第17話〜エリーゼさんの元弟子〜

 ふぁ〜〜〜〜〜〜あ、っと。


「良く寝れた、あああああああああ! 」

「ん〜〜、うるっさいシキ」

「どうしてカレンが俺の隣で寝てるんだ! 」

「どうしてって、昨日一緒に寝たでしょうが」


 あれ? そうだっけ?

 そういやそんな気が……

 ボッ!

 そうだったそうだった。

 昨日俺は無謀にもカレンに勝負を挑んで負けたんだった。

 それで俺はカレンにそっぽを向いて寝て、それでそのまま……

 やばい顔が暑くなってきた。


「なーに、今更そうだった! みたいな顔してるのよ。って今何時? 」


 カレンが今何時か聞いてきた為、俺は時計を見る。

 時計は10時を指していた。


「10時だ……」

「じゅ、10時! ? 」


 カレンは驚き過ぎて部屋から慌てて出ようとして、掛布団に足を絡ませて、そのままベットの上で転倒。

 そうなると、俺もその転倒に巻き込まれるわけで……

 ベットの上で、カレンが上に、俺が下に、の状態になってしまったわけで……

 えっと? カレンさん? 顔が近いです。あと、貧相では無いが豊かでも無いその双丘がですね、当たってるんですよ。

 やばい俺もムズムズしてきた。

 鎮まれ、俺の俺!


「朝からうるさいぞシキ! 全く、なーにして、ん、だ? 」


 状況を説明しよう。

 ベットの上には俺とカレン。

 俺が下敷きになってる状態だな。

 そして俺の部屋の扉が開けられ、アガツが登場。

 俺たちは動けない。まぁ、俺は動きたくても動けないんだけど。


「あー、その、なんだ? お前たちのことに深くは言わないが、その、朝からって言うのはだな」

「ち、違うんですアガツさん! これには深いわけが……

 ほらシキもなんとか言って! 」


 あー、やっぱりこうなるよね。いや、わかってたけどさ。

 カレンに言われた通り、なんとか言うしか無さそうだな。


「あー、えっと、アガツ。あのこれはカレンが布団に足を取られて、それでこんな形になっただけで、別に何もしてないからさ」

「『今は』だろ? これからどんなことしようとしてたんだ? 」

「べ、別に、何もしようとしてません! 」


 そう言って俺の上から離れ、床に立ち上がるカレン。

 ふぅ、ようやく楽になった。


「わ、私、ご飯作らなくちゃいけないんで! 」

「ご飯って、もう10時だぞ? それに俺が作っておいた」

「え? ありがとうございます、アガツさん」

「おう。だからこれからお楽しみに〜」


 そう言って俺の部屋の扉を閉めるアガツ。


「アガツさ〜〜〜〜〜〜ん! 」


 カレンは凄く焦っていたが、そんなカレンを見れるのは久しぶりだな、と思いちょっとラッキーって思ったのは秘密である。


 *


 その後俺とカレンは服を着替え朝食を食べる。

 その間アガツはずっとニヤニヤしっぱなし。

 カレンはそんなアガツを見て、「なんですか? 」とガンを飛ばす。

 いや、親代わりの人にガンを飛ばすって……

 しかしガンを飛ばされたアガツは何吹く風で、「いんや、別に? 」と返す。

 なんだよその返し方。あんたもう30過ぎてるだろ。子供みたいな表情やめろって。


「おい、シキ? なんか言ったか? 」


 なんも言ってねーよ。考えてただけだよ。

 全く。俺の周りにはエスパーしか居ないのか?

 おちおち悪口も考えられねぇ。

 そんなこと思いながら、パンを食べ、スープを飲み朝食を進めていた。


「それで? 今日のお2人さんの予定は? まさか乳くりあってるだけ、アガッ! 」


 あ〜あ、ついにカレンの怒りが頂点に達したらしく、コップをアガツに向かって投げた。

 それはアガツの顔へ直撃した。痛そー。

 いや、魔術使ってないからまだ頂点には達して無いか。


「なによ。あんたも投げられたいの? 」

「いえ、そんな、滅相もございません」


 怖いよ。ねぇ、怖いよ。カレンさん怖すぎるよ。もう俺泣きそうになったもん。

 まぁそれより、今日はどうすっかな〜。


「とりあえず、ギルドに行って、手に入れたアイテムを交換しに行こうかなって。

 あと、ダンジョンにも少し潜りたい。まぁもうこんな時間だけど」

「うん、私もそれで良いかな」

「いててて。ま、2人が良いならそれでいいんじゃないか? 」


 ということで、アイテム交換をしに、ギルドに到着しました。

 そして、ギルドの受付へ。


「あ、ジグニットさん」

「あ、シキ様にカレン様。今日は如何なさいましたか? 」

「はい。とりあえずアイテムを換金して欲しくて……」


 そう言って鞄いっぱいのアイテムと、ブルーファルコンのくちばしを見せる。


「えーっと、これ昨日1日で、ですか? 」

「はい、そうです」


 何の気なしに答える俺。

 それに対しジグニットさんは少し驚いていた。


「はぁ、凄い量ですね。あと、ブルーファルコンも倒されたのですか? 」

「はい。そうです」

「あ、はい。わかりました。それでは査定してきますので、少々お時間貰ってもよろしいでしょうか? 」

「はい、わかりました」


 そう言って裏へ行くジグニットさん。

 俺たち2人はというと、食事所の席へ座っていた。


『あはははははは! 』


 うん、ここはいつでも騒がしいな。

 それにしても、今日の朝はカレンがいじられてたこと以外は少し静かだったが、何故だろう。


「なぁ、カレン」

「ん? 何? 」

「あのさ、今日の朝少し静かじゃなかった? 」

「うーん、そうね言われてみれば」

「どうしてだと思う? 」

「あれじゃないの。エリーゼさんが居なかったから」

「そうか! エリーゼさんが居なかったから、静かだったんだ! 」

「だーれが居なかったからですって? 」


 俺は声の主に後ろから首を絞められる。

 苦しい苦しい苦しい! てか首を絞めるなら俺じゃなくて、始めに言ったカレンの方だろ?

 そして声の主はというと……


「エリーゼさん! 」

「おはよー、カレンちゃん」

「どうして、ここに? 」

「ん? 見回りー」


 それは、見回りじゃなくてサボりじゃ……

 てか、ギルドからの雇われなのにこんなとこでサボってて良いのかよ。


「シキ、なんか言った? 」


 そう言ってエリーゼさんは更に俺の首を絞める。

 いや、だからなんも言ってねーよ! 考えてただけだよ!


「ま、良いわ」


 そう言って、ようやく首絞めから解放される俺。

 はぁー、空気が美味い。


「あ! エリーゼさん! お久しぶりです! 」


 そう思っていると、俺の後ろから声が聞こえた。


『ん? 』


 俺たちは全員で、その声のする方へ。

 そこには短い銀髪で、青いローブを纏い、目鼻立ちがくっきりしたイケメンが居た。

 そしてエリーゼさんが反応する。


「おー、アルフじゃないか! 元気にしてたか? 」

「はい、おかげさまでなんとかやってます」

「そうかそうか。それは良かった! 」


 そう言って、そのアルフとか言うイケメンの背中を叩くエリーゼさん。ちょっとアルフさんは痛そうにしてる。

 はて? 一体誰だろう。

 そう思っていると、エリーゼさんがお互いを紹介する。


「シキ、カレン。こいつはアルフって言うんだ。一応青の魔術師であたしの元弟子みたいなもんだ。

 そんでこっちがシキとカレン。シキはアガツの、カレンはあたしの弟子だね」

「おー! 君たちがあのカレンちゃんとシキくんか。エリーゼさんから聞いてるよ。よろしくね」

『よろしくお願いします』


 そうアルフさんは俺とカレンは同時に言う。

 よろしくねって言う声もかっこいいな。イケメンオーラ全開だ。ちくしょう、顔がいいってだけでここまで対人関係で有利に働くのか。


「いやー、君たちは冒険者なのか?」


 そして話題の広げ方も上手い。イケメンって凄い(決してイケメンだからでは無い)。

 その問いかけにカレンが答える。


「はい。昨日始めたばかりなんです」

「そうなのよ。この子達昨日始めたばかりだからね、色々と教えてやってちょうだいよ」

「はぁ。まぁ、エリーゼさんの頼みとあれば断れませんね。……断ったら何されるかわかんないし……」


 ん? なんだ? 最後の方、ボソボソ言ってたから何言ったかわかんなかったぞ。


「何言ったのかな? アルフくん? 」

「い、いえ、何も。今日もエリーゼさんは美しいな、と」

「あらそう。ありがと」

「い、いえ……」


 あー、多分さっきの悪口だな。

 それを笑顔で黙らせるエリーゼさん流石ですね。いや、笑顔だから逆に怖いのか? 満面の笑顔だったしな。


「ま、まぁ、それより、2人とも」


 お、話題切り替えた。


「何か困ったことがあったら、ドラグスレイのアルフに聞いてよ。相談には乗るからね」

「だから、このお兄さんになんでも相談しな。なんでも答えてくれるらしいよ」

「はい、ありがとうございます」

「いや、なんでもって訳じゃ……」


 あー、この人エリーゼさんにとことん弱い人種だ。なんだかシンパシーを感じる。

 そしてエリーゼイズムを継いでいるカレンもすかさず感謝の言葉を言って逃げ道を無くす。この2人を同時に敵に回しちゃいけない。

 アルフさんを見ていて、改めて戒めとしておこうと思った俺だった。


『なんか言った? シキ』


 だからなんも言ってねーよ!

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