第9話

 こうして、また何事もなく一年が、そして二年が過ぎてゆきました。ところが三年目の春になって、遠い都で戦が始まりました。この山奥の村にも戦のうわさは伝わってきました。でも、こんな山奥の貧しい村では、戦の話など遠くの夢物語のようでした。

 いつのまにか梅の花も散り、やわらかかった若葉も、濃い緑色のピンとした葉になりました。そうです、夏が来たのです。でも戦の話は、いつ果てるとも知れぬ蝉の声にもかき消されることなく、この村に伝わってきます。いつか緑の葉も色あせ、風に吹かれて飛んでゆくようになり、やがて遠くの山のてっぺんが白くなり始めました。それでも、戦はいっこうに終わりません。それどころか、だんだんと大きく激しくなってきました。そして、戦を逃れて山を越えてゆく人たちとともに、戦の話も数多く伝わってくるようになりました。

 それは恐ろしい話でした。遠い都の殿様を相手に、隣の国が戦を仕掛けてきたというのです。戦は国境で始まりました。田畑は踏み荒らされ、家々は焼かれ、兵隊ばかりか、何のかかわりもない多くの人が殺されたり傷つけられたりしました。やがて戦は都にまで及び、とうとう都は焼け野原になってしまったということでした。

 でもこういった恐ろしい話と一緒に、力があって運さえよければ、たとえ貧しい名もない男でも、手柄さえたてられれば出世できる、立派な大将になれる、という話も伝わってきました。

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