愛媛県の山手線は100メートルです。

 ガタン、ゴトン。


 規則的に揺れる音で、僕は目をさました。


 電車だ。目をこする。


 ぼんやりとした頭を動かして、窓の外を見た。


 のどかな森が左から右へ、流れていく。


 電気はついていない。


 僕はなにも持っていなかった。


 財布も、携帯もない。


 しかし、すぐそばに砂時計が落ちていた。


 列車はトンネルの中に入る。


 すぐに光は消滅した。


 重いため息をついて、僕は座り直す。


 ガタン、ゴトン。


 その周期的な演奏が、僕をまた眠りへ運ぶ。


 暗闇も相まって、まぶたが重い。


 ガタン、ゴトン。


 ————いけない。


 寝てはいけない。


 僕はすぐにそう思って、立ち上がった。



 ガタン、ゴトン。


 けれど、立ち上がったところで列車は暗闇に包まれたままでトンネルを抜ける気配はない。


 しばらく経っても、何も起こらなかった。



 ガタン、ゴトン。



 僕はまた座った。



 ガタン、ゴトン。






 ガタン、ゴトン。






 ガタン————ゴトン。





 ガタン——————ゴトン。







 ガタン——————————ゴトン。



 深い眠りに、落ちていく。



 ゆらゆらと、眠り眠る。





 ガタン、ゴトン。




 規則的に揺れる音によって、また目が覚める。


 ぼんやりとした頭で、窓の外を見る。


 のどかな森が永遠と左から右へ、流れていく。


 電気はついてない。


 僕は何も持っていなかった。


 砂時計がそばに落ちている。


 列車はトンネルに入る。



 車内が完全な暗闇に溶けてから、列車を連結している扉が開く音がした。



 そして、カツカツとハイヒールの音を鳴らしながら、それは僕のところに近づいてくる。


「あなたは何回目?」黒い暗闇は僕に尋ねた。声は若い女だった。


 僕はなんとも答えることができず、ただ黙る。


「私は、2回目。ここから、先に行って、さらに先に。それは滑稽かもしれないけどね」


 それだけ言うと、女はまたハイヒールをカツカツと鳴らして、むこう側へ行ってしまった。



 ——メートルです


 そこで、どこからともなく掠れた機械音声が耳に届いた。


 僕は耳を澄ます。


『愛媛山手線。13日行き、時計回りです。5回目のお出口様は、窓側です』



 ガタン、ゴトン。



 ガタン、ゴトン。

 


 僕はまた眠りについた。



 ガタン、ゴトン。



 目をさます。



 ガタン、ゴトン。



 窓の外を見た。



 ガタン、ゴトン。


 森が流れている。


 ガタン、ゴトン。


「あら、あなたは何回目? 私は1回目。黒猫の額には、5回分の夢が入っているわ。それはとても悲劇的ね」


 ガタン、ゴトン。



『愛媛県の山手線は100メートルです』



 ガタン、ゴトン。


 僕は眠る。


 ガタン、ゴトン。


 僕は起きる。


 ガタン、ゴトン。


 僕は眠る。


 ガタン、ゴトン。


 僕は起きる。



『愛媛県の山手線は100メートルです』




 砂時計が壊れると、僕は窓から飛び降りた。








 ※ ※ ※ ※ ※



【解説】

 なし

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