第11話

 今度も、あけみはふさぎこんで、何日もご飯を食べなくなりました。でも庄屋様たちが、これしきのことで寝こんでいたのでは、とても三年先まで生きていられないと諭したので、一月もする頃には、ようやく前と同じようになりました。でもやっぱりあけみの顔には、昔ほどの明るさはよみがえりませんでした。何となく、悲しい影がさしていました。

 こうして、ただ一作の無事を祈り、帰りを待つままに半年がたち、一年が過ぎてゆきました。あけみのようすも、一年前に比べると、だいぶ良くなってきたように見えました。

 それで、庄屋様は、あけみを山一つ隔てた隣村の庄屋様の息子に、嫁にやることに決めてしまいました。とは言っても、初めからむりやりそんなことを言っても、あけみは聞き入れないにきまっています。それどころか、また病気になって、今度こそ死んでしまうかもしれません。でも、ずっと秘密にしておいて、婚礼の当日になっていきなり打ち明ければ、あけみもあきらめて、いやとは言うまいと、庄屋様は思ったのでした。それで、庄屋様は隣村の庄屋様と、あけみにはないしょで嫁入りの話を進めていったのです。


 なぜ、庄屋様は一作を待ってやらないのかですって。なぜ隣村の庄屋様の息子の方がいいのかですって。それは、けちんぼの庄屋様には、うんとたくさんのお金を持っている人ほど、幸せな人に見えたからなのです。このあたりでは、隣村の庄屋様は一番のお金持ちでした。だから、あけみもきっと幸せになるにちがいない。あんな乞食同然の一作なんかに嫁にやっても、幸せにはなれっこないと考えたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る