第13話
梅の花の咲き乱れる頃、一人の立派な若武者が、供の者を引き連れて村にやって来ました。それは一作でした。一作はこの三年間というもの、あけみと会える日だけを生きがいにして、死に物狂いでがんばってきたのです。幸いなことに、大きな手柄をいくつかたてることができ、今は立派な若武者となって、約束通りに帰ってきたのです。
一作は、意気ようようと歩いて行きました。今日こそは、庄屋様の前で胸を張って、あけみをお嫁にくださいと言えるのです。一作は、とうとう庄屋様の屋敷に着きました。そして、大きな声で言いました。
「あけみ、約束通りこうして立派に出世して、おまえを迎えに来たぞ。さあ、一緒に行こう。」
すると、奥から人影が出てきました。それは庄屋様でした。悲しみ打ちひしがれ、すっかりやつれはてた庄屋様でした。庄屋様は言いました。
「あけみはもういない。去年の今頃、わしが無理に決めた婚礼を嫌って、雪代で水の増した川に身を投げてしまった。どうか、あけみを許してやってくれ。わしは、もうどうなってもかまわん。」
一作は、初めは信じられませんでした。でも庄屋様のようすにうそはありません。一作は、ひと声叫ぶと外へ駆け出しました。供の者たちはあっけにとられてそのまま見送ってしまいました。
一作は泣きながら走りました。あとからあとから、涙が湧いてきます。もう一作には生きてゆく気力がありませんでした。三年間、あれほど思い続けてきたあけみが死んでしまったのです。一作は、橋のところで立ち止まりました。一作にはわかりました。あけみが身を投げるなら、ここです。一作はつぶやきました。
「さああけみ、今おまえのところへゆくぞ。今こそ、おれたちは一緒になるんだ。」
次の瞬間、一作の姿は、去年と同じように雪代で水かさの増した川の中に消えてゆきました。川の流れは、あっという間に一作を飲み込み水の中へと引きずり込んでゆきました。一作は時期に何もわからなくなってしまいました。
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