第10話

 この話を聞いた時、一作はひそかに決心しました。自分も春になったら村を出て、戦に加わって出世して帰ってきてやるんだ。そうすれば、庄屋様も喜んであけみを嫁にしてくれるだろうと、一作は考えたのでした。

 冬の間に降り積もった雪もだんだんと溶け、梅のつぼみもほころびかけた頃、一作はあけみに自分の決心を話しました。

「あけみ、おれは戦に行こうと思う。いつまでこうしていたって、庄屋様は決しておまえを嫁にくれはしない。いずれは、おれたちは引き離されてしまうにきまっている。それならいっそのこと、おれは戦に加わって、自分の運を試してみたいんだ。必ず出世して、立派な大将になってもどってきてみせる。だからお願いだ。三年だけ待ってくれ。三年たったら、必ずおまえを迎えに戻ってくる。」

 一作の話に、あけみはひどくおどろきました。いくら出世できるかもしれなくても、戦に行ったら命がなくなるかもしれないのですから。あけみは、泣きながら一作を説きふせようとしました。

「一作、お願いだからそんなあぶないことはしないで。こうやっていれば、いつかは父さんも許してくれるわ。それに、いくら出世できても、戦に行ったら生きて戻ってこられるとは限らないのよ。それより、ずっとこうしていましょうよ。二人ならよい知恵が浮かぶかもしれないわ。

 それに行ってしまうあなたより、毎日毎日あなたの無事を祈りながら、ただただ待っている私の方が、どんなにつらいことか。三年なんてとてもこらえきれない。お願いだから村にいてちょうだい。」

 あけみはそう言うと、一作の胸に顔をうずめて泣きました。

 でも、一作の決心は変わりません。やがて、一作は立ち上がりました。そして、あけみの目をまっすぐに見つめながら言いました。

「三年だけ待ってくれ。必ず出世して、おまえを迎えに戻ってくる。三年後の梅の花が散る時までに来なかったら、おれは死んだものと思ってあきらめてくれ。それじゃ、達者でな。」

 一作はそう言うと、あけみの手をぎゅっと握りしめてから、川下の方へと走り去ってゆきました。あけみは泣き泣き家へ帰りました。そして庄屋様に、一作が出て行ったことと、一作の決心を話しました。あけみは、なんとかして庄屋様に三年間待つという約束をしてもらおうとしましたが、庄屋様はとうとう何も言いませんでした。

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