異世界召喚の注意

「——と、いう具合に日本の高校生たちをここに召喚させ、我がこう言うのだ。『よくぞ来られた。勇者たちよ。そなたらには我の国を救ってもらいたい』とな」国王は、玉座に座り、荘厳な口調で言った。


「了解いたしました。ですが王。いくつか質問をさせてもらってもよろしいでしょうか」頭を下げ、ゆったりとした口調で傍に仕える女が言った。


「なんだ?」王は上機嫌に答える。


「まず、異世界の高校生……たちは、38名の団体。——むこう側の世界では『クラス』と呼ばれる集団を、ここに召喚させる際、召喚するのは対象の人間、でしょうか?」


「あたりまえだ」


「残念ながら、それは無理です」きっぱりと女が言った。


「——なっ……!」王は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして言葉を詰まらせる。


「その場合、召喚の対象は人間という個体のみですから、衣服などの物体は適応されません。よって、もれなく全員丸裸となります。状況の混乱を招くだけです」


「……そこはなんとか、してくれ」王は頭を抱えて言った。


「はい、なんとかします。よって、周りの空間を丸ごと召喚させる、つまり教室という空間そのものをこちらに召喚するのが良いかと思います」女は淡々とした口調で言葉をつなげる。


「多少、強引だがそれでいい。彼らにとっても、思い出の品とか、あるだろうしな」鼻息を漏らして王が呟く。


「ですが、その場合、空間内の大気もまるごと召喚させてしまうので、この王の広場は空気の圧によって爆破します。ここは窓がありませんし」真顔で女が断言した。


「え……いや、それは……困るなぁ」王は顔をしかめる。


「はい、困ります。よって、ひらけた平地で召喚を行うこととしましょう。王城の裏側に、空き地がたんまりとありますから、そこにするのが良いかと思います」


「えぇ……」王はことごとく自分の理想が崩れていくのに、眉を顰め、声を漏らすことしかできなかった。


「さらに、召喚が成功した場合は、速やかに対象の高校生を一時的に安全な場所へ誘導、その間に状況の説明、国内情勢についてもそうでしょう。そして、全国民に召喚が成功したと伝えるために告知をしなければなりません。彼らの権利問題や、戸籍登録についても、なるべく迅速に取り掛かるべきです。あと言語が通用しない場合がありますので——」


「——ちょ、ちょっと待て!」王は女を制する。


「はい、待ちます」


「召喚は……また今後にしよう」



 ※ ※ ※ ※ ※


【解説】

 異世界召喚だっる。

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