このふたり、尊い。ただひたすらに。(拝)

不器用な退役軍人の男、イヴァン。戦争で傷つき、家族や自身の身体の一部を失った彼は、鉄くず拾いをしている少女スノウと出会う。彼女もまた戦争によって家族、そして自分の尊厳を奪われた犠牲者のひとりだった。とある事件をきっかけにふたりは逃げ出すように、あるいは求めるようにして広い宇宙への旅に赴くことになる――。

SFってなんだか専門用語がたくさんだし時代設定も飲み込まなきゃいけないしちょっと敷居が高いな、なんて心配はありません。たしかにこの物語の舞台は、宇宙船で旅行することなど珍しくもなくなった未来の世界。しかしそのさじ加減が絶妙で、“良い感じに便利になった未来”という印象が強いです。読んで理解できなかった名称はありませんし、その仕組みがわからなければ結末の意味がわからない、なんて難解なSF知識も求められません。この物語が伝えたいのはきっと、もっと人間のこころに関することだからです。

彼らの旅には目的地があります。つまりそれは、旅の終わりが決まっているということ。トラブルだらけの旅を進めるうちに、歳の差も十分にある男女は互いに惹かれあっていきます。不器用な軍人おっさんと強気で気高い美少女。この組み合わせが好み一直線なのが拝見したきっかけだったことをここに告白しますが、とにかくこのふたりのコンビが最高なのです。そして幾多の危険を乗り越えるうちにコンビはバディに、そして『Dearest=最愛の人』になるまでに愛が深まっていきます。きっと途中から彼らの旅が終わりに近づくのが惜しくなり、「ちょっとストップ!もっとゆっくり!!」と言いたくなるはずです(でも終わりが迫るからこそまたいいのです……!)

不自然な記憶の欠落により情緒が安定しないイヴァンと、元娼婦であるがゆえに“好きな人”との向き合い方に悩むスノウ。さらに訪れる惑星ではさまざまな戦争の傷跡(戦地跡ではなく、ひとの心の傷や闇部分です)を目にすることになり、生き残った理由についても考えさせられることになります。一見ムカッとする人物も出てきますが、彼らもみな戦争の犠牲者なのだと思うとやりきれなくて切なく、またそこが非常に読み応えがある部分であったりもします。ただの恋愛物語では終わらせない、もっと骨太な人間ドラマは必見。

お互いの美しさも汚さも少しずつ知り、じりじりと距離を詰めていくようなじっくりとした大人の恋愛をお求めの方にぜひおすすめの一作。これからの冬にぴったりの、胸が温かくなる物語です。

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