第11話〜それぞれの夜〜
冒険者カード的な物を作った俺たちは、アガツとエリーゼさんに言われて、今日は帰ることになった。
俺は早くダンジョンに行きたいのに。
そして『9層者』を目指したい。
師匠がなったのなら俺も、と思うのは自然な事だ。
しかしアガツは、ダメだと言う。
今日は大人しく帰るぞと。
「どうしてだよ? 」
「いやお前、武器どうするんだよ」
「あ……」
「まさか素手で行こうとしてたのか?
格闘家ならわからんでも無いが、お前は違うだろ」
「違う……」
「だろ。格闘家でも無い限り、武器なしでダンジョンへ潜るなんざ、馬鹿のやることだ。
わかったなら大人しく帰るぞ」
「わかったよ。でも武器はどこで調達するんだよ」
俺は失言したと、言った後思った。
アガツからの怒声が飛んでくる、そう思った瞬間、エリーゼさんは笑っていた。
「あはははははははは! ! ! !
シキ、お前、武器どこで調達するんだって、ははは!
目の前に鍛冶屋いるじゃん、ははは! 」
「お前はなぁ……」
「あ、それともアガツの腕じゃ不安だって?
不安なんだってアガツ、ははは! お腹痛いいいい。あははははは! 」
「うるせぇぞエリーゼ!
それにシキもだ。お前俺の武器じゃ不満か? 」
「そ、そんなこと……」
「なら、黙って俺の武器使え! 」
「はい! 」
結局怒られた。
エリーゼさんはまだ笑ってるし。
カレンは微妙な顔をしてるし。
でも、アガツは俺にアガツの武器を使うことを許してくれた。
素直に嬉しかった。
エリーゼさんはひとしきり笑ったあと、俺の方へ寄ってきて、一言。
「よかったなシキ。武器作ってもらえるって」
「はい。あれは失言でした」
「だよね〜。でも良かったじゃん」
「はい、エリーゼさんのおかげです」
「じゃ、貸し1つね」
「は、はい……」
あ〜、1番貸しを作りたくなかった人に貸しを作ってしまった。
何を頼まれるのだろう。後が怖い。
*
エリーゼさんに笑われた後、俺とアガツはそのまま家へ、カレンとエリーゼさんは「女子同士の秘密よ」とかなんとか言って、どこかへ行ってしまった。
カレンは今日帰ってこないだろう。
アガツが夕ご飯を作ってくれ、夜になった。
「シキ、着いてこい」
そう言われ、俺はアガツの工房へ足を運ぶ。
「シキ、木刀の具合はどうだった? 」
新しい武器のことを尋ねられた。
なるほど、どういう具合だったか知りたかったのだろう。
しかし、それならば何故ここで?
とりあえず、使い心地を伝える。
「良かったです。軽いですけど、丈夫で、力というより、疾さ、技が必要になってくると思いました。
そこまで力が無い俺には合ってると思います」
「そうか。木剣を木剣で折る力が、無いとはあまり思わんがな。シキが思うのならそうなのだろう」
あ〜そういや木剣折ったんだったわ。
だけど、あの時だけだったし、アガツなら受け止められると思ったから、あれだけ力を出せた。
カレンには、そこまで力が出せなかった。
無理だよ。
「まぁいい。それより、お前さんに渡さなくてはいけないものがある」
なんだ? あ、武器!
やった! なんだろ?
でもアガツが作った武器だ、どれも一級品。
剣かな? 剣が良いな。
「これだ」
鞘に入った剣? が渡された。
「抜いてみろ」
「はい」
俺は剣を抜いた。
刃は片方にしかなく、刃の先は反り返り、刃には美しい刃文が浮かび上がっていた。
「美しい……」
俺は思わず言葉を漏らしていた。
この世にここまで美しいものがあるのか、と。
「そうだろう。薄く、細く、美しい。
叩きつける、などと言った木剣の様な使い方はできずとも、強度は十分。
『折れず、曲がらず、良く切れる』とは良く言ったものだ」
「こ、これを、俺に? 」
「ああ、そうだ。何年も前から東の国の剣を研究して、完成させた、俺の最高傑作の1つ。
名を『
「夏雨」
「ああ、夏雨。気分屋のお前さんにはピッタリな刀だろう。
なぁ、シキ」
「はい」
「こいつと一緒に頑張れ」
「はい」
「こいつを、俺も見たことの無い場所まで連れて行ってやってくれ」
「はい」
「それと……」
アガツは少し迷いながらも、決心を決めたという風に、言葉を吐き出す。
「死ぬなよ」
「はい」
その後俺は少しおどけて見せて……
「だって、夜はみんなでご飯を食べなくちゃいけないですもんね」
アガツは少し照れていた様な、それでも嬉しそうな顔をしていた。
*
カレンとエリーゼは、エリーゼの家に居た。
「エリーゼさんの家は何度か来たことありますけど、今日は久しぶりですね」
「そうか。まぁ上がってよ」
「はい。……お邪魔します」
エリーゼの家は、他の家と同じように木製だが、他の家より少し大きい。
しかし中は、相も変わらず、エリーゼが飲み食いしたであろうものが、そのまま残っていた。
カレンは少し顔を引き攣らせながらも、エリーゼの家に。
「この前片付けたんだけどね。すぐこんなんになっちゃって……」
言い訳をするエリーゼは苦笑いしていた。
カレンはどこへ座れば良いのかわからなかった。
「あ〜ごめんねカレンちゃん。今日はこっち」
エリーゼに言われ、カレンはエリーゼの家で唯一入ったことの無い部屋に連れられる。
そこは他の部屋とは異なり、綺麗に整理されていて、いや、逆にされすぎている。
部屋にはベッドと数冊の魔術書のみ。
殺風景にも程がある。
「ここはね、あたしの寝室。って言っても何も無い」
カレンは少し不安になった。しかし次の言葉で、その不安は別の不安へと変わる。
「何にも無い。あたしみたいだ。
見回り隊と言っても、非正規。いわば傭兵みたいなもの。
アガツのように、鍛冶という仕事も無い。
それに、カレンちゃんや、シキくんのように、誰かを守りたいって言う、強い意志も無い。
何も無いから、何かあるように見せかけて、部屋を物でいっぱいにしたくなる。
誰かと関わることで、何かあるように見せかける。
本当のあたしはなんにも無いのにね」
「そ、そんなこと……無いと……」
「無いこと無いんだよね。
今だって空っぽの笑顔を貼り付けてる。
いつも空っぽの笑顔を見せてる。
だからね、私はカレンにこの部屋を見せて、言わなきゃいけないことがあるの」
エリーゼはこれが最後の授業だと、特訓だと言わんばかりに、カレンに言う。
その顔は少し辛そうで……
「カレン。
昨日のカレンからは、想像できない程良い目になった。
今のカレンなら、絶対に死ぬことは無い。
なぜなら、今のカレンは守りたいものをどうすれば守れるか、それが明確にわかったから。
何かあるなら、その何かを手放さないようにしな。
そうじゃないと一生後悔することになるよ」
エリーゼの言葉はカレンに突き刺さる。
昨日、エリーゼから、死ぬと言われ、シキに励ましてもらい、絶対に死ぬことは無いと言われた。
それは素直に嬉しかった。
しかしカレンはエリーゼの言葉が全て真実とは思えなかった。
「エリーゼさんは、空っぽなんかじゃないと、思います」
「……そう」
「はい。エリーゼさんには、私がいます」
「すぐに離れていくよ」
「そうかもしれません。私はシキを守らなくちゃいけないので」
「ほら。どうせみんなあたしから……」
「でも! 」
エリーゼはカレンが言葉を遮り、大きな声をあげたことにびっくりしてしまった。
カレンは普段大きな声は出さないし、ここまで強く言われたことは初めてだった。
「私も、シキも、エリーゼさんの元を離れる時が来るかもしれません。
でも、アガツさんだけは別です。
あの人はなんだかんだ言っても、私たちを心配してくれています。
私たちの側にいてくれます」
カレンはアガツのことを信頼している。
村が襲撃され、全焼した時、何故かアガツが居て、運良く助けられて、その上家に住まわせてもらった。それは今も続いている。
普通、そんな意味の無いことはしない。
助けたのなら、売ればいい。
それでも、アガツはそんなことせず、シキの師匠になり、カレンにエリーゼを紹介し、シキとカレンの親代わりになった。
その恩を強く感じているカレンだからこそ、アガツのことを強く言える。
「アガツさんは、関わった人を関わり続けるまで見捨てたりしない。
だからエリーゼさん、あなたにはアガツさんがいます。
それにまだ私たちもいます。
何も無いなんて、そんな寂しいこと言わないでください」
何も無いと思っていたエリーゼは、カレンの言葉で気付かされる。
同じパーティから離れてしまってからは、接点が無かった。
カレンが現れてから、また接点が持てた。
1度空っぽになったエリーゼの元にアガツが現れた。
だから何も無いなんて、嘘だった。
そう思い込んでいただけだったのだと、気付かされた。
「……ふふ。そうだったのね」
エリーゼはカレンに聞こえないように呟く。
カレンは、何を言ったのか聞こえず、どう対応すればいいかわからなかった。
「いや、男に慰めてもらった女は強いなって」
それでも、今までの性格は直ぐには変えれず、またおどけてみせる。
するとカレンは顔を真っ赤にした。
「何顔を真っ赤にしてんのよ。
そんなの初めからお見通しだったんだからね。
今更よ今更」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! 」
「さぁーて、昨日何があったか根掘り葉掘り聞かせてもらうよ!
今日は帰さないからね! 」
カレンはさらに顔を真っ赤にし、もうエリーゼの顔は見れないとばかりに、顔を逸らす。
エリーゼカレンのその仕草が可愛く、またからかいたくなったが、さすがに辞めた。
その代わり、心で呟く。
『カレン、ありがとう』と。
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