとう見つかりませんでした。こうして、この年は悲しみとともに過ぎ、そして暮れてゆきました。そして、とうとう三年目の春になりました。
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