第6話

 一作はほんとはいいよと言いたかったのですが、庄屋様の前でそんなことは言えませんから、黙っていました。おどろいたのは庄屋様でした。よりによって、こんなうすぎたないただ働きのみなしごと自分の大切な一人娘を遊ばせておけるものかと、かんかんになってしまい、いきなりあけみの手をつかまえて、家の方へ引きずっていこうとしました。

 さあ大変です。今まではおとなしく庄屋様の言うことを聞いていたのに、今度ばかりはあけみもひどくさからいます。大声で泣きわめいて、地べたを転げまわって、どうしても一緒に行こうとはしません。かわいい顔も、涙と土でまっ黒けですし、きれいな着物も見るかげもありません。

 一作は、さすがにかわいそうになって、

「庄屋様、かんにんしてあげてください。おれ、お嬢様がそばにいても、なまけずにちゃんと働きますから。お願いです。」

と、庄屋様に言いました。でも、かんかんになっている庄屋様は、

「うるさい。」

と大声で一作をどなりつけると、あけみをそのまま引きずって行ってしまいました。

 庄屋様も、いくらなんでも家に連れて帰ってしまえば、あけみもあきらめるだろうと、たかをくくっていたのですが、あけみはいっこうに泣きやみません。お気に入りのお人形や、おいしそうなおかしにも、目もくれません。なだめてもすかしても、どうしても泣きやみません。

 とうとう庄屋様は本気でおこってしまって、あけみを奥の部屋に閉じ込めると、野良仕事に行ってしまいました。

 誰もいなくなってしまうと、あけみもさすがに泣きやみましたが、今度はふさぎ込んでしまって、あれだけいつも笑い声の絶えない明るい子供だったのが、にこりともしなくなりました。

 夕方になって庄屋様が帰ってきても、いつものようににこにこしながら飛んでゆくようなことはありませんでした。ご飯もほとんど食べませんでした。さすがに母親のおつたは心配して、

「あんた、これじゃあけみがどうかなってしまいますよ。あけみの言う通りにしてやってくださいな。」

と言いましたが、庄屋様は

「なあに、明日になればあきらめるさ。」

と言ったきりで、相手にしませんでした。

 ところが、次の日になっても、その次の日になっても、あけみはふさぎ込んだままです。三日たっても、五日たっても、そのままです。とうとう七日が過ぎ、十日目になりましたが、あけみのようすはいっこうに変わりません。ご飯もほとんど食べませんから、だんだんとやせてきて、みるみるうちに弱ってきました。もう、昔の面影は全然なく、あけみはやせ細って陰気な子供になてしまいました。

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