異世界転生のつくりかた

「——と、いう具合に、異世界に転生したくてね。んでチートとかスキルとか、いろいろもらうわけよ」教室に座った青年が言った。


「エビですか?」隣に座る女が尋ねる。


「いや、伊勢海じゃなくて。異なる世界。異世界」青年は手を振る。


「転生、とは何ですか?」


「生まれ変わることだよ」


「では、死にたいのですか?」


「え、いや、まぁ……そう言われると……」青年は困ったような表情で言った。


「浄土真宗と同じでしょうか」


「いやそういうのとはちょっと違くてだなぁ……いや、ある意味宗教みたいなものなのかな……」青年は呟く。


「自殺ですと、やはり首つりでしょうか」女は数秒考えて、提案をした。


「いや、そうじゃない。なんと、異世界転生には、トラックにひき殺されたり、通り魔に刺されたり、あるいは電車にひき殺されたりしないといけないんだ」身内の武勇伝でも語るように自慢げに青年は言った。


「偶発的な事故ということでしょうか? でしたら、自殺願望とは異なりますね。偶発的な死を望むのですね」顎に手を触れ、考えてから女が言う。


「いや、だから——んまぁいいや。とにかくそうなの」


「すると?」女は続きを促す。


「異世界に転生されるの」


「それはありえません」きっぱりと女は言った。


「なんでさ」口を尖らせて青年は言った。


「異世界が存在していること自体は……認めます。それを否定する根拠は存在しませんから。ですが、その場所へ一瞬で移動できるのはおかしいです。さらに、死んだはずのあなたが、別の場所で生きることはありえないです。唯一現実的に近いものとしては、まず偶発的な事故によって、命を落とす——と、見せかけて、実はまだ生きていた。意識を失っている間に、治療され、その間に異世界らしき場所へ移動させられた、とみるのが妥当でしょうね。つまり、海外とかでしょうか。私は、日本で異世界に関連した地域や、地区を知りません。海外の広大な土地のどこかに、そのような街でもあるのでしょうね。あるいは、やはりエビかと」


「いや、エビだけはないだろ。どの可能性を探っても、エビはない。——ってか、できるんだって! 突然トラックに轢かれたり、通り魔に刺されたりすれば異世界にいけるんだよ!」


「では、試しますか?」女は筆箱からカッターを取って、カチカチカチ、と刃を出す。


「いいよ、結構だ」へらへらと笑って青年。


「では、参ります」


「ちょ——! そういう意味じゃ——!」青年が言いかけたころには、もう遅かった。


女は青年の喉をカッターで掻き切った。


そして、青年は死んだ。


が——




「よくぞ来られた。勇者よ。そなたには我の国を救ってもらいたい」


「まじか……」


こうして、私たちのもとに異世界転生ものは届く。


※ ※ ※ ※ ※


【解説】


こういうの、どんでん返しって言うんですっけ?

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