穴あき連続殺人事件

美術館に展示されている絵画を眺めるように警部補のグラハムはその部屋に入り込んだ。


「どうも」適当に片手を挙げて、その場にいる連中にグラハムは挨拶した。


 幾人かがグラハムの声に反応して首を向ける。部屋の中央には死んだ人間がいた。グラハムとは無縁と思われるパンクな服装をしている。ずいぶんと丈の短いスカートだった。


 その人間の——否、死体のそばに、紫のコートにサングラスをつけた男が立っている。


「ああ、グラハム警部補。お初にお目にかかります。探偵のヴァヴォックです」ヴァヴォックと名乗った男は、白い手袋でグラハムに握手を求めた。


「どうして、こんなところに探偵が?」


「事件が起こったんですからね。探偵がいるのは必然ですよ」


「必然なのは警察です。民間の企業は立ち入り禁止だ」厳しい口調でグラハムは低く唸る。


「いえいえ、それは一般的な事件でしたらね。ですがこれは事件も事件。事件性を帯びまくっているのですよ」ひょうきんな口調でヴァヴォックは語る。


「というと?」促さずにはいられない、ヴァヴォックはそんな顔をしていたので、グラハムは仕方なく乗ってやる。


「——もうこれで7人目です」先ほどの顔はどこへ消えたのか、ヴァヴォックの声は半音くらい下がった。


「……? 7人目? どういうことだ」


「ちょっと、こちらへ」ヴァヴォックはそう言って部屋の外に誘導した。


「なんだ。一体何がしたいんだ」廊下に寄りかかって、グラハムは言う。


「死体の状況については何か知っていますか?」


「いや、詳しくは。人が殺されているということしか聞かされていない」


「殺されたのはこのアパートに住む20代の女性です。友人とディスコに行く予定だったのですが、集合時間を過ぎても彼女は一向に現れず、不審に思った友人が帰りにこのアパートに寄ったところ、このような状況でして」


「どうしてアパートの鍵を開けられた」食い気味にグラハムが指摘した。


「鍵はかかっていなかったそうですよ」肩を竦めてヴァヴォック。


「ふうん……」


「首に絞められた跡がありました。ロープのようなものでね。近くに首を絞められるようなものはなく、また彼女の首には絞められた跡だけでなく、爪でひっかいた跡もありました」


「完璧な他殺、と言いたいのだな」


「話が早くて助かります」


「それで、7人目って、一体どういうことだ」


「被害者——キャラル・メイリーの足です」


「足?」グラハムは思わず眉をひそめてしまう。


「足の親指です。彼女の親指には……穴が開いていました」


「穴が……」ヴァヴォックの言葉を繰り返すグラハム。


「『穴あき連続殺人事件』と私は勝手に呼んでいるのですがね、これが10年前から起こっているんですよ。そして、そのどれも犯人が捕まっていない」ヴァヴォックは人差し指を立てて言う。


「今回が、7回目だと……」息をたっぷりと吐いてグラハムが聞いた。


「そうです。やはり、左足の親指です。直径1センチ程度の穴が開いています」親指で輪を作ってヴァヴォック。


「なんということだ……! そんな残酷なことを……一体どうして」グラハムは怒りをそのまま壁にぶつける。


「残酷かどうかは知りませんけれど……んまぁ、確かに不可解ではありますよね」唇を軽く噛んでヴァヴォックが言った。


「穴が開いているのを見て、ずいぶんと平然としていられるな」


「え? だって、ただ穴が開いているだけですからね」


「……なあ」


「はい」


「穴って、どこに開いているんだ?」


「靴下ですよ」




 ※ ※ ※ ※ ※



【解説】


 ネタ切れ。

 




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