第13話〜対決!鳥やろう!〜

 ゴブリンの群れを倒した後も、俺たちはダンジョンの1層を彷徨っていた。

 その途中でゴブリンや、スライムというゼリーのような青い魔物、ブラックバットというコウモリの魔物などを倒していた。

 主にカレンが、が付くけれど。

 1対1が得意な俺に対して、1対複数の対決は多勢に無勢。

 無理な話である。

 その点カレンは複数体を一度に倒せる散弾系の魔術が使える。

 その為主にカレン『が』、魔物を倒していた。

 その甲斐あって、ゴブリンの斧や、スライムの体液、ブラックバットの牙などなどのアイテムがたくさん手に入ったのだが…


「はぁ……自信無くすわ……」

「何言ってんのよ。1体複数なのよ。シキはちょっと苦手でしょ? 」

「そりゃ、苦手だけどさ」

「だからシキは、1対2の近接戦になったら活躍してよ」

「近接戦でも、カレンは詠唱する魔術を使わなくて魔物を倒せるだろ?

 それってつまり、近寄られても何とかなるってことで、本当に俺の居る意味って……」

「もー! シキが来たいって言ったのに、シキの気持ちが萎えちゃったらどうするのよ!

 シキは気持ちで戦う剣士なのに! 」


 いや、それはわかってるけど。

 テンション上がれば、能力が上がるっていうのは、だんだん実感してきている。

 それにカレンは大魔術師と呼ばれているくらい強い魔術師ということも理解しているつもりだ。

 しかし、ここまでカレン無双だと……


「はぁ……」

「もう! シキがそんなだと私まで萎えちゃうじゃない。

 あ、そうだ。次の戦闘、私防御魔術しか使わないってのどう? 」

「良いのか? 」

「良いのよ。今日私たくさん戦ったし。

 シキも戦闘して、慣れないとね」

「ありがとう! 」

「あ、でも危ないと思ったら、私も攻撃魔術撃つからね」


 カレンには感謝しかない。

 それにちゃんとバックアップしてくれる。

 これ程心強いことは無い。


「ならさっさと次の魔物さん出てらっしゃい」

「いや、そんなに直ぐには出ないでしょ」

「わからないだろ? スライムかな? ゴブリンかな? ブラックバットかな? 」

「ふふ、はしゃいじゃって」


 この時はまだ、この1層の魔物は、スライムかゴブリンかブラックバットしか出ないと思っていた。

 ボスのシルバーウルフまでは強い魔物が出ないと。

 しかし、自然界に食物連鎖があるように、このダンジョンにも食物連鎖があったのだ。

 スライム<ゴブリン<ブラックバットという様な、ランク付け。

 しかし頂点が居ないのだ。

 絶対的な頂点が居ないのだ。

 そして俺たちはその頂点に出会ってしまった。


「な、なにあれ? 」

「え? 」


 大きな鳥だった。

 くちばしと頭は白く、翼は青く、目と腹は黒く、爪は黄色い。

 体長は1.5m程、翼を広げれば2mは優に超えるだろう。

 少し開けた場所に、それは居た。

 そしてそれはゴブリンを食べていた。

 そんな鳥を俺たちは物陰に隠れながら見ていた。


「な、なぁ、あれ無しにしない? なんかまずい気がする」

「う、うん。そうだね。やめとこ。

 初めはスライムとか、ゴブリンがいいんじゃないかな? 」

「そうだよな。じゃ、じゃあ戻るか」


 戻ろうとして、後ろに足を出した時だった。

『ザクッ! 』

 音を立ててしまった。


「もう! なにしてんの! これで気づかれ……た……ら……」


 その青い鳥はこちらを凝視していた。


「ギャアア! ! 」


 高い雄叫びを上げて、こちらを威嚇してくる。


「な、なぁ、これ。逃げられると思うか……? 」

「う、うーん、無理じゃないかな? 」

「ってことは、倒すしか無い、のか? 」

「そういうことになるね」

「ギャアア! ギャアア! 」


 俺たちが相談している間にも、鳥の魔物は俺たちを威嚇している。


「でもこれ、威嚇しているだけで、もしかしたら逃げられるかも? 」

「無理よ! 背中向けた瞬間あの爪で掴まれて終わりよ! 」

「やっぱり? 」

「ギャアアアアア! ! 」


 あ、翼広げて、更に威嚇してくる。

 仕方ない。


「なぁ、カレン。さっきの約束覚えてるか? 」

「え? うん。でも今はそんな時じゃ……」

「こいつ、1羽しか居ないんだ。それにゴブリンを食ってる。

 多分こいつが1層で1番強いやつだと思うんだ。

 シルバーウルフを除いてだと思うけど。

 だからこいつを倒したとしても、この近辺に他の魔物は居ないはずで、他の魔物が突然襲いかかってくる、ってことにはならないと思うんだ」

「だとしてもよ! 私も攻撃するわよ! 」

「俺が危なくなったら頼む。

 それまでは、俺を信じて、俺を守ってくれ」

「そ、そんなこと言われたら守るしかないじゃないの」

「ありがとう、カレン」


 そう言って、俺とカレンは鳥の魔物の前へ。


「なんて魔物か、わからないのか? 」

「ごめん。わからない」

「なら良い。どっちにしろ倒すだけだ」


 そう言いながら俺は『夏雨』を抜く。


「来いよ、鳥やろう」

「ギャアア! 」


 *


「くっ! 」


 くっそ! 鳥だから飛べるの忘れてた。

 飛ばれたら俺としては攻撃する手段がねぇ!

 それに速さが他の1層の魔物とは段違いだ。

 俺を狙って降りてきたところを狙おうにも、まず当たらねぇ。


「ねぇ、本当に私攻撃しなくていいの? 」

「いい。こいつは俺が倒す」

「もう」


 ごめんな、わがまま言って。

 でもカレンの魔術に頼ってたら、多分この先俺はカレンに依存することでしか、ダンジョンを攻略できないと思う。

 だから、初日だけど、初日だからこそ、こいつを倒す!


「ギャアア! 」


 降りてきた!

 この鳥は爪を使って俺を掴もうとする。

 それをすんでのところで躱していた。

 だから、癖がわかってきた。

 躱しながら切る!

 目の前から、鳥の足が迫ってくる!

 その足の爪を狙って……


「うわ! 」

「ちょっと大丈夫? 」

「あ、ああ。何とか」


 あの爪硬すぎだろ。

 斬れねー。

 くそ。考えろ。

 鳥は今空中に居る。

 鳥は降りてくる時に、俺を足で掴もうとしてくる。

 それを躱すだけなら簡単だ。

 それにさっき爪に当たったが、受け流すこともできた。

 爪が硬すぎて、刀の刃が通らなかっただけだが……

 爪が硬いなら、柔らかい所を狙うしか。

 でもどうやって?

 足の付け根を狙うか?

 そこなら斬れるか?

 しかしその後どうする?

 足を斬っただけで、奴の攻撃が終わるとも限らねぇ。

 腹で押し潰してくるか?

 くちばしで食いにくるか?

 正直わからないが、どっちにしろ、足掴みより、きつくなりそうだな。

 なら今のうちに倒したい。


「くっそ! なぁ、カレン! 」

「なに! 」

「カレンならあの鳥どう倒す? 」

「私なら、火矢を放つ」

「ああそうかよ! 」


 役に立たねぇ。

 それもそうだわな。

 自分の持っている力を、強い力を使って倒す。何も間違っちゃいない。

 俺だって魔術が使えたらそうしているはずだ。

 だが俺は魔術は使えない。

 なら俺の力は?


「わかった……」


 笑えば良いんだ。

 感情と言うのは、感情が先行することもあるが、身体の動作が先行して、感情になることもある。

 つまり表情だ。

 笑え!

 強い敵と戦えて嬉しいっな!

 本気を出せて嬉しいってな!

 カレンが俺1人で戦わせてくれてるって!

 何より、カレンが俺を信頼してくれてるって!

 カレンは俺を守ってくれてるってことが、どれだけ支えか!

 だから笑えるはずだ!


「は、はは、あははははは! 」

「え? シキどうしたの? 」

「ギャア? 」

「ははははははははは! 感謝するぜ! 鳥やろう! 俺は今最高の気分だ! 」

「あ、あの時と、同じだ……」


 最強の俺をイメージしろ!

 俺は強い!

 俺は絶対負けねぇ!

 さぁ、行くぜ!鳥やろう!

 テンション上がるだろ?

 俺は上がるぜ!

 俺の能力の再確認と、『夏雨』の試し斬りができるんだからな!

 俺はとりあえず距離を空ける。

 1歩で10m近くは進んでいるのではないか、というくらい速く進む。

 そして60mくらい空け、再び鳥に向かって走り出す。

 だいたい上空10mくらいに鳥は居る。

 鳥は不思議そうに俺を観察している。

 そして遂に鳥の真下まで来た。

 ここから、思いっきり上に、跳ぶ!

 10mを一気に駆け上がる!

 鳥は驚いて、一瞬硬直した。

 その一瞬がお前の敗因だ。

 後は『夏雨』、頼む!

 俺は鳥の右翼を斬る!


「ギャアア! 」


 鳥は右翼を斬られ、空中でバランスが保てなくなり、地面に落下していく。

 そして俺は空中で一瞬静止した後……

 重量に逆らうことができずに、真っ逆さまに地面へ落下。


「ぎゃあああああ! ! ! 」


 今度は俺が「ぎゃあああ」と叫ぶ番だった。


「カレン! 」

「わかってる!ウィングフロート! 」


 地面に叩きつけられるギリギリで、俺はふわっとした感覚に襲われ、ゆっくりと地面に降りた。


「ありがとう、カレン」

「うん。でもあの鳥まだ死んでないよ」


 鳥は右翼が無くなっても、左翼で飛ぼうと必死に頑張っている。

 更に俺たちを見て威嚇してくる。

 そんな鳥に俺は近づき、鳥の頭を夏雨で斬り落とした。


「ギャアア……」


 これが鳥やろうの最後の断末魔だった。

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