第15話〜仕返し? 〜

 アガツとエリーゼさんが驚いた後、俺たちは夕食を食べる。

 うん、今日のカレンのご飯も美味しい。

 てか、カレン凄いな。

 ダンジョン行ってから、ご飯作るなんて。いくら好きでやっていることだろうとも、俺には無理だ。

 カレンが食器を下げて、台所まで持っていき、食器を洗おうとする。

 うーん、流石に皿洗いまでさせては、カレンの負担が大きすぎるよな。

 そう思い俺は席を立ち、カレンの居る台所へと向かう。


「どうしたの、シキ? 」

「いや、皿洗いやろうかな? って思って」

「え? あ、ああ。別に大丈夫よ」

「じゃあ手伝わせてくれ。それくらいなら良いだろ? 」

「う、うん。わかったわよ。

 なら、洗ったお皿をそこの布巾で拭いてもらえる? 」

「わかった」


 カレンの許可が降り、俺は皿を拭いていく。

 2人して台所に立ってるのなんて、何年振りだろうか。

 後ろでは「仲良いわね」なんてエリーゼさんが言っているが、無視。聞こえない。

 水の音と、皿を拭く音だけが聞こえる。

 そして隣にカレンが居る。

 それだけで不思議と落ち着く。そんな時間。


「ね、こうして台所に並んで立つの、何年振りかな? 」


 カレンが俺に聞いてくる。

 俺は自分がさっき考えていたことと、同じことをカレンも考えていたことに、嬉しくなった。

 でも、正直に言うのは、なんだか悔しいので、少しふざけてみる。


「え? 何……カレン……もしかして、エスパー? 」

「はぁ? エスパーって何よ、エスパーって」

「いや、俺の考えていたことを、どんぴしゃで当ててくるんだもん。そりゃ怖いって」

「ふふ、そんなんだ。シキも同じこと考えてたんだ」


 そう言ってカレンはお姉さんぽく笑う。

 本当に台所に一緒に立ったのはいつ以来だろうか。

 子供の時だったろうか。

 アガツの家に住まわせて貰ってからはあっただろうか。

 俺が1人で皿洗いすることはあっても、カレンと一緒にご飯を作ったりしたことは無いはずだ。

 思い出せない。

 でも、思い出せないことって言うのは、思い出さなくて良いことなのかもな。

 そう思いつつ、水の音と、皿を拭く音だけが聞こえる心地よい時間を楽しんでいた。


 *


 エリーゼさんが家に帰り、俺は風呂掃除をしていた。

 魔術が使えたらすぐなのかなー、なんて毎回思いつつも、手に雑巾を持って洗う。

 とりあえず大雑把に綺麗になったところで、カレンを呼ぶ。


「カレン、お湯を頼む」

「うん。ウォーター」


 そう言って、まず風呂に水を張る。


「ヒート」


 その後、水に熱をかける。


「はい終わり」

「うん、ありがとう」


 と、まぁなんとも魔術が使えれば簡単に、お風呂にお湯が張れるのである。

 アガツも俺も魔術が使えない為、こういうことは、全てカレンに任せるしかない。

 風呂の時だけでは無いが、カレンは他の家事も魔術を使って、簡単に時間短縮している。

 俺はそれを、楽そうだな、なんて思いながら、眺めている。

 しかしカレンは、料理だけは魔術を使わない。

 理由を聞くと、「魔術を使った魔術料理より、手を使った手料理の方が美味しいでしょ? 」と言う。

 魔術料理なんてのはカレンの造語だが、カレンの手料理が美味しいのは確かである。

 まぁ、料理の話はさておき、こういうちょっとしたことも、魔術でできてしまう。

 少しでも魔術が使えれば良かったな、なんていつも考えている。


「何、考えてるの? 」

「いや、別に」


 とは言え、こんな簡単にお湯を張れるのは、カレンくらいなもので、みんながみんな青と赤の魔術が使える訳ではないから、井戸から水を運んでいたり、火をたいてお湯にしたりする。

 カレンが居れば大抵の家事は楽にこなせる!

 一家に1人カレンちゃんはいかが?


「次はな〜に考えてんの? 」

「い、いや、別に、何も」


 ちょっと変なこと考えてると、すぐ勘づきやがる。

 俺もしかして顔に出やすい?

 別に良いじゃねーかよ、考えるだけならタダだし、言わなければ、怒られることも無い。


「ま、いいわ。今日は私が先に入っていい?」

「え? ああ、良いぞ」

「ありがと。実は汗でベタベタだったんだー。

 じゃあ先にいただきます」

「うん」


 そう言って俺は、脱衣所から出て、リビングへ。

 アガツはソファーで横になって寝ていた。

 後で起こさないと。

 とりあえず俺は自室へと戻り、夏雨を取り出し、鞘から抜く。


「美しい……」


 何度見ても、美しい。

 剣より、薄く、細い。それなのに今日の戦闘でわかった。

 折れず、曲がらず、よく切れる。

 あの鳥、ブルーファルコンの翼を根元から斬れるとは思っていなかった。

 あれだけの戦闘で刃こぼれの1つも無い。

 アガツの打った刀は凄いなと、改めて思わされた。

 そんなことを考えていると、扉を叩く音がした。


「出たわよ」


 カレンが一言言ってくれる。


「わかった。じゃあ入ってくる」


 そう言って、カレンの横を通り過ぎ、風呂場へ。

 脱衣所で服を脱ぎ、湯船に浸かる。

 はぁ〜。

 今日は疲れた。

 初めてのダンジョンで、鳥やろう基、ブルーファルコンを倒した。

 それに倒し方が豪快だったよな。

 俺自身あんなに跳ぶなんて思ってなかったし。

 そりゃあアガツもエリーゼさんも驚くよな。

 はぁ〜眠い。

 っと、風呂で寝たらダメだ。早く出よう。

 俺は風呂を出て、アガツを起こした後、自室へと戻った。


「あ、おかえり。今日は早かったのね」


 なんで?


「さてと。ん? どうかした? 」


 どうして?


「どうしてなんにも言わないの? 」

「どうしてカレンが俺の部屋に居るんだ?

 それにどうして俺の布団の中に居る? 」


 そうなのだ。

 カレンは俺の布団の中に居たのだ。

 部屋に入ったら声が聞こえてきたからびっくりして、何も反応できなかったよ!


「どうしてって、どうしてだろ? へへ」


 へへってなんだ、へへって!

 くそ! いつもお姉さんぽく振舞ってる癖に、ふとした時子供っぽくなるの反則だろ!


「まぁもういいけど、とりあえず俺疲れてるから、早く寝たいんだけど……」

「寝たら良いじゃない」

「だから! カレンが居たら寝れないだろ! 」

「え〜? 私居たら寝れないの?

 この前一緒に寝たのに? 」

「いや、あれは……」

「まぁ良いから早くこっち来なよ」


 そう言ってカレンは掛け布団をめくり、トントンと俺に来るように促す。

 カレンのパジャマは相変わらずの白。


「あのー、本気、ですか?カレンさん? 」

「……本気じゃ無かったら……こんなことしてない……」


 あー! もう! どうして顔赤らめる!

 どうしてさっきまで余裕っぽく振舞ってたのに、いきなり照れる!


「はぁ、もう分かったよ」


 俺は折れた。

 そしてカレンの隣へ寝転がり……


「ね、ねぇ、シキ?

 ど、どうして、こっち、向いてるの? ? 」

「え? 別にどっち向いたって、俺の勝手だろ? 」


 そう、少しだけ仕返しをした。

 と言っても、カレンの方を向いて、余裕な態度を取るだけ。

 それでもカレンは良い反応をしてくれる。


「いや、そうだけど、そうだけど〜〜〜〜〜」

「別に嫌ならカレンが向こう向いたら良いだろ? 」

「え? いや、それは、なんか負けた気がするし……」


 なんだよ、負けた気がするって!

 俺が負けそうだわ。

 仕返しのはずが、仕返しされそうになっているのだが……

 まだだ、俺は余裕だ。

 おちゃらけるんだ。


「なに、その負けた気がするって。

 我慢大会か何かかよ」

「うーん、ある意味そうかも」

「どうしてだ? 」

「向こう向いたら、シキの顔見れない……」


 え?

 いやいやいや、いやいやいやいや。

 そこまでストレートに言われると、余裕な態度取れなくなるんですが? ?

 あー、なんか今日暑くない?


「そ、そうか……」


 そうかってなんだよ、そうかって。

 どもるし。

 余裕もへったくれもねーなおい!


「うん、この前はシキ、すぐそっぽ向いちゃって、顔全然見れなかったし……」


 ダメ! もうこれ以上は、これ以上は!


「すいませんでしたカレンさん」

「ふふ、私の勝ち! 」


 俺はカレンより先に逆方向を向いてしまった。

 カレンは、嬉しそうにお姉さんぽく笑う。


「おやすみ、シキ」


 そしてカレンはまた俺に抱きついてきて、俺を抱き枕のようにする。


「ああ、おやすみ、カレン」


 ああ、また眠れない夜を過ごすことになりそうだ。

 明日はダンジョン潜れるかな……

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