カクヨムか否か

「ここは……?」僕は目が覚めると、知らない世界にいた。


 僕の隣にいた女も起きて、僕と同様の反応を見せた。


「——あなたは誰?」


「僕はアガフォンです」僕は名乗った。


「私はユッタ。ねえ、ここどこかしら……?」ユッタと名乗った彼女は、辺りを見渡して呟く。


「わかりません」僕は首を振って答える。


「ここ、見覚えがあるな……」ユッタは手を顎に触れて呟いた。


「え、本当ですか?」


「うん。でも判断材料がないわね」


「……?」判断材料、という言葉に僕はひっかかりを覚える。


「たぶん、ここはノベプラではないんだと思う。だって、三点リーダーが真ん中で表記されているから。まぁ、スマホからだったら変わらないけどね。たぶんここはパソコンから見える世界なんだと思う」と、思案するユッタ。


 僕にはその言葉の意味がまったく分からなかった。


 ——


「どういうことですか?」僕は思わず口をついていた。


 だが、その瞬間、ユッタは勢いよく立ち上がって僕を見た。


「ここは、なろうじゃない! ほら、明朝体だから、カクヨム!」


「いや、あの。えっと……」いよいよ本格的に訳が分からなくなり、僕は狼狽えることしかできない。


「今、あなたが私のセリフを地の文で引用したでしょ? その時、傍点がついていて、その傍点のサイズがなろうのとは違ったの。なろうはもっと細くてピリオドみたいな点なんだけど、カクヨムとかノベプラの場合は、中黒みたいな点なわけ」ユッタはぺらぺらと流暢に喋る。



「あの、よくわからないんですけど、ここから出られるんですか?」僕は尋ねる。それだけが分かれば十分だった。


「出る? 出るって?」ユッタは首を傾げる。


「ここからですよ。早く元の世界に戻りましょうよ」


「そうだね。えっと、カクヨムの場合は……っと」


「どうしたんですか?」


「私たち、この世界の登場人物だから、ここから出るのは無理だわ」



 ※ ※ ※ ※ ※


【解説】


 私もこの世界の登場人物です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る