第15話
「わしはな一作、あけみに何度もおまえのことは忘れてよそへ行くようにとすすめたのだが、あけみは承知してくれなんだ。わしは、おまえがあけみのあとを追って川に入らなかったら、決しておまえたち二人を会わすまいと、思っておったのじゃ。」
一作は思わず大声で言いました。
「なぜです。おれのどこがいけないんですか。」
神様は言いました。
「おまえたちは、貧しいばかりに一緒になることを許されなかったはずだ。しかしな、だからといって人の不幸の上に、おまえたちの幸せを築いてよいと思っていたのか。戦で手柄をたてて出世するということは、罪もない多くの人々の苦しみの上に、自分の幸せを求めることなのだぞ。
一作には、何も言うことができませんでした。うつむいている一作を見て、神様は言いました。
「わかればそれでよい。で、おまえたちはこれからどうすのじゃ。再び世の中に出てゆきたいのなら、それもよかろう。何でも望みを言ってみるがいい。」
一作はふりかえると、何も言わずにあけみの目を見ました。あけみも、何も言いませんでした。でも、一作にはあけみの言いたいことが、よくわかりました。一作は黙ってうなずくと、神様に言いました。
「おれたちは、貧しいために一緒になることを許されませんでした。おれがみなしごで貧しいということだけで、二人ともこんなに悲しい思いをしたのです。もう、こんな思いは誰にもさせたくありません。」
あとを受けて、あけみが言いました。
「私たちを、もう二度と離れ離れにならないように、石にして川岸に置いてください。石になった私たちを見れば、村の人たちも二度と同じ過ちを繰り返すことはなくなるでしょう。」
川の神様はうなずきました。
「よろしい。お前たち二人を、この村の縁結びの神にしてやろう。お前たちの前で誓い合った者たちは、必ず結ばれるのだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます