第4話 徹子の日常
★★★(佛野徹子)
PIPIPIPIPIPI………
……久々に、目覚ましで飛び起きた。
いつもは目覚ましがかかる10分前に自然に目が覚めるのに。
とりあえず寝ぼけ眼で目覚ましを止めて。
……う~ん。ちょっと眠い。
昨日、仕事から帰ってきたら2時過ぎてたんだよなぁ。
それで、6時起きはツライ。
4時間未満しか寝れてないじゃん。
いや、まだ若いから居眠りはしないけどさ。
そういう訓練も受けてるし。
でもツライものはツライんだ。
お肌の具合も気になるしね。
……肌荒れたら、他の女子に陰口叩かれそうでウザいなぁ……。
アタシ、学校中のほぼ全ての女子に嫌われてるからね。
自慢じゃ無いけど。(ホントに自慢にならない)
「佛野さんが肌荒れしてるよ」
「どーせ男遊びが過ぎたんだよ!いい気味!」
どうせそんなこと言われる。
嫌われ者のツライところだよ。
気にして無いけど。
さて。
アタシは布団を跳ね除けてベッドから降りると、着ていた赤いパジャマを脱いでパンイチになり、身支度をする。
アタシは寝るときはブラは外すんで、まぁそのあたりから。
……最近またブラがキツくなってきたような気がするから、買い替えないといけないかなぁ。
これ以上大きくなると仕事に差し支える気もするんだけど。
今でも結構邪魔なのに。
アタシは学校指定の制服・緑色のブレザーに着替えて、居間の方に出て行った。
……仕事で着ているセーラー服は仕事着で、一応防弾性能をもった特注品。
ウチのセルのセルリーダー「先生」が、アタシらを気に入ってるせいで、そういうモンを用意して、着用を強要してくる。
セルリーダー的には着せ替え遊びしてんじゃないのかなと。
相方の文人との意見の一致。
寝室から出て、居間。
居間には誰も居ない。
当たり前だけど。
アタシ、1人暮らしだし。
世間には「父子家庭で、父親が単身赴任してて、アタシが一人留守を守ってる」って設定で話してるけど。
それは嘘。
本当はアタシの父親はどこか知らないところで、多分アタシという娘なんて居なかったという風に記憶処理を受けて、1人で暮らしているはずだ。
まあ、後妻さん迎えてよろしくやってるかもしれないけどね。もしそうだったらアタシは嬉しいな。
アタシをヒリ出した腐った牝豚のことなんて忘れて、幸せになってて欲しいよ。
今度は結婚で失敗しないでね。
……おっと。
そんな無意味な感傷に浸ってる時間は、無いか。
朝は激戦だもんね。
とりあえず、まとめ炊きしてパック分けしてたゴハンをレンジに入れて、温めをセットし。
大鍋に作り置きしておいたおでんを火にかける。
そして、その間に洗面と歯磨きをしに洗面所に行った。
顔を洗った後、歯磨きをしながら自分の顔を鏡で見る。
……あーあ。
大嫌いな牝豚にホントどんどんそっくりになってる。
嫌悪感半端ない。
とはいえ、整形はしたくないし。
不要にメスを身体に入れたく無いのは当たり前だし、弄ったせいで後で、年取った後に変なことになるのもねぇ。
鼻が曲がったとか。顎が割れたとか。
……とはいえ、晩年までアタシが生きてられるかわかんないんだけどね。
どうせ、野垂れ死にだろうなぁ、って覚悟してる。
こんな生き方してて長生きなんて出来ないよ。
ぐわーし、ぐわーし、ぶくぶく、ぺっ
歯磨きが終わったので、居間に戻ってレンチンが終わったゴハンと、温めたおでんで朝ごはん。
そこにヨーグルトとアーモンドも出し、朝食を終える。
……ホントは手をかけたいけど、朝は時間無いからね。
どうしても作り置きになっちゃうよ。
まぁ、アタシは料理は得意だから、マズくはないんだけどさ。
あまりゆっくりも食べてられない。
遅刻するわけにもいかないし。
さっさと食べて、後片付け。
流しの桶に食器を浸けて、お弁当と鞄を持って登校準備。
玄関で革靴を履き、姿見で最終チェック。
みっともないところは、特になし。
よし。行こっか。
外に出ると、エレベータからお腹の大きい女性が出てくるところに鉢合わせた。
隣に住んでる女の人の、山本香澄さんだった。
長い髪で、アーモンド形の目が魅力的。
紺色のマタニティウェア姿だ。
「おはようございます!」
「あらおはよう徹子ちゃん」
香澄さんは、新聞を取りにエントランスの郵便受けにまで出向いた帰りのようだった。
香澄さんは現在妊娠中。
お腹の中の子供は、亡くなった旦那さんの子供。
そうなってしまった理由は、酷いもの。
……最低のクズに目をつけられ、勝手に惚れられたんだよね。既婚者なのに。香澄さん。
で、そいつは「彼女の家族を奪って孤独な未亡人にすれば自分の妻になるはずだ」って考えて。
そんなろくでもないそいつの身勝手な妄想のせいで、香澄さんは旦那さんと、その間に出来た最初の子供を殺された。
そして絶望の淵に落とされたんだけど。
運命かもしれないけど、香澄さんはその真実を偶然知ってしまい。
香澄さんは、老後の資金と子供の教育費として貯めていた貯金をアタシたちに差し出し、復讐を依頼。
そしてそいつをアタシらは念入りに地獄に送ってやったんだけど。
仕事が終わった後、香澄さん、生きてても辛いし、しょうがないからと自分も死のうとしてて。
でも、旦那さんの子供を身籠ってることに気づいて、止めてくれたみたい。
だからアタシは、無事に生まれて欲しいって思ってるんだ。
香澄さんは母親の理想だったからね。
……だから、ホントはダメなんだけど、こっそりお金を援助しちゃった。
だって、お金が無いせいで香澄さんが変わってしまうのは嫌だったから。
全額返金するってカタチで援助した。
そのお金、文人と折半して出したんだよね。
相方には感謝しか無かったね。あのときは。
アタシが泣き言を言うから仕方なく、って言ってたけど。ホント、ありがとうだよ。
……昨日の仕事もさ。
あのクソヤクザども、妊婦を無理矢理売春婦に仕立て上げるときに、出産を待つなんてせずに「堕胎させる」なんて真似をしてたからね。
絶対に許せなかった。
香澄さんのことがあったから、余計に。
あいつらの悲鳴は心地よかったよ。お金貰えてあんなゴミどもを八つ裂きにできるなんて、ホントありがたいね。
本当ならこっちがお金を払いたいぐらいだったよ。
今は、残りの罪を閻魔様に裁いてもらってる頃かな?多分、地獄でも責任の押し付け合いで喚いてるんだろうなぁ……。
笑える。
「これから学校?」
香澄さんは笑顔。
だいぶ、前の笑顔に近づいてきた気がするけど、多分元には戻らないんだろうな。
アタシらがやったことは、マイナスをゼロに近づける程度のことで、癒すことなんて出来ないんだよね。
悔しいけど。
「はい!香澄さんは家ですか?」
今、産休とって仕事休んでるらしいからね。
大事にして欲しいよ。
「いや、今日は病院かな?」
あ、検診なんだ。
「気をつけてくださいね!」
言い残し、アタシは登校のため香澄さんと別れた。
これは、本心。
H高校。公立の進学校だ。
アタシはここの2年生。C組。
時間はわりと余裕をもって校門を潜った。
校内に入ると、周囲から視線が飛んでくるのを感じる。
あまりいい感じの視線じゃない。
嫌悪感だとか、欲情だとか、そんな感じ。
親愛だとか、恋情だとかはほとんど無いね。
まぁ、そういう生き方してるからしょうがないんだけど。
アタシ、真面目で良い人がモテないのが気に入らなくて。
そういう人ばかり狙って、デートに誘い、場合によっては身体まで許している。
そんなことを頻繁にやってるから、女子の評判は最悪。
「クソビッチ」「尻軽」「男好き」って悪口言われ放題。
別にアタシ、セックスが好きなわけじゃないんだけど。
単に良い人が女性経験できないのが腹立つだけ。
文句あるならあんたらがしなよ、って言ってやったらどんな顔するだろう?
まぁ、言わないけど。何も変わらないだろうし。
それに別に気にもしてないしね。
勝手に騒いでろっての。
別にお前らに媚びる必要なんて無いんだから。
「オハヨーゴザイマース」
一応、挨拶をしつつ、C組の教室に入る。
当然返答はほぼゼロ。
女子からは完全にゼロ。
男子で、ちょっとお調子者の子が返してくるくらい。
ここ、基本的に進学校だからさ。
男子も、慎重な子が多くて。
髪の毛を金髪に染めているような女、いくら容姿良くても警戒する子、多いんだ。
なんかとんでもなく悪い女なんじゃないか?って。
まぁ、それを狙って染めたんだけどね。
アタシ、恋人作る気無いからさ。
容姿だけでマジ惚れされて、告白されると困るわけ。
染める前は結構頻繁にされてたんだけど、染めてからはガクンと件数が減った。
金髪効果、覿面だ。
まぁ、そのせいで、不用意に外歩くと悪い奴ホイホイになっちゃうんで。
ウィッグが欠かせないんだけどね。
アタシは挨拶無視の件は全く気にせず、自分の席についた。
脚なんかは組まない。
前にやって「男誘ってる!いやらしい!」って陰口叩かれてカチンと来たから。
それ以来やってない。ちょこんと、おとなしく座るようにしてる。
なんか窮屈だけどさ、まぁしょうがないかな。
そのまま、授業の開始を待った。
授業中。
一時間目は化学の授業。
先生が、黒板に化学式と物性、反応式を書いてる。
板書を漏らさず書き写す。
アタシさ、馬鹿だと思われてんだよね。
まぁ、この髪の毛で、嫌いでなければ誰とでも寝る女が賢いわけないって思われるのはしょうがないとは思うんだけど。
一応、成績は中の上くらいをキープ。
だからまぁ、馬鹿のカテゴリーに入れられるゾーンには居ない……と思う。
でも、見た目で馬鹿扱い。
で、そんななのに。
授業で当てられたら、普通に答えるんで「佛野は教師と肉体関係を結び、勉強で八百長をしている」という噂が立った。
どんなんよ。
その発想力を勉強とか、男の子の選定眼に活かしなさいっての。
まぁ、そのせいで。
アタシ、授業で当てられることはほぼ無い。
男の先生には、だけど。
先生方も「生徒と不適切な関係を結んでいる」なんて噂、立てられたくないしね。
それに関しては、やや申し訳ない。
先生方は関係ないもんね。完全にとばっちり。
なので、今日のこの授業もアタシはただ聞くだけで、回答する機会は全くなかった。
一心不乱にノートを取るだけ。
楽だけど、先生には心労かもね。
何かアタシに気遣いしたら、それで関係疑われるとかさ。
それに関しては、スミマセン。苦労かけてます。
「このように、硫黄の化合物は毒性を持つ場合が多い。硫黄が来たら毒性を疑う。ここ大事だからな?覚えておけよ?」
先生の話を聞きながら。
ふむふむ。
これは後日、理由を調べて書き加えないとね。
そうすることにより、アタシの理解が深まるからね。
ノートをとりつつ、アタシは硫黄という字に赤線を引いた。
で、午前中の授業終わって、昼休み。
アタシが昼食を終え、弁当箱を片付けていると。
A組の千田さんがやってきた。
文人のクラスの人で、この学校で唯一アタシの友人やってくれてる人。
まぁ、色々あって、友人になった。
友人もどきは、1年にひとり、おかしい子と、あとひとり、別の意味でおかしい子がいる。
まともな人で友人なのは、千田さんのみ。
文人とは親友だけど、彼はまともじゃないからね。アタシもだけどさ。
……話を戻して。
おお、千田さん!
来てくれるのは嬉しいけど、学校で会うのはまずくない?
……メールでやった方が無難だと思うんだけどなぁ。
用事あるなら。
何故って、嫌われ者のアタシと友人やってるって他の人に知られたら、千田さんも巻き込まれるじゃん。
それ、アタシ辛いんだけど?
千田さんそういうの気にし無さそうではあるけどさ。そんな可能性くらい承知の上で付き合ってくれてるんだろうし。
でもただ、今現在、そういう状態で無いのは確かなわけで。
それをわざわざ、積極的に壊さなくても……と思っていたら。
別の人のところに行った。
……ですよねー。
夢、見過ぎてしまいました。
反省します。
千田さんが用事あったのは、窓際の席に座ってる女の子だった。
名前は確か、
図書委員してて、よく放課後に学校の図書室の司書役してるみたい。
文人ほどじゃないけど、彼女も読書が好きらしい。
よく休み時間に本を読んでるの、見てるし。
長い髪を三つ編みでまとめて、四角い感じの眼鏡を掛けた、知的な感じの女の子。
ほっぺたにちょっとそばかすがあったけど、可愛い感じ。
他の女子は大体アタシの悪口言いまくりなのに、この子はそういうこと言わない子だったから、アタシはわりと好感は持ってたかな。
……まぁ、向こうは多分アタシのことを軽蔑してるんだろうけど。
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