【短短編集】狂言、迷言、たまに戯言。

世界一短い小説

　世界一短い小説を書いてほしいと依頼された。

　世界一？　私は家に帰ってから、猫の頭を撫でながら考えた。

　世界一短い小説は、すでに存在していた。

　それは、アメリカの小説家、アーネスト・ヘミングウェイが作り出したものだ。

『For sale: baby shoes, never worn.』

　これだけだ。この6個の単語が小説だ。

　和訳すると、赤ん坊の靴、売ります。未使用。ということになる。

　私は頭を抱えた。6つの単語で構成された小説が、先駆者として私の前に立ちはだかっているのだから、それは悩む。悩みながら、皿洗いをし、洗濯ものを干し、煙草を吸った。けれど、思いつかない。

　数日悩んで、ある時閃いた。先人の知恵を借り、私はヘミングウェイ氏に脱帽した。

　軽やかに筆を走らせ、英語でたった一文を書いた。

　それは4つの単語で構成され、かのヘミングウェイ氏よりも2つ、単語が少ない。

　どうだ、と言わんばかりに靴を鳴らして出版社に赴（おもむ）いた。

　翌日、その小説は一躍有名となり、ニュースや新聞で報道された。

　それは、小説としては、扱われなかったが。

『I killed my wife.（私は妻を殺した）』

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【解説】

『For sale: baby shoes, never worn.』

　赤ん坊の靴が未使用で売られる。一体どういう背景がそこにはあるだろうか。少し考えれば分かってくれるだろう。