第3話 仕置(3)
★★★(竜山寅吉)
キマイラが……負けた……?
バカな! アイツ、あの世界的犯罪組織ギルドがこのワシに売り込んできた男じゃぞ!?
実力は折り紙付きのはずではなかったのか!?
実際、組の腕自慢数人との対戦をさせてみたら、難なく全員倒しよったのに!?
それで、ワシはアイツを信頼しとったのだ!
こいつは強い。絶対的に頼りになる、と。
それなのに、あんなにあっさりと……!
胸をあのオスガキに刺されて、仰向けに倒れて動かなくなったキマイラを、ワシは憎悪を込めて睨みつけた。
ふざけるな!! 今まで払った給金を返せ!!
よりにもよってこんな質の悪い相手の時に負けおって!!
許さぬ!! 許さぬ!! 許さぬ!!
大事な時に役に立たなかったカスを憎悪して、ワシは憤った。
憤っていると。
「あやと~!! 外終わったよ~!!」
場違いな、女の声がした。
若い。
ワシは顔を上げた。
セーラー服を着た、オスガキと同じくらいの年齢の女がこの大広間に入って来た。
その女は。
やたらと見た目がいい。
乳がデカく、尻も大きく。
腰が細い。
顔も申し分ない。
……ワシの相手を務めさせた女にも、ここまでのはそうそう居なかった。
ふと、そう思った。
女は血に塗れていたが、やたら明るく笑っていて。
後ろに、誰か控えていた。
……それが誰なのか分かった瞬間。
ワシの頭は怒りで沸騰した。
……顔は知らん。
知らんが、間違いない。
……ウチの組の下っ端じゃ!!
胸にウチの組のバッヂをつけておる!!
2名! 生首、おそらく他の組員の生首を持ちながら、女に媚びへつらうような笑みを浮かべて控えておる!!
あいつら、裏切ってあのオスガキどもについたのか!?
恥を知れ!!!
★★★(佛野徹子)
おーおーおー。
あのおじーさんが竜征会会長さんかな?
茹蛸みたいになって怒ってるね。
この2名の優勝者の人、自分の組の三下さんだって気づいたのかな?
面白ーい。
会長さんの神経を逆なでするために、わざとキャピってアタシは文人に報告を続ける。
「ここの2名を残して、外の兵隊全滅させたから、この屋敷で生き残ってるの、もうここの人たちだけー」
「ご苦労さん。助かった」
握りこぶしを上に上げ、くるくる回りながら報告。
途中、拳銃で狙ってる奴がいたので、高速移動して首を刎ねに行った。
邪魔すんな。
レーザー手刀でそいつの首を刎ねたら元の位置に戻って。
またくるくる回りだすアタシ。
向こうの方で、首なし死体が噴水みたいに血しぶきをあげ、倒れ伏す。
倒れる前に行って帰ってくることができるアタシだからこそ出来る芸当。
生き残りたち、それで黙る。
わかったかなー? 邪魔したら殺されるってー?
「さて」
落ち着いてきたので。
文人、アタシが引き連れてきた2名を見て、口を開いた。
「まず、自己紹介しろ」
言われた2名は、ポカンとしてて。
いきなりだったから、反応できなかったのかな?
ここは言ってあげるべきだよね?
「……アタシの相方様が言ってるんだけど?」
強い口調で言ってあげる。
そこで気づいたらしく。
ピン、と背筋を伸ばして自己紹介。
「五味山三枝太! 24才です!」
「組に入って何年?」
「3年です!」
自己紹介した優勝者その1。
五味山三枝太は、頭を青赤黄三色に染めた、黒いシャツと黒いパンツを身に着けた男だった。
体格はフツー。太ってもいないし痩せてもいない。
「分かった。次」
「藤堂一夫! 23才です!」
「何年?」
「3か月です!!」
優勝者その2。
顔はわりと整ってるんだけど、全体的な雰囲気で「頭悪そう」って思える。
見てて、不快なタイプ。
アタシ、こういう男嫌いかな。
……しかし。
へぇ。
運が良かったのか悪かったのか。
組に入って3か月でここに来れたなんて。
……まぁ、悪かった、にカウントするべきなのかな?
良く見たら前歯無いね。この藤堂なんちゃらって優勝者。
多分バトルロワイヤルで折れたんじゃ無いんだろうけど。
血が出て無いもん。
誰がこんな前歯無い男を、一応組で重要なイベントの警護兵に抜擢したんだろう?
相当汚い手を使って、無理筋で滑り込んだんじゃない?
バレたら問題になって、選んだやつ、後で酷い目に遭うんじゃ……って、別にいいのか。
この組、今日で終わるんだし。
「分かった。では五味山と藤堂。お前らには僕の助手を務めてもらう」
「「分かりました!!」」
……うん、清々しいほどクズだね。
ハモって返答だよ。
何の助手をさせられるのか、そこは気にならないんだ?
会長さんを見ると、怒り方半端ない。
ちょっと、ウケるんですけど!
そして。
まず文人は、クズコンビに命じて、拳銃やら刀やらを集めさせた。
途中、邪魔しようとした奴も出たんだけど、そういうのはアタシが即刻排除。
邪魔したら首が無くなるとあって、すぐに誰も動かなくなった。
集めさせた拳銃やら刀やらを使い、文人は手錠やら工作ハサミ、金属製耳かきなど様々な道具を錬成。
クズコンビに命じて、生き残りに手錠を後ろ手に掛けさせた。
会長さんには掛けなかったんだけど、上役連中、クズコンビに手錠を掛けられるとき、面白い表情をしてた。
後で覚えてろよ、的な。
後なんて無いのに、何凄んでんの?
笑える。
「よし」
準備完了?
文人は、道具類をキッチリ並べ、準備が整ったのか。
ドカっとその場に腰を下ろして胡坐をかき。こう言った。
「竜征会会長の竜山寅吉に聞く」
顎の下を掻きながら。フツーに。
「アンタの舎弟、どいつから殺す?」
しれっと。
すごくエグいことを聞いたんだ。
さっすが相方。
ドS。
そして、話はまだ終わらないんだ。
「選べないってなら、アンタから殺すけど?」
そう言って、今度は舎弟の皆さんに向き直り
「舎弟の皆さんに言っておく」
しれっと
「もし会長サンが見上げた親分魂を発揮して『俺から殺せ』と言ったとして」
「それに関して黙ってれば、異議なしと見做すから」
「会長を救うのは簡単。『会長を殺るなら、私が!!』って言えばいいだけ」
「名乗り出た忠誠心高い舎弟を、先に身代わりに殺す」
以上。
ニコリともしないで、淡々と。
何でも無いように、そんなエグいことを言い終える。
うん。さっすが文人。
アタシの相方。
誇らしいよ!!
殺す舎弟を選べば、会長さんはもう親分としては終わり。
自分の命惜しさに手下見捨てる親分なんてありえないし。
かといって、選ばなければ自分が死ぬ。
そして舎弟は、そんな親分さんを助けることは簡単にできるけど、それは命と引き換え。
誰も名乗り出なければ、舎弟たちは「親分の命より自分の命が惜しい。忠誠心なんてありません」と公言することになる。
一応、全員身代わりに名乗りをあげれば、最低限の尊厳は守れるけどさぁ。
そんな高い忠誠心あるなら、ここまで来るまでに全滅してるよね?
竜征会の皆さん?
さて、どうなるんだろー?
アタシの胸のキュンキュンが止まらないよ!
「では1分与える。会長サン、決断を」
パン、と文人は手を叩いた。
……
………
沈黙。
「……選べないか?」
そろそろ、というときになって、文人。
最終確認ってところかな?
結局。
会長さんはダンマリ。
答えは聞けなかった。
まぁ、順当なリアクション。
……というわけで。
最初に殺すのは、竜征会会長・竜山寅吉さんに大決定!
文人、その辺に転がってるヤーさんの死体を拾ってきて、椅子型の、拷問用の拘束具を錬成していく。
まぁ、呼吸するより基本みたいなもんだよね。
拷問用の拘束具を、身内の死骸で錬成するってのは。
「よし」
すぐに、文人特製の、拷問用拘束具の完成。
仕事が早いね!
「助手2名、会長を裸に剥いてこれに座らせろ」
手際良いのに、何も楽しそうでは無い。
ホントのところ、どうなんだろうね?
彼にとって拷問ってのは。
「「任せてください!」」
クズコンビが会長にすっ飛んでいく。
昔ならどうか知らないけどさ。
もう60近い老人である彼が、20代の若者2人に逆らえるはずもなく。
暴れる会長に腹パン入れて、着物を無理矢理脱がせて、引っ立ててくる。
会長さん、痩せっぽっちじゃなかったけど。
下っ腹に脂肪ついてて、金持ってる絶倫の悪い系クソジジイって感じだ。
チンチンはそこそこデカイ。真珠も入ってた。
項垂れてたけどね。当たり前か。
「拘束しろ」
「「分かりました!!」」
いい返事だね。
クズコンビ。
貴様ら!! 恥を知れ!! ワシに触るな!! こんなことをしてどうなるか!!
なんか喚いてる。無意味な戯言を。
これから死ぬ人に、何が出来るの?
そうこうしてるうちに、拘束完了。
会長サン、もうピクリとも動けない。
素人でも簡単に拘束できるように改良したんだ……。
……前に、アタシが手伝おうとして上手く行かなかった反省を、ちゃんと拘束具に活かしてるんだね……。
クズコンビが滞りなく拘束を完了させたのを見て、アタシは彼の気遣いを感じて嬉しかった。
「さて。これからアンタを殺す。拷問して殺す。楽に死ねるとは思わないでくれ」
文人、会長サンの前に立ち、そう言うと。
「……誰に、いくらで雇われた?」
ここにきて、ようやく会長サンから定番の質問が来た。
もうちょっと早めに聞いて欲しかったけどなー。
「アンタさー」
代わりにアタシが答えてあげる。
ここはアタシが言った方が良いと思ったから。
文人はこちらをちらりと見て来たけど、目配せで了解を取った。
会長サン、こっちを見て来る。
怒り狂った目で。
こわーい。
嘘だけど。
「……ホストに入れあげたり、分不相応にブランド品買ったり、パチンコに狂ったりして借金作って身体売る羽目になった女をどうこうしているのまでは良かったのに」
そこで、クルリ、と一回転して。
続ける。
「そうじゃない、フツーの女にまでウリをさせようとしたじゃん?」
……このクソジジイの組・竜征会は、売春業もやってるわけなんだけど。
そこで働く女に、フツーの女を引き込もうとしたんだよね。
理由は「客の要望」だったかな?
自業自得で堕ちてくるようなバカ女を抱きたくない! って客が言い出して、それに応えたらしい。
で、どうしたかというと。
普通に奥さんしてて幸せにしている女の人とか。
真面目に学生している女の子に狙いを定めて。
女の旦那さんや父親に「痴漢冤罪をひっ被せたり」
女に「窃盗容疑をひっ被せたり」
女を「麻薬の運び屋に仕立て上げたり」
それで脅して、ヤク中にして、無理矢理売春婦に仕立て上げた。
妊娠中の女だった場合は、堕胎させたこともあったらしい。
で。
その女たちの旦那さん、家族、恋人からの「竜征会をこの世から消してくれ」「全員地獄に堕としてくれ」って依頼が複数舞い込んで。
総額億越えの頼み料。
一人頭2000万円の大仕事。
やりがいあるわけですよ。
「その女たちの家族や恋人が、アンタら皆殺しにして頂戴って言ったの。頼み料一人2000万円。高いでしょ?」
「そんな理由で……!!」
会長サン、怒りに震えてる。
まぁ、反省なんてしないよね。分かってるよ。
「女の4~5人を売女に仕立てたくらいで、ワシの竜征会を潰すだと!? ふざけるな!!」
アタシたちに食って掛かるように、唾を飛ばしながら叫ぶ。
煩いなぁ。
「……僕らに言われてもな。仕事してるだけだし」
文人、全く取り合わず、クズコンビに工作用ハサミと金属製耳かきを投げ渡した。
そして言う。
「これで会長サンの耳を切って、爪を剥ぐんだ」
「「わかりました!!」」
うーん。気持ちいいね。ここまでクズだと。
クズコンビは、本来は人体破壊に使うために作られて無いはずのそれら道具で。
工作用ハサミで耳を切り落とそうとし。
金属製の耳かきを爪の間にねじ込んで、てこの原理で爪を剥ごうとする。
「ぎゃあああああああああ!! やめええええええ!!!」
会長サンが悲鳴をあげる。
切れが悪いし、やりづらいだろうから相当痛いだろうねぇ。
まぁ、ちっとも可哀想だとは思わないけど。
ゾクゾクしちゃう。クズの悲鳴。
「スミマセン工作用ハサミだとキレが悪くて上手く行かないんですが」
「それを狙ってるんだ。あと、鼻も切るように」
「わかりました~」
「あぎゃああああああああ!!」
おお。容赦ない。
どっかの目玉のおまわりさんみたいに、境目が無くなって、会長サンの鼻の穴が、もうすぐひとつになっちゃうよ!
クズコンビの片割れが、会長サンの鼻の穴にハサミの刃を突っ込んで、一生懸命穴を繋げようとしている!
「おいお前らああああ!!!」
「何故ワシを救わないいいいい!!」
「それでもお前らワシの舎弟かああああああ!?」
涙を流しながら。
会長サンは喚く。
舎弟さんたちは目を背ける。何も答えない。
……うーむ。
どうしよう。
踊りたくなってきちゃった。
拷問ダンス。
マトが拷問されてるすぐ横で、クルクルバレリーナみたいに、舞うの。
これはさすがに趣味が悪いからやめい、って相方に止められてるんだけどね。
それぐらい、オイシイ状況。
そしてここで。
文人の爆弾発言があった。
「……別に、今でも、どいつから殺すかは受け付けるぞ?」
この状態で、こんなことを言われちゃあね。
予想出来るよね?
「こいつら全員殺していい!!」
即座に、会長サンの叫び声。
だよね~。
「分かった」
文人は、淡々としていた。
★★★(下村文人)
そこからはまぁ、なかなかの見ものだったんじゃないかな。
会長の許しを得たので、舎弟たちを一人一人会長の前に引っ立てて。
江戸時代の罪人よろしく、打ち首にしていったんだが。
首を打つ前に会長と問答させた。
で、まあ。
当然だけど、罵り合い。
「お前のせいだ!! 俺は反対したんだ!!」
「煩い先に死ね!」
「こんなクズについてきたのが間違いだった!!」
「黙れ恥を知れ!!」
「呪ってやる!! 竜山ぁ!!」
「この三下ぁ!!」
まぁ、聞くに堪えない。
徹子はだいぶ楽しそうだったが。
この辺のやりとりは、ボイスレコーダーを錬成してしっかり録音しておいた。
あとでネットに流して、死後も笑いものにしてやることにする。
顧客の満足度はなるべく上げるのが僕のやり方だ。
高い金を取るわけだし。それがプロってもんだろう。
そして舎弟が掃けた後。
助手も不要になったんで。
「ご苦労」
「「いえいえ! お安い御用ですよ!」」
ニヤケ面で、助かると思い込んでる二人の首を、刎ねた。
僕らの顔と名前知られてるしな。
助けるわけ、あるわけない。
後に残るのは拘束された会長と、僕ら二人。
そして死体の山。
「……というわけだ」
刀の血振るいをし、僕は会長サンに向き直る。
「アンタがその年まで育てて来たものは、全部、木っ端みじんに、跡形もなく、吹っ飛んだ」
「アンタの人生には、何も残らない」
「死んだ後も、趣味の悪い連中に、物笑いの種にされるだけだ」
「誰もお前に一目を置くことは無いだろう」
「……感想は?」
会長は、項垂れていた。
全裸で拘束されて。
鼻と耳から血をだらだら流して。
爪を半分以上剝れて。
「……畜生……畜生……」
ブツブツ呟いている。
そこに徹子が、小首を傾げながら
「どうしたのかな~? オジーさん?」
徹子。
ホント、お前は……
ナイス。
会長サンに、火が付いた。
「……お前ら許さん!! 呪ってやる!! 祟り続けてやる!!」
お前の煽り芸すげえわ。
食い入るような呪いの視線。そんな会長サンの呪詛を、徹子は爆笑してみせる。
「……いうに事欠いて、呪う? 笑わせないでよ~」
目尻を抑えながら。
「アタシらね、その程度の恨み言、浴びるほど聞いてんの」
「今更ひとつやふたつ増えたところで、大したこと無いかな」
「まぁ、どうせアタシらも地獄に堕ちると思うから、地獄で会ったらまた殺し合いましょうか。オジーさん」
そう言った徹子の顔は。
乙女の笑顔だったが。
……目だけが、愉悦に歪んでいた。
★★★(新聞記事&噂)
「竜征会会長宅で大量殺人」
広域暴力団「竜征会」会長宅から異臭がするという通報があり、〇〇県警が調べたところ、激しく損傷した同団体構成員の遺体が……
「ねぇ、知ってる? 竜征会ってヤクザの話」
「うん。こないだ主だった構成員が全員殺されて、潰れちゃったって暴力団の話でしょ?」
「なんでも、全員大広間で晒し首になってて、胴体の部分は何故か見つかって無いんだって」
「晒し首? 江戸時代じゃん!」
「そーそー。あとさ、もう消されちゃったらしいんだけど……殺されるときの音声データ、ネットに上がってたらしいよ? 相当見苦しくて、趣味悪いんだけど……笑えるんだって。極道? どこが? って感じで」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます