第14話〜鳥を倒した後〜

 鳥を倒した俺たちは、この鳥をどうするか迷っていた。


「どうする? 」

「とりあえず、くちばし持っていけばいいんじゃない? 」

「あと、羽とか? 」

「いや、こんなにあるんだから、高くないと思うわよ? 」

「じゃあ記念品として持って帰るか」

「初めて倒したってやつ? 」

「そ。ソロ狩り記念品」

「ふふ、いいじゃない」


 カレンは微笑んでいる。

 まるで弟が初めて何かを成功した時に褒めてあげる姉のような表情で。

 カレンはいつもお姉さんのような振る舞い、言動をしているので、俺は弟みたいなものになっている。

 まあそこに不満が無いかと言われれば、少しはあるが、いつものことなので、そこまで嫌ってわけじゃない。


「じゃあ、くちばし落として、帰るか」

「そうね。じゃあウィンドカッター! 」


 鳥のくちばしがカレンの魔術によって落とされた。

 しかしくちばしを落としたは良いが、どうやって持って帰ろう。

 くちばしは40cmくらいだが、持ちづらい。

 俺の鞄の中は他のアイテムでいっぱいだし……

 俺が抱えて持って帰るか。


「よいしょ! っと。意外と軽いな」

「そうなの? 」

「ああ、大きさの割にはって感じだな」

「それは良かったわ」

「あとは羽を……」


 青い羽を1枚むしり取る。


「私ももーらお! 」


 そう言ってカレンも1枚手に取った。


「大きいわね」


 鳥の羽は60cmくらいだったが、軽く、透けていた。


「綺麗ね」

「ああ、そうだな」


 綺麗なものを見るとカレンは子供の様にはしゃぐ。

 クルクルと羽を持ちながらその場で回る。

 栗色の髪に、白いローブ、そこに青い羽が映える。


「……綺麗だな」


 それは羽に対してなのか、それとも……


「ねぇ、そろそろ帰らない? 」

「そうだな。あんまり遅くなってもアガツがうるさいからな」

「ふふ、そうね」


 ダンジョン1日目。

 鳥を倒した後、俺たちはダンジョンを後にした。


 *


 ダンジョンを出た後カレンが聞いてきた。


「ねぇアイテムどうする? 」


 どうするとは、換金するかどうかということだろう。


「うーん、明日で良くないか? 今日は疲れた」

「そうだね」


 そう言って、家路を辿る。

 ダンジョン初日。

 色々な魔物を倒したな。主にカレン『が』だけど……

 で、でも? 俺だって? あの青い鳥を倒したし?

 そこ! カレンの援護があったらもっと楽だっただろとか言うな!

 カレンに任せたら、あの鳥は今頃、焼き鳥だったぞ!

 鳥の気持ち考えてみろ?

 斬殺か、丸焼きか、どっちが良いんだ?

 当然前者でしょ?

 え?殺されたくなかったって?

 いや、それは、この世は弱肉強食で……


「ねぇ、何か変なこと考えてない? 」


 ジト目でこちらを見てくるカレン、いや、カレンさん。

 やめて! ちょっと適当なこと考えてただけなんです! 悪いこと何もしてないんです!

 考えるだけはその人の自由でしょ! ?


「べ、別に、な、なにも……」

「……まぁ、いいわ」

「ありがとうございます」

「何それ」


 そう言って笑うカレン。

 あー、何とか許された。

 そうこうしているうちに、家に着いた。


「ただいま」

「ただいま戻りました」

「おう、おかえり、シキ、カレ……ン? 」

「おっかえりー!

 ね? シキ、カレン、初日はどう……だっ……た? 」


 あ、エリーゼさんも居たんだ。

 2人は振り向きながら、挨拶を返してくれた。

 それにしてもエリーゼさん、もしかして朝からずっと?

 もうなんだよそれ。早く結婚しろよ〜。

 って、2人ともなんだか様子がおかしい。


「な、なぁ、シキ。そ、その手に持っているものはなんだ? 」


 どうしたアガツ。変だぞ? そんなに驚くようなことなのか?


「え? ああ、これ? 何か青い鳥のくちばし……」

「はぁ! ? 」


 え? 次はエリーゼさん?

 俺とカレンは互いを見合いながら、一体どうしたのか? という素振りをする。

 次はカレンが口を開いた。


「あ、あの、アガツさんも、エリーゼさんも、一体どうしたんですか? 」

「いや、どうしたも何も、その、『ブルーファルコンのくちばし』はどうしたんだ? 」


 どうしたんだって。

 いや、どうしたもこうしたも、倒して手に入れるしか無いだろこんなの。

 ていうかあの鳥やろうの名前ブルーファルコンって言うんだー。


「え? これは、シキが倒して……」

「シキが? 1人で? カレンちゃんの助けなしで? 」

「あ、いえ、最後落ちてくる時、助けましたけど、それ以外は……」

「は、はははははは!

 なぁアガツ! コイツらもしかしたら化けるぞ! 」


 エリーゼさんは笑いながら、アガツに問いかける。

 アガツもアガツで「そうだな」とか言ってるし。

 いや、化けるってどういうこと?


「ああ、驚きすぎて説明するの忘れてたわ。

 あのな、お前たちが倒したブルーファルコンって鳥は、シルバーウルフを除いて1層で1番強い魔物なんだ」

「まぁ、それは何となくわかったけど……」

「そいつを未だかつて初日で倒したやつなど、俺は知らん。

 初心者はあいつに、出会ったら、まず逃げる。

 気づかれても、図体が大きいから、細い道なんかに逃げ込むんだ。それであいつが興味を無くすまで、ひっそり隠れる。

 普通はそうやって凌ぐんだ」

「「え? 」」


 俺とカレンは、驚きの声をあげる。

 そして次はエリーゼさんが口を開く。


「私も初日で、ブルーファルコンを倒したやつなんて知らないわ。

 あとそんなに綺麗なくちばしを見るのも久しぶりよ」

「ああ、そうだな。基本的に魔術で傷ついたりするからな。それに羽も綺麗だ。後は爪があれば文句なしだったが、まあそこまで贅沢言わん」


 あ、爪は多分ダメだ。

 切り傷が多分付いている。

 まぁ、今ここに無いから別にどうでもいいけど。


「ていうか! ブルーファルコンを倒した時の状況教えてよ! 」


 エリーゼさんが興味深々でこちら(主に俺)を見てくる。


「話しますから、そんなにガン見しないでください」


 その後俺は鳥やろう基、ブルーファルコンとの戦闘について話した。

 掴み掛かられた所で、刀を使って爪を弾いたこと。

 まぁここまでは、2人とも、「うんうん」みたいな感じで頷いていた。

 その後距離を取って助走をつけたこと。

 この辺りから、ちょっと「うん? 」みたいな感じの反応に。


「それで、助走を利用して、飛び上がって、下から、その、ブルーファルコンの翼を斬って、最後はカレンの魔術で安全に着地。

 その後頭を斬って、倒しました」


 この説明をした時は、2人とも顔を真っ青にしていた。


「えーっと……あの、飛び上がってって一体どれくらい? 」

「どれくらいだっけ? 10mくらいだったっけ? 」

「うん、それくらいだったはず」

「意味がわからん……」


 そう言って額に手を当てるアガツ。


「それって、魔術にほとんど頼ってないってことね。だからこんなにも綺麗に……

 はははははは! 流石だね! 」


 やっぱり笑うエリーゼさん。


「ていうか、私今まで普通に受け入れてたけど、改めて話で聞くと現実味が無いわ……」


 そう言って、呆れたような素振りをするカレン。

 なんだよ、みんなして。

 俺は自分の能力を使って、どうやったら倒せるか、必死に考えて、行動しただけなのに、どうしてこんなリアクション取られなくちゃいけないんだよ。


「いやー、アガツ! あんたの弟子すごいよ! 」

「ああ、凄いな。俺、簡単に超えられた」

「いや、そんな師匠を超えるなんて、そんな」

「剣術ならどうか知らないが、その身体能力は半端じゃない」

「ほんとよ! いやー、カレンちゃんも化け物だけど、シキも化け物だな! ははは! 」


 エリーゼさん、化け物って……

 俺は良いけど、カレンにそれは……


「エリーゼさん! 化け物なんて言わないでください! 」

「ごめんね、カレンちゃん」

「もう! 」


 ほらやっぱり怒った。

 カレンは女の子なのに、魔術の天才だからという理由で、怪物だの化け物だの言われてきたからな。もちろん良い意味でだけど、女の子にその言葉は傷つくだろう。

 俺は、今まで褒められたことが少ないから、化け物呼ばわりでも、褒められているので嬉しい。

 でもなぁ……


「エリーゼさん、俺化け物なんかじゃ……」

「えー。シキも怒るの? 褒めてるのにー」

「褒め言葉でも化け物呼ばわりされて嬉しいやつが居るか! 」

「そうかな?」


 アガツにそう言われて、シュンとしているエリーゼさん。

 しかし俺は本当に化け物なんて言われるくらい強いと思っていない。

 何故なら俺はウィークだからだ。

 魔術も使えない。

 だから、もっと強くならないと……

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